夢のつづき

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夢のつづき 8

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 ACT 3


『花の終わり』がクランクアップし、ホテル赤坂で制作発表が行われる当日も、どんよりと雲の多い空が東京の街を見下ろしていた。
 良太が控え室を訪ねると、山野辺芽久がいつにも増して不機嫌だった。
 というより、何かを気にして心ここにあらずという感じである。
 彼女の現在のマネージャーの今井はまだ若く、マネージャーというより付き人というようすで、何でも芽久の言うことにははいはい、と従っているだけのようだ。
 これじゃ、芽久が相談する気にもなれないというのは仕方ないかもしれないな、と良太は思う。
 ポケットの中で、マナーモードに設定してある携帯がブーブーと振動する。
「はい、あ、はい…」
 当初会見場に顔を出すつもりはないと言っていた工藤からで、今から出向くという。
『会見の前に、有吉らとの打ち合わせをホテルのラウンジでやる。一時に手配しておけ。お前も顔を出せ』
 例によって一方的に命令口調で告げると、良太の返事もそこそこに携帯が切れる。
 良太は岸のことや『花の終わり』の会見のことで飛び回っていたので、レッドデータの取材で翌日アフリカに発つという有吉らとの打ち合わせに参加するのは無理だと思っていたのだが。
 おそらく工藤も岸のことが気になって、ホテルに来ることにしたのだろう。
 最初は邪険にしていたくせに、実はそんなにあの人が大事なんかよっ!
 ついついヤキモチが頭をもたげるが、もしかすると芽久も思った以上に岸に悩まされているのかもしれないと、良太はつい昨日小田から届いた岸賢次郎の調査データのことを思い出した。
 岸は最近所属していた演劇集団でももめごとを起こし、そこも辞めて今はフラフラしているだけという。
 どのみちその劇団にいたとしても生活が潤うわけでもなかっただろうが、どうやら借金があちこちにあり、胡散臭い連中が岸の周りをうろついているらしい。
 おそらく返済を迫られ、芽久にたかろうとして断られ、工藤が自分から芽久を奪ったせいで自分が転落したのだ、と逆恨みして工藤を脅しているのだろうとは想像に難くない。
 芽久のマンションもつきとめ、そのあたりに岸が出没していたこともわかっている。
 あの怯えようから察するに芽久も何らかの脅しや嫌がらせを受けていたのだろう。
 だが、脅されていると工藤や芽久が言わない限り警察にも届けようもない。
 一度芽久の控え室を覗いて彼女のようすをチェックしてから、控え室でスタンバっている他の出演者に挨拶すると、良太は慌ててリザーブしておいたラウンジに向かう。
 ラウンジを見回すと、見覚えのあるダンヒルのスーツに気づいた。
 既にアフリカに発つ予定の有吉と下柳、カメラマンの葛西らと話しこんでいる。
 岸のことで工藤にまさか何かあったらと、やきもきしていた良太は、その顔を見ただけでほっとして、何やら目の奥につんとしたものが走る。
「すみません、遅くなりました」
「おっせーぞ、プロデューサー」
 良太が席に着くなり、有吉の低い声が揶揄した。
 パワスポの大山のように陰険な雰囲気はないが、明らかに自分を攻撃しているように、良太には思える。
 下柳と葛西の熱弁に、たまに口を挟む工藤とほんのたまーにボソッと的を得た言葉を口にするのが有吉だ。
 もともと彫りの深い顔立ちは日焼けて無精ひげも手伝い、日本人と言われなければわからない。
 精悍な鋭い目つきはそれだけで何者かと周りのものを振り返らせる。
 そりゃ、そんなワールドワイドな男からみたら、俺なんか能天気な面下げてるだろうさ。
 つい、そんな言葉を心の中で有吉にぶつけながら、打ち合わせの内容をメモり、頭の中で良太なりにシュミレーションさせていく。
「で? 広瀬プロデューサー殿には何かご意見はないのかな?」
 ニヤリと笑う、口数の少ない言動のひとつがこれだ。
「視聴者に自然の本当の声を伝えるためには、予定されている三人のナビゲーターの方々にも、どこかで生の実態を見ていただくことが必要だと思っています」
 良太も咄嗟に正直なところを口にする。
「これだからド素人はな。これから行くところは俺らでも危険を承知で乗り込むようなとこだ。んなジャングルの奥地なんかへ、タレントなんか連れて行けるか。何とか探検隊とかってな、でっちあげとはわけが違うんだぜ」
「例え究極の未開地域に行くのは無理だとしても、ある程度の片鱗は自分の目で見ないとナビゲーターの意味がないと思いますが」
 ちょっとムキになって良太も言い返す。
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