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Tea Time 14
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「じゃ、単刀直入に聞くが、いったい幸也と何があったんだ?」
「別に何も」
武人が心配してくれるのは分かるが、勝浩には言うべき言葉が見つからなかった。
「何もなくて何でそうなる? せっかく山で仲直りして、二人ともいい感じだったじゃないか」
「仲直りって………」
勝浩は立ち止まるとちょっと笑う。
「仲直りしただけでよかったんじゃないかな、ほんとは」
「はあ?」
「多分、高校の先輩後輩ってだけでとどまっていればよかったんですよ」
「何言ってるんだよ」
「幸也さん、無理してた」
訝しげに問い返す武人に、勝浩は言った。
「俺が好きだって言ったから、きっと俺に対する罪悪感もあって、俺に合わせようとしてくれたけど、やっぱ無理があったんですよ」
「何がだよ、お前、奈央さんとこで志央が言ったことなんか真に受けるなよ。あいつはとっくにタラシ返上してるし、第一、あんだけ大事にされてたのに気づかなかった鈍感志央が何をかいわんやだ!」
言ってから武人はまずいと思ったが、あとの祭りというやつだ。
「志央さんだったら、幸也さんも無理をすることなんかなかったんだ。俺は志央さんにはなれない」
「バカ言ってんなよ、何でお前が志央になるんだ、お前はお前だろう?」
「価値観の相違ってあるじゃないですか。俺と幸也さんじゃ違い過ぎる」
「んなもん、お前、人間それぞれ価値観なんか違うに決まってるだろ!」
「奈央さんとこで、一言もなかったんですよ」
「え………?」
武人はちょっと言葉に詰まる。
「あれが、幸也さんの出した答えなんだなって」
「待て待て待て! いいか、幸也のヤツは………」
「タケさん、これから編集部でしょ? 早く行かないとおっかないライターさんに雷落とされますよ」
武人の言葉を遮るように、勝浩は言った。
「じゃ、がんばってください」
さっさとユウと大学の門を出て行く勝浩に向かって、「可愛くないぞ!」と武人が言い放つと、「俺が可愛くなかろうと誰にも迷惑かけません」と返ってくる。
全く。
武人は腕組みをしてしばらくそこに突っ立っていた。
よくない傾向だぞ、勝っちゃん。
後ろ向きに、内へ内へと感情を押し込め、ハリネズミどころかヤマアラシのようにバリヤーを張り巡らせて何も寄せつけないつもりのようだ。
そんなことを考えながら上の空で編集部に向かった武人は、打ち合わせの途中で年配のライターに話を聞いていないとどやされる。
散々な一日を過ごして家に戻ってきたところへ携帯が鳴った。
「おう、幸也か。俺も電話しようと思ってたところだ。あ? 何だって? 猫の世話?」
明日から出かけるから、猫の世話をしろ、説明するから今から来いと言う。
「お前、人使い荒いってか、俺はお前の子分じゃねんだぞ!」
元来世話好きな性分の自分に呆れながら、武人は車を飛ばして幸也のマンションに向かった。
一人暮らしをしようと思いつつ、親に出してくれという性分ではないし、自分で借りるとなると車の維持から大変なので、武人は未だに実家にいる。
勝浩の場合、部屋の家賃は親が出してくれているようだが、バイトで自分とユウの生活費や研究会の活動費の上に、車まで自分で何とかしようと考えているらしい。
「確かに、億ション、ポンと買ってもらって悠々自適、経済観念なしの幸也とじゃ、価値観違うかもな。けど、逆に親に気つかいすぎだっつうの。勝っちゃんは」
裕子とすっかり仲良くなっている武人は、勝浩がそれこそ無理しすぎている、もっと甘えてくれてもいいのに、と裕子から愚痴られたこともある。
