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夢のつづき 11
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良太の運転するジャガーはホテルを出て青山通りを走り、外苑東通りに入る。
後部座席に乗り込んだ工藤はいくつか電話をしていたが、妙に静かだ。
良太が何気なくバックミラーを見ると、携帯を片手に窓に目をやる工藤の横顔には疲労の色がはっきり現れている。
そんな工藤を見ると、また心が軋む。
ただでさえここのところオーバーワークもいいとこなのに、今日の事件であちこちの仕事に支障をきたしたはずだ。
それを挽回するために、また、オーバーワークかよ。
ハンドルをきりながら、良太は自分の無力さが情けなくなる。
『へっぴり腰のくせに、威勢だけはいっちょまえかよ』
まさしく戦場を通り抜けてきたような有吉からみれば、良太など能天気なお気楽野郎に見えるのだろう。
どんなに背伸びしたところで、有吉や工藤と渡り合えるほどの力などないのだ。
会社まで十五分ほどの道のりが重かった。
オフィスのドアを開けると、よう、と下柳が手を上げた。
「えらい目にあったって? 有吉のヤツに聞いたよ」
「ヤギさん。お疲れ様です」
「どうしたんだ? まだ何かあったか?」
無愛想に言って、工藤はコートをソファに放り、奥のデスクに向かう。
「別件だ。アフリカ行く前にお前の耳に入れとこうと思ってな」
それから二人はぼそぼそと話し始めた。
てっきり工藤の雷が落ちるのを覚悟していた良太だが、下柳のお陰でとりあえず免れそうではある。
逆に何となく疎外感を覚えながら、戻ってからやるはずだった仕事を片付け始めた。
「じゃあ、お先に失礼するわね」
コートを羽織ながら鈴木さんが言った。
「お疲れ様です」
「良太ちゃんもあんまり無理しないのよ」
「はい。大丈夫です」
心配してくれる鈴木さんの言葉に、良太はほっとする。
「あら、とうとう降り出したわね、雨」
「ですね」
予報では明け方にかけて雨が強くなるようなことを言っていた。
「出かけてくる」
しばらく二人で難しい顔を寄せて話していたかと思うと、工藤はまたコートを手にたったかドアに向かう。
「お邪魔。良太ちゃんもアフリカ、行けたらよかったのになー」
明日のフライトだというのに、下柳は暢気そうなことを言いながら工藤と一緒に出かけていく。
「おい、良太、仕事はいい加減に切り上げろ。わかったな」
ドアを閉める寸前、工藤はそう念を押して出て行った。
「ちぇ、何だよ、勝手なこと言いやがって。あんたこそ、そのうちどっかでのたれ死んだって俺は骨なんか拾ってやんねーからなっ!」
ひとしきり吼えまくると、誰もいなくなったオフィスで、良太はひとり黙々と仕事を続けた。
いい加減に切り上げろなどと言われればかえって反発してしまう自分に呆れながらも。
そういえば、とふと芽久のことを思い出して良太はキーボードをたたく手を止める。
やっぱり岸が何か危害を加えたりしないかと心配してガードしてただけなんだ。
ってことにしといてやるか。
いつも工藤の前に女が現れるたび、今度こそ行ってしまうのかな、とちょっとは覚悟を決めるのだけど。
あまり往生際はよろしくないからな、俺。
痛いよ、ここが。
良太は胸に拳を置いてみる。
「さてと、そろそろ切り上げるか」
時計の針はもう今日を過ぎようとしていた。
後部座席に乗り込んだ工藤はいくつか電話をしていたが、妙に静かだ。
良太が何気なくバックミラーを見ると、携帯を片手に窓に目をやる工藤の横顔には疲労の色がはっきり現れている。
そんな工藤を見ると、また心が軋む。
ただでさえここのところオーバーワークもいいとこなのに、今日の事件であちこちの仕事に支障をきたしたはずだ。
それを挽回するために、また、オーバーワークかよ。
ハンドルをきりながら、良太は自分の無力さが情けなくなる。
『へっぴり腰のくせに、威勢だけはいっちょまえかよ』
まさしく戦場を通り抜けてきたような有吉からみれば、良太など能天気なお気楽野郎に見えるのだろう。
どんなに背伸びしたところで、有吉や工藤と渡り合えるほどの力などないのだ。
会社まで十五分ほどの道のりが重かった。
オフィスのドアを開けると、よう、と下柳が手を上げた。
「えらい目にあったって? 有吉のヤツに聞いたよ」
「ヤギさん。お疲れ様です」
「どうしたんだ? まだ何かあったか?」
無愛想に言って、工藤はコートをソファに放り、奥のデスクに向かう。
「別件だ。アフリカ行く前にお前の耳に入れとこうと思ってな」
それから二人はぼそぼそと話し始めた。
てっきり工藤の雷が落ちるのを覚悟していた良太だが、下柳のお陰でとりあえず免れそうではある。
逆に何となく疎外感を覚えながら、戻ってからやるはずだった仕事を片付け始めた。
「じゃあ、お先に失礼するわね」
コートを羽織ながら鈴木さんが言った。
「お疲れ様です」
「良太ちゃんもあんまり無理しないのよ」
「はい。大丈夫です」
心配してくれる鈴木さんの言葉に、良太はほっとする。
「あら、とうとう降り出したわね、雨」
「ですね」
予報では明け方にかけて雨が強くなるようなことを言っていた。
「出かけてくる」
しばらく二人で難しい顔を寄せて話していたかと思うと、工藤はまたコートを手にたったかドアに向かう。
「お邪魔。良太ちゃんもアフリカ、行けたらよかったのになー」
明日のフライトだというのに、下柳は暢気そうなことを言いながら工藤と一緒に出かけていく。
「おい、良太、仕事はいい加減に切り上げろ。わかったな」
ドアを閉める寸前、工藤はそう念を押して出て行った。
「ちぇ、何だよ、勝手なこと言いやがって。あんたこそ、そのうちどっかでのたれ死んだって俺は骨なんか拾ってやんねーからなっ!」
ひとしきり吼えまくると、誰もいなくなったオフィスで、良太はひとり黙々と仕事を続けた。
いい加減に切り上げろなどと言われればかえって反発してしまう自分に呆れながらも。
そういえば、とふと芽久のことを思い出して良太はキーボードをたたく手を止める。
やっぱり岸が何か危害を加えたりしないかと心配してガードしてただけなんだ。
ってことにしといてやるか。
いつも工藤の前に女が現れるたび、今度こそ行ってしまうのかな、とちょっとは覚悟を決めるのだけど。
あまり往生際はよろしくないからな、俺。
痛いよ、ここが。
良太は胸に拳を置いてみる。
「さてと、そろそろ切り上げるか」
時計の針はもう今日を過ぎようとしていた。
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