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Tea Time 12
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「あら~、お久しぶりね~、あなたもあのいたずらっ子のまんま大きくなったわね~志央ちゃん。覚えていてくださって光栄だわ」
「やだな~俺、もう全然大人ですよ~いたずらっ子はないでしょお、センセ」
「あら、だってあの時のカエル事件、未だにうちの教室では伝説なのよ、ね、勝っちゃん」
そういわれて裕子の影に隠れるように後ろに立っていた勝浩がそれを肯定するでもなく「お邪魔します」とおざなりな挨拶をした。
何しろ、勝浩もまさかこういうこととは思ってもいなかった。
父親の出張中、ショッピングにつき合った母から懐かしい方からお誘いいただいたから、送って欲しいといわれて、武人から借りているミニで言われたとおりやってきたのが、ここだったのだ。
「勝浩じゃん、何でセンセと一緒なんだよ?」
志央は久しぶりも言わないうちから既にジャイアン口調だ。
「何ゆってるの、志央、裕子先生、勝浩さんのお母様じゃない」
「え~~~、ウッソー!」
奈央に言われて志央は本当に驚いた顔をする。
「あなたは大人っぽくなったわね~、ユキちゃんでしょ? 志央ちゃんと一緒によくうちにいらしてた」
にこにこと問いかけられて、しばしこの状況に固まっていた幸也はようやく口を開く。
「ご無沙汰しております。先生はおきれいなままお変わりなくて。でも勝浩くんのお母様とは全然気づきませんでした」
「正確には堺と結婚したのは志央ちゃんがやめてからなのよ。それから割とすぐ、堺の転勤が決まって、こちらに戻ったのは勝っちゃんの中学入学前だったわね」
なるほど、と幸也は合点がいった。
子どもの頃勝浩をいじめていたらしいという記憶がおぼろげなのは、そのあと高校で出くわすまで交流はなかったからだろう。
「まあまあ、挨拶はそのくらいにして、どうぞどうぞお二人ともこちらへ」
二人を席に誘おうとする武人に、「いえ、あの、俺は母を送ってきただけですから」と勝浩は遠慮しようとした。
「なーにゆってるの。陵雲学園高校生徒会OB会でしょうが、ささ、こちらへどうぞ」
勝浩に軽く睨まれながらも、武人は強引に幸也の横の席に勝浩を座らせる。
「お目にかかるのははじめてね、勝浩さん。きっと志央たちがご迷惑かけたんでしょ?」
志央そっくりの奈央ににっこり微笑みかけられて、勝浩は、「ええ、まあ、ほどほどには」と正直に答えた。
「おい、そこは肯定じゃなくて、軽く否定するとこだろ」
「体裁が苦手な性分なので」
早速抗議する志央を勝浩は軽くかわす。
「相変わらずかわいくねーぞ! なあ、幸也。そういやお前ら二人も久しぶりだろ? 卒業以来だから」
並んで座る二人を見ながら、志央が言った。
「あ……いや……」
幸也は答えに躊躇する。
「まあまあ、せっかくこうして陵雲つながりで集まったんだから、乾杯しよーぜ、乾杯。ちょうど飲み頃に冷えてますぜ、ブブクリコ」
黙ったままの勝浩を横目で見やり、勝手知ったる冷蔵庫から取り出してきたボトルを武人が開けた。
七海が立ち上がると、武人を手伝ってみんなのグラスに注ぎ分けた。
「俺、車だから」
「形だけ、形だけ。俺らも車。せっかくのOB会なんだし」
シャンパンを遠慮しようとした勝浩のグラスに、七海は少しだけ注ぐ。
「じゃあ、再会を祝って~」
「タケ、お前だけ部外者じゃん」
茶々を入れる志央を相手にせず、「るさいな、かんぱーい」と武人はグラスを掲げた。
この集まりが、何やらぎこちない幸也と勝浩を何とかしようと武人と七海が策を弄した結果、なのである。
あの頑固な勝浩を動かすにはちょっとやそっとじゃだめだと思いついたのが、今回の撮影を利用した、裕子を誘ってイモヅル式に勝浩を引っ張り出す作戦だった。
懐かしい人に会わせると言って、幸也を誘った。
幸也としては、意味深な武人の物言いに、気になってきてみたらこれだったというわけだ。
奈央お手製の軽いイタリアンディナーに、特製のドルチェはパンナコッタ。
明るい二人の美女を中心に大テーブルではおしゃべりに花が咲く。
武人がうまくいけばと画策したはずの当の幸也と勝浩は、互いに意識しながらも電話で喧嘩して以来何日ぶりかで顔を合わせたのでどちらも言葉が出てこない。
せっかくだからぜひピアノをと奈央にせがまれた裕子がリビングのスタンウェイでシューベルトのセレナーデを披露すると、「志央のピアノはものになる以前だし、ユキちゃんは問題外なんだけど、七ちゃんがすてきなの」と奈央に太鼓判を押された七海が照れながら「月の光」などドビュッシーを奏でた。
裕子も「とってもすてき」とはしゃいでいる。
そのあと、気を利かせた七海が、裕子の手土産のメロンを切ってみんなに振舞ったり、と一見和やか気に時が流れていく。
「タケちゃんはピアノ弾かないの?」
「俺のピアノはバイエルで終わりですよ」
裕子に聞かれて武人は肩をすくめる。