継母といっても、幼稚園の頃から裕子にピアノを習っていた勝浩は裕子によくなついていて、生まれてすぐ母親に死に別れて母親というものを知らないせいか、実の母子のように過ごしてきたという。
ただ、幼い頃から厳しい祖父母に躾けられて、勝浩は礼儀正しい、優等生だと裕子が言っていた。
「価値観がちょっと違うくらい、何だってのよ」
まあ、世の中のカップルが別れる原因の理由の一つがそれらしいが。
ぶつぶつ呟いているうちに車は青山の幸也のマンションに着いた。
「どこ行くんだよ。猫の世話しろだ? んなもん、あの自動のペットフード装置があるんだし、ほっときゃいいだろ」
「トイレが汚れる」
「それも自動で、一週間は大丈夫ってやつじゃなかったのかよ?」
「俺はいやなの。第一、猫だけでおいとくって気にはなれねぇんだよ」
トランクに衣類や本を詰め込みながら、幸也は言った。
「だから、どこ行くって?」
「ウイーンだ。お前んとこにも連絡きただろ」
「げげ、ひょっとして、じいさんのオペラにつき合うん? お前」
武人は意外そうな顔で、幸也を見る。
ウイーンにいる祖父から遊びに来ないかという誘いはあったことはあった。
「お前断ったんだろうが。仕方ねーから俺が行くんだよ」
「ったい、どういう風の吹き回しだ? オペラなんてたるいもん観られるかとか言ってたくせによ」
世話をしろといわれている猫は二つ、毛の長いのと短いのがソファで団子になってまるくなっている。
「いい年だからな、オペラもちゃんと観てみるのもいいかって」
「ほお? ドンジョバンニ? モーツァルトね~、で? 明日行くって? いつまで」
武人はテーブルの上に無造作に置いてあった飛行機のチケットを手に取る。
「一週間。ちょうど実験終わってキリがいいし」
「いいけどね。その前に、お前、勝っちゃんのこと、どうするつもりだよ」
幸也の手が止まる。
「このまま勝っちゃんのこと放っといていいのかよ」
「気になるんなら、お前がかまってやれば」
「何で俺が?」
あくまでも他人事のように言う幸也に、武人はイラっとして声を上げた。
「だから!」
幸也はくるりと武人を振り返る。
「別に何も」
武人が心配してくれるのは分かるが、勝浩には言うべき言葉が見つからなかった。
「何もなくて何でそうなる? せっかく山で仲直りして、二人ともいい感じだったじゃないか」
「仲直りって………」
勝浩は立ち止まるとちょっと笑う。
「仲直りしただけでよかったんじゃないかな、ほんとは」
「はあ?」
「多分、高校の先輩後輩ってだけでとどまっていればよかったんですよ」
「何言ってるんだよ」
「幸也さん、無理してた」
訝しげに問い返す武人に、勝浩は言った。
「俺が好きだって言ったから、きっと俺に対する罪悪感もあって、俺に合わせようとしてくれたけど、やっぱ無理があったんですよ」
「何がだよ、お前、奈央さんとこで志央が言ったことなんか真に受けるなよ。あいつはとっくにタラシ返上してるし、第一、あんだけ大事にされてたのに気づかなかった鈍感志央が何をかいわんやだ!」
言ってから武人はまずいと思ったが、あとの祭りというやつだ。
「志央さんだったら、幸也さんも無理をすることなんかなかったんだ。俺は志央さんにはなれない」
「バカ言ってんなよ、何でお前が志央になるんだ、お前はお前だろう?」
「価値観の相違ってあるじゃないですか。俺と幸也さんじゃ違い過ぎる」
「んなもん、お前、人間それぞれ価値観なんか違うに決まってるだろ!」
「奈央さんとこで、一言もなかったんですよ」
「え………?」
武人はちょっと言葉に詰まる。
「あれが、幸也さんの出した答えなんだなって」
「待て待て待て! いいか、幸也のヤツは………」
「タケさん、これから編集部でしょ? 早く行かないとおっかないライターさんに雷落とされますよ」
武人の言葉を遮るように、勝浩は言った。
「じゃ、がんばってください」
