3 / 19
Tea Time 3
しおりを挟む
かなり可愛い男の子だったという認識はあるのだが、顔は思い出せない。
ましてやそれを勝浩につなげようとしても、非常に無理がある。
ただ、そういわれてみれば、大きな目に涙をためてこっちを睨んでいたのが可愛くて、ついエスカレートしていじめた記憶なら、幸也にもあった。
「あれって………勝浩……?」
隣で二杯目に手をつけながら武人が大仰に首を横に振る。
「のび太がジャイアンなんか好きになるかよ、普通。ったくあの『勝気なプリティボーイ』ときた日には」
「それ、なんでお前が知ってる?」
また武人の言葉が引っかかって、幸也は聞き返す。
「『勝気なプリティボーイ』? って、新聞部の西本がつけた勝っちゃんのキャッチコピーだろ? なかなか的を得てるじゃない」
フン、と面白くない幸也は吸いかけの煙草を灰皿でもみ消すと、残りの酒を飲み干した。
いや、知らないんだ。
俺の方が―――――。
勝浩のことなのに、知らないことだらけだ。
いや、見ているはずなのにわかってなかったのだ。
ピアノ教室に志央と一緒に何度か行ったことは覚えている。
だが、先生の顔なんて覚えちゃいない。
それが、勝浩の母親だったなんて。
もうずっと志央しか見ていなかった。
勝浩を勝浩として認めたのは、いつだったろう。
あれは確か、ディズニーランドで出くわした時だ。
俺と志央が女を口説いているところを見て、勝浩はあからさまに侮蔑の視線を送ってきた。
それを周りに言いふらすようなことはしなかったが、表ではいかにもな優等生を気取りながら裏では悪さをしている俺たちのことを、面と向かってきっぱりと非難してくれた、可愛い顔に似合わないクソ生意気な下級生。
面白いヤツ。
そう思ったら、堺勝浩という存在が、志央だけしかいなかった俺の視界に飛び込んできた。
生徒会室で襲われたときも、翌日には何事もなかったような顔で勝浩は自分の仕事をしていた。
まあ、あの時は七海のやつがガードしてたみたいだが、俺も何となく勝浩が気になって目でヤツを追っていた―――――――。
「おい、幸也、ひとりでイっちゃってんなよ!」
武人に肩を揺すられて、幸也は我に帰る。
「だからぁ、志央と七海が勝っちゃんと会って、それでどうしたってよ?」
思い出したように、武人が呟く。
「七海と待ち合わせたところに勝浩がいたんで一緒に茶を飲んだんだと」
「それで?」
「志央は勝浩とは久しぶりに会ったみたいだが、お前が言うように、七海と勝浩はちょくちょく会ってるらしくて、妙に仲が良さそうで面白くなかったから、七海が便所に立った時に、つい、『七海にモーションかけても無駄だぜ、あいつは俺に夢中だからな』とか牽制したんだと」
幸也は面白くもなさそうに続ける。
「何だよ、勝っちゃん、じゃあ、まだ七海に話してないのか? お前と……」
「そしたら、勝浩のヤツが、志央の行い次第では七海を取り戻すから、とか何とか言ったらしい」
「ええ? 勝っちゃん、やっぱ七海とつき合ってたん?」
何気ない武人の言葉が、グサリと幸也の胸に突き刺さる。
「………としてもそう長くはなかったと思うが……あのあと七海は志央べったりだったし」
すったもんだあった高校時代のことを幸也はあらためて思い起こす。
「……………………………だが、やっぱり勝浩も七海のことを……」
それ以上は言葉にしたくなくて、幸也はグラスをもてあそんだ。
『ほんと、サイッテーだよ、あんたたちって』
ふいに高校の頃、勝浩に浴びせられた辛辣な言葉が蘇る。
それも当然かと自虐的な思いで幸也は受け取った。
志央と二人、人の心を賭けたりして弄ぶようなマネをして、勝浩はそれこそ自分を軽蔑しているのだと、そう幸也は思っていた。
志央の心は七海にあるのだとはっきり思い知らされた時、一時は絶望と虚無感に襲われたものの、七海を志央に取られた形でさぞや傷ついているはずなのにもかかわらず気丈に冷静に振舞う勝浩を見て、妙に肩の力が抜けたのを覚えている。
生真面目で負けん気が強い勝浩のことだから、健気に歯をくいしばって精一杯耐えていたのかもしれない。
いつの間にかそんな勝浩から目を離せなくなってたんだ―――。
「そっかぁ? 俺にはそうは思えないけどなあ」
