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Tea Time 11
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「おう、撮影スタッフのワゴン一台とあと二台ほどくるけど、多分入れ違いだから平気だろ」
「あ、ども、タケさん」
「タケ、撮影なんてさっさとやっつけちまおうぜ、たるい~」
七海の後ろから、さもうざったそうにやってきた志央が早速文句をたれる。
「お前がちゃんとおリコウにしてたらな」
「ガキ扱いしやがって」
「そういうところがガキだっていうのよ。しゃべらなければ優等生なのにね~」
すかさず釘をさす奈央に志央はまたぶーたれる。
そのうち撮影スタッフがやってきた。
七海も志央もスタイリストに合わせてもらったシャツやパンツが気に入ったらしく、撮影は比較的スムースに進んだ。
「志央、顔がぶすくれてる、しゃきっと笑え!」
時々飛んでくる武人の突っ込みに、「人をボランティアで使っといて、っせーんだよ!」と切り返すが、七海が何か囁いたらしく、次には極上の笑顔を見せ、カメラマンを喜ばせた。
美貌の母と息子がガーデンテーブルにくつろぎ、青い目の図体はでかいが男前な七海がエプロン姿で奈央の焼いたケーキとお茶を振舞っている、リビングのショットでは七海と志央に奈央がケーキを切り分けている、或いはゴールデンレトリバーやトイプードルを傍らにソファに座った志央とその前のテーブルには、奈央ご自慢のクッキー、いかにも女性が好きそうなカットが次々と撮られ、武人はかなりご満悦だ。
途中で奈央のケーキを振舞われたスタッフも後半張り切って、終始和やかに撮影が続いた。
そんな時、バラのアーチをくぐって長身の影が姿を見せた。
「幸也、遅いじゃねーかよ」
「研究室から直接来たんだぞ。で、何だ、これは」
「見てのとおり、奈央さんの本の撮影」
「モデルに払う金くらいなかったのか?」
いきなり核心をつかれて、武人は一瞬言葉に詰まる。
「経費を安く上げて売り上げが伸びるにこしたことはないの」
「俺は、お前が『気になってるだろう懐かしい人に会わせる』から来いっていうから、わざわざきたんだぞ。志央やタコ坊主に今更会って何の感慨がある」
眉間に皺を寄せてぶつくさと口にする幸也だが、「あら、ユキちゃんじゃないの、久しぶりね~」と撮影が終わったらしい奈央が見つけて声をかけた。
「八月にニューヨークでお会いして以来ですね、小母様。ごきげんよう」
「まあ、あなたは外面だけは昔から紳士よね~」
そう言って笑う奈央には、幸也もたじたじである。
「よう、お前まで、どうしたんだよ?」
幸也に気づいた志央が声をかけた。
「二年半ぶり、ですね、長谷川さん、お元気そうで」
「おう、タコ坊主、少しは成長したか?」
近づいてきた七海に、幸也はフン、と笑う。
「これ以上成長するといろいろ不都合があるんで」
どうやら一九〇センチ代の範囲内でとどまっているが、しっかりと筋肉がついた身体は欧米人にも引けを取らない。
「バーカ、ただのでくの坊になってんなよっての」
幸也は軽くからかう。
「二年半もあれば、十分世の中もわかってきますよ。長谷川さんこそ、あちこちで泣かせてるんじゃないですか?」
「言ってくれるじゃねーか。そろそろわがままなご主人様のおもりに飽きてきたってとこだろ?」
「なかなかわがままも可愛いもんですよ」
コソコソではあるが、棘のある台詞の応酬に聞いていた武人は呆れた。
志央はどこ吹く風といった顔で、取り合わない。
「いい加減にせんか、お前ら。せっかく陵雲学園生徒会OBが顔を合わせたんだろうが」
武人が二人をいなす。
リビングの柱時計が四時を告げる頃、後片付けを済ませた撮影スタッフ、それに料理教室のスタッフが帰るのを見送って、戻ってきた奈央が四人の若者に声をかけた。
「みんな、こばらがすいたでしょ? ちょっと早いけどディナーを用意してるの。ユキちゃんもどうぞ」
「久しぶりだな~小母様の手料理」
リビングの大テーブルに、奈央がカップやカトラリーを用意していくのを、「手伝います」と七海が立った。
「ナナちゃん、えらいね~」
武人がからかう。
「下っ端は当然だ」
幸也がまたつっかかる。
「前菜はトマトとピーマンと生ハムのパスタよ」
「かあさん、俺、ゴルゴンゾーラのパスタがいい~」
「自分で作りなさい」
「ちぇ」
駄々をこねる志央を一喝して、奈央は七海に手伝わせてパスタを皿に取り分けた。
「小母様、まだ誰かいらっしゃる?」
七海が幸也の隣に二人分の皿を置いたのに幸也は気づいた。
「そうよ、懐かしい方がいらっしゃるの」
奈央がいたずらっぽく笑った時、チャイムが鳴った。
「あら、いらしたようね、ナナちゃん、ここお願い」
「はい」
いそいそと玄関に向かう奈央の背中に、「誰が来たのさ?」と志央が声をかける。
「本当にお久しぶり。みんな驚くわよ」
「突然押しかけて、すみません。まあ、すてきなお庭ですわね」
女性の声がリビングに聞こえたかと思うと、キュートなボブの柔らかい髪と明るい笑顔の美人を伴って奈央が現れた。
「志央、どなたかわかる?」
「え、ひょっとして、裕子センセ? びっくり、全然あんときのまんまだ~」
志央は思わず立ち上がる。
「あ、ども、タケさん」
「タケ、撮影なんてさっさとやっつけちまおうぜ、たるい~」
七海の後ろから、さもうざったそうにやってきた志央が早速文句をたれる。
「お前がちゃんとおリコウにしてたらな」
「ガキ扱いしやがって」
「そういうところがガキだっていうのよ。しゃべらなければ優等生なのにね~」
すかさず釘をさす奈央に志央はまたぶーたれる。
そのうち撮影スタッフがやってきた。
七海も志央もスタイリストに合わせてもらったシャツやパンツが気に入ったらしく、撮影は比較的スムースに進んだ。
「志央、顔がぶすくれてる、しゃきっと笑え!」
時々飛んでくる武人の突っ込みに、「人をボランティアで使っといて、っせーんだよ!」と切り返すが、七海が何か囁いたらしく、次には極上の笑顔を見せ、カメラマンを喜ばせた。
美貌の母と息子がガーデンテーブルにくつろぎ、青い目の図体はでかいが男前な七海がエプロン姿で奈央の焼いたケーキとお茶を振舞っている、リビングのショットでは七海と志央に奈央がケーキを切り分けている、或いはゴールデンレトリバーやトイプードルを傍らにソファに座った志央とその前のテーブルには、奈央ご自慢のクッキー、いかにも女性が好きそうなカットが次々と撮られ、武人はかなりご満悦だ。
途中で奈央のケーキを振舞われたスタッフも後半張り切って、終始和やかに撮影が続いた。
そんな時、バラのアーチをくぐって長身の影が姿を見せた。
「幸也、遅いじゃねーかよ」
「研究室から直接来たんだぞ。で、何だ、これは」
「見てのとおり、奈央さんの本の撮影」
「モデルに払う金くらいなかったのか?」
いきなり核心をつかれて、武人は一瞬言葉に詰まる。
「経費を安く上げて売り上げが伸びるにこしたことはないの」
「俺は、お前が『気になってるだろう懐かしい人に会わせる』から来いっていうから、わざわざきたんだぞ。志央やタコ坊主に今更会って何の感慨がある」
眉間に皺を寄せてぶつくさと口にする幸也だが、「あら、ユキちゃんじゃないの、久しぶりね~」と撮影が終わったらしい奈央が見つけて声をかけた。
「八月にニューヨークでお会いして以来ですね、小母様。ごきげんよう」
「まあ、あなたは外面だけは昔から紳士よね~」
そう言って笑う奈央には、幸也もたじたじである。
「よう、お前まで、どうしたんだよ?」
幸也に気づいた志央が声をかけた。
「二年半ぶり、ですね、長谷川さん、お元気そうで」
「おう、タコ坊主、少しは成長したか?」
近づいてきた七海に、幸也はフン、と笑う。
「これ以上成長するといろいろ不都合があるんで」
どうやら一九〇センチ代の範囲内でとどまっているが、しっかりと筋肉がついた身体は欧米人にも引けを取らない。
「バーカ、ただのでくの坊になってんなよっての」
幸也は軽くからかう。
「二年半もあれば、十分世の中もわかってきますよ。長谷川さんこそ、あちこちで泣かせてるんじゃないですか?」
「言ってくれるじゃねーか。そろそろわがままなご主人様のおもりに飽きてきたってとこだろ?」
「なかなかわがままも可愛いもんですよ」
コソコソではあるが、棘のある台詞の応酬に聞いていた武人は呆れた。
志央はどこ吹く風といった顔で、取り合わない。
「いい加減にせんか、お前ら。せっかく陵雲学園生徒会OBが顔を合わせたんだろうが」
武人が二人をいなす。
リビングの柱時計が四時を告げる頃、後片付けを済ませた撮影スタッフ、それに料理教室のスタッフが帰るのを見送って、戻ってきた奈央が四人の若者に声をかけた。
「みんな、こばらがすいたでしょ? ちょっと早いけどディナーを用意してるの。ユキちゃんもどうぞ」
「久しぶりだな~小母様の手料理」
リビングの大テーブルに、奈央がカップやカトラリーを用意していくのを、「手伝います」と七海が立った。
「ナナちゃん、えらいね~」
武人がからかう。
「下っ端は当然だ」
幸也がまたつっかかる。
「前菜はトマトとピーマンと生ハムのパスタよ」
「かあさん、俺、ゴルゴンゾーラのパスタがいい~」
「自分で作りなさい」
「ちぇ」
駄々をこねる志央を一喝して、奈央は七海に手伝わせてパスタを皿に取り分けた。
「小母様、まだ誰かいらっしゃる?」
七海が幸也の隣に二人分の皿を置いたのに幸也は気づいた。
「そうよ、懐かしい方がいらっしゃるの」
奈央がいたずらっぽく笑った時、チャイムが鳴った。
「あら、いらしたようね、ナナちゃん、ここお願い」
「はい」
いそいそと玄関に向かう奈央の背中に、「誰が来たのさ?」と志央が声をかける。
「本当にお久しぶり。みんな驚くわよ」
「突然押しかけて、すみません。まあ、すてきなお庭ですわね」
女性の声がリビングに聞こえたかと思うと、キュートなボブの柔らかい髪と明るい笑顔の美人を伴って奈央が現れた。
「志央、どなたかわかる?」
「え、ひょっとして、裕子センセ? びっくり、全然あんときのまんまだ~」
志央は思わず立ち上がる。
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