さっさとユウと大学の門を出て行く勝浩に向かって、「可愛くないぞ!」と武人が言い放つと、「俺が可愛くなかろうと誰にも迷惑かけません」と返ってくる。
全く。
武人は腕組みをしてしばらくそこに突っ立っていた。
よくない傾向だぞ、勝っちゃん。
後ろ向きに、内へ内へと感情を押し込め、ハリネズミどころかヤマアラシのようにバリヤーを張り巡らせて何も寄せつけないつもりのようだ。
そんなことを考えながら上の空で編集部に向かった武人は、打ち合わせの途中で年配のライターに話を聞いていないとどやされる。
散々な一日を過ごして家に戻ってきたところへ携帯が鳴った。
「おう、幸也か。俺も電話しようと思ってたところだ。あ? 何だって? 猫の世話?」
明日から出かけるから、猫の世話をしろ、説明するから今から来いと言う。
「お前、人使い荒いってか、俺はお前の子分じゃねんだぞ!」
元来世話好きな性分の自分に呆れながら、武人は車を飛ばして幸也のマンションに向かった。
一人暮らしをしようと思いつつ、親に出してくれという性分ではないし、自分で借りるとなると車の維持から大変なので、武人は未だに実家にいる。
勝浩の場合、部屋の家賃は親が出してくれているようだが、バイトで自分とユウの生活費や研究会の活動費の上に、車まで自分で何とかしようと考えているらしい。
「確かに、億ション、ポンと買ってもらって悠々自適、経済観念なしの幸也とじゃ、価値観違うかもな。けど、逆に親に気つかいすぎだっつうの。勝っちゃんは」
裕子とすっかり仲良くなっている武人は、勝浩がそれこそ無理しすぎている、もっと甘えてくれてもいいのに、と裕子から愚痴られたこともある。
継母といっても、幼稚園の頃から裕子にピアノを習っていた勝浩は裕子によくなついていて、生まれてすぐ母親に死に別れて母親というものを知らないせいか、実の母子のように過ごしてきたという。
ただ、幼い頃から厳しい祖父母に躾けられて、勝浩は礼儀正しい、優等生だと裕子が言っていた。
「価値観がちょっと違うくらい、何だってのよ」
まあ、世の中のカップルが別れる原因の理由の一つがそれらしいが。
ぶつぶつ呟いているうちに車は青山の幸也のマンションに着いた。
「どこ行くんだよ。猫の世話しろだ? んなもん、あの自動のペットフード装置があるんだし、ほっときゃいいだろ」
「トイレが汚れる」
「それも自動で、一週間は大丈夫ってやつじゃなかったのかよ?」
「俺はいやなの。第一、猫だけでおいとくって気にはなれねぇんだよ」
トランクに衣類や本を詰め込みながら、幸也は言った。
「だから、どこ行くって?」
「ウイーンだ。お前んとこにも連絡きただろ」
「げげ、ひょっとして、じいさんのオペラにつき合うん? お前」
武人は意外そうな顔で、幸也を見る。
ウイーンにいる祖父から遊びに来ないかという誘いはあったことはあった。
「お前断ったんだろうが。仕方ねーから俺が行くんだよ」
「ったい、どういう風の吹き回しだ? オペラなんてたるいもん観られるかとか言ってたくせによ」
世話をしろといわれている猫は二つ、毛の長いのと短いのがソファで団子になってまるくなっている。
「いい年だからな、オペラもちゃんと観てみるのもいいかって」
「ほお? ドンジョバンニ? モーツァルトね~、で? 明日行くって? いつまで」
武人はテーブルの上に無造作に置いてあった飛行機のチケットを手に取る。
「一週間。ちょうど実験終わってキリがいいし」
「いいけどね。その前に、お前、勝っちゃんのこと、どうするつもりだよ」
幸也の手が止まる。
「このまま勝っちゃんのこと放っといていいのかよ」
「気になるんなら、お前がかまってやれば」
「何で俺が?」
あくまでも他人事のように言う幸也に、武人はイラっとして声を上げた。
「だから!」
幸也はくるりと武人を振り返る。
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