武人はちょっと首を傾げる。
「そんな昔のこと持ち出してウザいよ、お前。第一、お前ら、こないだの山小屋以来、ラブラブ街道まっしぐら、じゃなかったのかよ?」
それに対して即答できないでいる幸也に、「まさかお前、また何かやらかしたのか?!」と武人が詰め寄った。
「何もやってねぇよ」
そう、山小屋ではちょっと強引だったにせよ、誠心誠意勝浩のことを思ってるし、山を降りてからもそれこそ勝浩のことを最優先に考えているつもりだったのだが。
「だったら、何ウダクサ、考え込んでんだよ? ピピッとワル知恵巡らしてスパッと動くのが良くも悪くもお前だろうが? 昔っから自信過剰の権化みたいなお前がさ? 俺なんかと顔突き合わせてるよか勝っちゃんと話せばいいだろ?」
「それができりゃ、お前の面なんか拝む必要はないんだよ」
吐き捨てるように言うと、幸也は追加オーダーをしたばかりの酒をぐいっと呷る。
ましてやそれを勝浩につなげようとしても、非常に無理がある。
ただ、そういわれてみれば、大きな目に涙をためてこっちを睨んでいたのが可愛くて、ついエスカレートしていじめた記憶なら、幸也にもあった。
「あれって………勝浩……?」
隣で二杯目に手をつけながら武人が大仰に首を横に振る。
「のび太がジャイアンなんか好きになるかよ、普通。ったくあの『勝気なプリティボーイ』ときた日には」
「それ、なんでお前が知ってる?」
また武人の言葉が引っかかって、幸也は聞き返す。
「『勝気なプリティボーイ』? って、新聞部の西本がつけた勝っちゃんのキャッチコピーだろ? なかなか的を得てるじゃない」
フン、と面白くない幸也は吸いかけの煙草を灰皿でもみ消すと、残りの酒を飲み干した。
いや、知らないんだ。
俺の方が―――――。
勝浩のことなのに、知らないことだらけだ。
いや、見ているはずなのにわかってなかったのだ。
ピアノ教室に志央と一緒に何度か行ったことは覚えている。
だが、先生の顔なんて覚えちゃいない。
それが、勝浩の母親だったなんて。
もうずっと志央しか見ていなかった。
勝浩を勝浩として認めたのは、いつだったろう。
あれは確か、ディズニーランドで出くわした時だ。
俺と志央が女を口説いているところを見て、勝浩はあからさまに侮蔑の視線を送ってきた。
それを周りに言いふらすようなことはしなかったが、表ではいかにもな優等生を気取りながら裏では悪さをしている俺たちのことを、面と向かってきっぱりと非難してくれた、可愛い顔に似合わないクソ生意気な下級生。
面白いヤツ。
そう思ったら、堺勝浩という存在が、志央だけしかいなかった俺の視界に飛び込んできた。
生徒会室で襲われたときも、翌日には何事もなかったような顔で勝浩は自分の仕事をしていた。
まあ、あの時は七海のやつがガードしてたみたいだが、俺も何となく勝浩が気になって目でヤツを追っていた―――――――。
「おい、幸也、ひとりでイっちゃってんなよ!」
武人に肩を揺すられて、幸也は我に帰る。
「だからぁ、志央と七海が勝っちゃんと会って、それでどうしたってよ?」
思い出したように、武人が呟く。
「七海と待ち合わせたところに勝浩がいたんで一緒に茶を飲んだんだと」
「それで?」
「志央は勝浩とは久しぶりに会ったみたいだが、お前が言うように、七海と勝浩はちょくちょく会ってるらしくて、妙に仲が良さそうで面白くなかったから、七海が便所に立った時に、つい、『七海にモーションかけても無駄だぜ、あいつは俺に夢中だからな』とか牽制したんだと」
幸也は面白くもなさそうに続ける。
「何だよ、勝っちゃん、じゃあ、まだ七海に話してないのか? お前と……」
「そしたら、勝浩のヤツが、志央の行い次第では七海を取り戻すから、とか何とか言ったらしい」
「ええ? 勝っちゃん、やっぱ七海とつき合ってたん?」
何気ない武人の言葉が、グサリと幸也の胸に突き刺さる。
「………としてもそう長くはなかったと思うが……あのあと七海は志央べったりだったし」
すったもんだあった高校時代のことを幸也はあらためて思い起こす。
「……………………………だが、やっぱり勝浩も七海のことを……」
それ以上は言葉にしたくなくて、幸也はグラスをもてあそんだ。
『ほんと、サイッテーだよ、あんたたちって』