「勝っちゃんもね~、ちっちゃい頃は一生懸命やってたんだけど、そのうちワンちゃんやネコちゃんの世話に夢中になってたから」
「裕子リンに教えてもらおうかな」
武人が軽く訴える。
「やだな~俺、もう全然大人ですよ~いたずらっ子はないでしょお、センセ」
「あら、だってあの時のカエル事件、未だにうちの教室では伝説なのよ、ね、勝っちゃん」
そういわれて裕子の影に隠れるように後ろに立っていた勝浩がそれを肯定するでもなく「お邪魔します」とおざなりな挨拶をした。
何しろ、勝浩もまさかこういうこととは思ってもいなかった。
父親の出張中、ショッピングにつき合った母から懐かしい方からお誘いいただいたから、送って欲しいといわれて、武人から借りているミニで言われたとおりやってきたのが、ここだったのだ。
「勝浩じゃん、何でセンセと一緒なんだよ?」
志央は久しぶりも言わないうちから既にジャイアン口調だ。
「何ゆってるの、志央、裕子先生、勝浩さんのお母様じゃない」
「え~~~、ウッソー!」
奈央に言われて志央は本当に驚いた顔をする。
「あなたは大人っぽくなったわね~、ユキちゃんでしょ? 志央ちゃんと一緒によくうちにいらしてた」
にこにこと問いかけられて、しばしこの状況に固まっていた幸也はようやく口を開く。
「ご無沙汰しております。先生はおきれいなままお変わりなくて。でも勝浩くんのお母様とは全然気づきませんでした」
「正確には堺と結婚したのは志央ちゃんがやめてからなのよ。それから割とすぐ、堺の転勤が決まって、こちらに戻ったのは勝っちゃんの中学入学前だったわね」
なるほど、と幸也は合点がいった。
子どもの頃勝浩をいじめていたらしいという記憶がおぼろげなのは、そのあと高校で出くわすまで交流はなかったからだろう。
「まあまあ、挨拶はそのくらいにして、どうぞどうぞお二人ともこちらへ」
二人を席に誘おうとする武人に、「いえ、あの、俺は母を送ってきただけですから」と勝浩は遠慮しようとした。
「なーにゆってるの。陵雲学園高校生徒会OB会でしょうが、ささ、こちらへどうぞ」
勝浩に軽く睨まれながらも、武人は強引に幸也の横の席に勝浩を座らせる。
「お目にかかるのははじめてね、勝浩さん。きっと志央たちがご迷惑かけたんでしょ?」
志央そっくりの奈央ににっこり微笑みかけられて、勝浩は、「ええ、まあ、ほどほどには」と正直に答えた。
「おい、そこは肯定じゃなくて、軽く否定するとこだろ」
「体裁が苦手な性分なので」
早速抗議する志央を勝浩は軽くかわす。
「相変わらずかわいくねーぞ! なあ、幸也。そういやお前ら二人も久しぶりだろ? 卒業以来だから」
並んで座る二人を見ながら、志央が言った。
「あ……いや……」
幸也は答えに躊躇する。
「まあまあ、せっかくこうして陵雲つながりで集まったんだから、乾杯しよーぜ、乾杯。ちょうど飲み頃に冷えてますぜ、ブブクリコ」
黙ったままの勝浩を横目で見やり、勝手知ったる冷蔵庫から取り出してきたボトルを武人が開けた。
七海が立ち上がると、武人を手伝ってみんなのグラスに注ぎ分けた。
「俺、車だから」
「形だけ、形だけ。俺らも車。せっかくのOB会なんだし」
シャンパンを遠慮しようとした勝浩のグラスに、七海は少しだけ注ぐ。
「じゃあ、再会を祝って~」
「タケ、お前だけ部外者じゃん」
茶々を入れる志央を相手にせず、「るさいな、かんぱーい」と武人はグラスを掲げた。
この集まりが、何やらぎこちない幸也と勝浩を何とかしようと武人と七海が策を弄した結果、なのである。
あの頑固な勝浩を動かすにはちょっとやそっとじゃだめだと思いついたのが、今回の撮影を利用した、裕子を誘ってイモヅル式に勝浩を引っ張り出す作戦だった。
懐かしい人に会わせると言って、幸也を誘った。
幸也としては、意味深な武人の物言いに、気になってきてみたらこれだったというわけだ。
奈央お手製の軽いイタリアンディナーに、特製のドルチェはパンナコッタ。
明るい二人の美女を中心に大テーブルではおしゃべりに花が咲く。
武人がうまくいけばと画策したはずの当の幸也と勝浩は、互いに意識しながらも電話で喧嘩して以来何日ぶりかで顔を合わせたのでどちらも言葉が出てこない。
せっかくだからぜひピアノをと奈央にせがまれた裕子がリビングのスタンウェイでシューベルトのセレナーデを披露すると、「志央のピアノはものになる以前だし、ユキちゃんは問題外なんだけど、七ちゃんがすてきなの」と奈央に太鼓判を押された七海が照れながら「月の光」などドビュッシーを奏でた。
裕子も「とってもすてき」とはしゃいでいる。
そのあと、気を利かせた七海が、裕子の手土産のメロンを切ってみんなに振舞ったり、と一見和やか気に時が流れていく。
「タケちゃんはピアノ弾かないの?」
「俺のピアノはバイエルで終わりですよ」
裕子に聞かれて武人は肩をすくめる。
「勝っちゃんもね~、ちっちゃい頃は一生懸命やってたんだけど、そのうちワンちゃんやネコちゃんの世話に夢中になってたから」
「裕子リンに教えてもらおうかな」
武人が軽く訴える。
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