ふいに高校の頃、勝浩に浴びせられた辛辣な言葉が蘇る。
それも当然かと自虐的な思いで幸也は受け取った。
志央と二人、人の心を賭けたりして弄ぶようなマネをして、勝浩はそれこそ自分を軽蔑しているのだと、そう幸也は思っていた。
志央の心は七海にあるのだとはっきり思い知らされた時、一時は絶望と虚無感に襲われたものの、七海を志央に取られた形でさぞや傷ついているはずなのにもかかわらず気丈に冷静に振舞う勝浩を見て、妙に肩の力が抜けたのを覚えている。
生真面目で負けん気が強い勝浩のことだから、健気に歯をくいしばって精一杯耐えていたのかもしれない。
いつの間にかそんな勝浩から目を離せなくなってたんだ―――。
「そっかぁ? 俺にはそうは思えないけどなあ」
武人はちょっと首を傾げる。
「そんな昔のこと持ち出してウザいよ、お前。第一、お前ら、こないだの山小屋以来、ラブラブ街道まっしぐら、じゃなかったのかよ?」
それに対して即答できないでいる幸也に、「まさかお前、また何かやらかしたのか?!」と武人が詰め寄った。
「何もやってねぇよ」
そう、山小屋ではちょっと強引だったにせよ、誠心誠意勝浩のことを思ってるし、山を降りてからもそれこそ勝浩のことを最優先に考えているつもりだったのだが。
「だったら、何ウダクサ、考え込んでんだよ? ピピッとワル知恵巡らしてスパッと動くのが良くも悪くもお前だろうが? 昔っから自信過剰の権化みたいなお前がさ? 俺なんかと顔突き合わせてるよか勝っちゃんと話せばいいだろ?」
「それができりゃ、お前の面なんか拝む必要はないんだよ」
吐き捨てるように言うと、幸也は追加オーダーをしたばかりの酒をぐいっと呷る。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
ポケットのなかの空
三尾
BL
【ある朝、突然、目が見えなくなっていたらどうするだろう?】
大手電機メーカーに勤めるエンジニアの響野(ひびの)は、ある日、原因不明の失明状態で目を覚ました。
取るものも取りあえず向かった病院で、彼は中学時代に同級生だった水元(みずもと)と再会する。
十一年前、響野や友人たちに何も告げることなく転校していった水元は、複雑な家庭の事情を抱えていた。
目の不自由な響野を見かねてサポートを申し出てくれた水元とすごすうちに、友情だけではない感情を抱く響野だが、勇気を出して想いを伝えても「その感情は一時的なもの」と否定されてしまい……?
重い過去を持つ一途な攻め × 不幸に抗(あらが)う男前な受けのお話。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
・性描写のある回には「※」マークが付きます。
・水元視点の番外編もあり。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
※番外編はこちら
『光の部屋、花の下で。』https://www.alphapolis.co.jp/novel/728386436/614893182
初戀
槙野 シオ
BL
どうすることが正解で、どうすることが普通なのかわからなかった。
中三の時の進路相談で、おまえならどの高校でも大丈夫だと言われた。模試の結果はいつもA判定だった。進学校に行けば勉強で忙しく、他人に構ってる暇なんてないひとたちで溢れ返ってるだろうと思って選んだ学校には、桁違いのイケメンがいて大賑わいだった。
僕の高校生活は、嫌な予感とともに幕を開けた。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

王様は知らない
イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります
性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。
裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。
その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる