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バレンタインバトル 12
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「おつかれさまれした。じゃあ、まあ、社長も一杯いかがっすか? 熱燗、あったまりますよぉ! おでんはもう冷めちゃったなぁ」
良太は起き上がって座布団の上に座ると、へらっと工藤に笑いかける。
「今、カップ持ってきまっす」
立ち上がるのだが、ふらふらと良太の足元はおぼつかない。
「おい、良太」
だが、聞こえていないようで、キッチンからたまに工藤が使うマグカップを持ってくる。
工藤は炬燵の上にあった日本酒の瓶を取り上げて、少し眉を顰めたが、また戻した。
「結構美味いれすよ、これ」
良太は自分のカップにもかぱかぱと注ぎ、一つを工藤に渡して、「かんぱーい」とひとりでちょっとはしゃいでいる。
工藤は仕方ないとばかりにベッドに腰を降ろした。
羽田から真っ直ぐオフィスに戻ってきた工藤は、灯りが消えているのですぐに自分の部屋に向かった。
リビングのテーブルには良太が仕分けした工藤宛のプレゼントの山と、良太が丁寧に作ったリストが載っていた。
上着とネクタイを取ってから、良太を前田の店にでも連れて行くかと隣のドアをノックしたが応答がないので中に入ってみたのだった。
酒を飲んで一杯機嫌で炬燵に眠ってしまっている良太を見て、そのまま寝かせておこうと思ったのだが。
静かになったと思えば、隣にボスンと腰を降ろした良太がカップを持ったまま、目を閉じている。
「こら、良太」
あやうくその手から落ちそうなカップをとりあげた工藤は、自分の手にある酒を飲み干して良太のカップと一緒に炬燵の上に置いた。
ゆらりと良太の身体が揺れて工藤に凭れかかった。
工藤はやんわりと良太の肩を抱き寄せた。
小杉と連絡を取った時、「よくやってますよ、良太くん、あの面倒な脚本家や監督と」とさりげなく告げられた。
何とか切り抜ければいいくらいに思っていたが、案外、工藤の助けも求めようとはせず、芽久のこともうまくあしらっているようだった。
おまけにバレンタインだか何だか知らないが、くだらない雑用までやらせることになってしまった。
いい加減プレゼントごっこはやめにしたらどうだ、と声を大にして言いたいところだ。
このプレゼントごっこも景気の一端を担っているのかもしれないことはわかっていても、誰がこんな面倒なことを考え出したんだか、と工藤は口にしないではいられなかった。
寝返りをうとうとして、硬いものにぶつかった良太は、今度は逆へ寝返りを打ったものの、そのまま足がベッドから落ちた。
ひやりと冷気を感じた良太はむくりと起き上がり、のたのたとトイレに向かった。
これも模様替えされた時に、平造が取りつけてくれたのだが、フットライトが勝手についてくれるので、真っ暗な中で動くこともなくなった。
トイレから出てくると、喉が渇いていることに気づいてキッチンに立ち、ポカリスエットをカップに注いでその場でゴクゴクと飲み干した良太は、またベッドに戻って倒れこんだ。
「うわっ!」
途端、ベッドではないものの上にダイビングしたことに気づき、また起き上がろうとして、腕を取られた。
「いってぇな」
「な、何であんた、いるんだよ!」
のっそりと工藤は裸の身体を起こした。
九時頃だったか、工藤はシャワーを浴びたあと、バスローブ一枚で一つ二つ気になっていた案件があり、海外と連絡を取ったりしていたが、ベッドに横になったままの良太が起きる気配もないのでそのまま自分の部屋へ戻ろうと腰を上げた。
「……工藤……さ……」
その時良太が呼んだのかと思った工藤は振り返ったが、どうやら良太の寝言らしかった。
しばし寝顔を見ているうちに工藤は何となく帰りそびれたのだ。
「いい加減にしろよ、沢村から美味い酒もらったからって嬉しそうに、俺に飲め飲めって言ったのはどこのどいつだ?」
工藤に揶揄されて良太の頭からまだ残っていた酔いが吹っ飛んだ。
「……誰が嬉しそうにだよ!」
良太は突っかかる。
ところが掴まれた腕を引っ張られて、今度はベッドに押し付けられた。
「まだ真夜中だ。お前が酔っ払ってとっとと寝ちまったから、こっちは手持ち無沙汰だったんだ」
「な、ちょ……! わ!」
「色気のない声を出すな」
後ろに手を回して良太のスウェットを下着ごとスルリと脱がせた工藤はニヤリと笑う。
「工藤、あんた! 飛行機飛ばなかったイライラを俺で晴らしたいだけだろ! う……あっ……っ!!」
曝け出された下肢にいきなり指が絡みつき、良太はまだ何か言おうとした唇を塞がれた。
だいたい、あんなものに嬉しそうにしやがって。
自分を情動へと突き動かしているものの正体は工藤もよくわかっていた。
喉に引っかかった小骨のような、些細だがどうにも許しがたい、くだらない嫉妬だ。
たかだか沢村が半分おふざけでボトルに書いたのだろうハートマークつきの文字ごときが癇に障り、つい頭に血がのぼった。
良太は起き上がって座布団の上に座ると、へらっと工藤に笑いかける。
「今、カップ持ってきまっす」
立ち上がるのだが、ふらふらと良太の足元はおぼつかない。
「おい、良太」
だが、聞こえていないようで、キッチンからたまに工藤が使うマグカップを持ってくる。
工藤は炬燵の上にあった日本酒の瓶を取り上げて、少し眉を顰めたが、また戻した。
「結構美味いれすよ、これ」
良太は自分のカップにもかぱかぱと注ぎ、一つを工藤に渡して、「かんぱーい」とひとりでちょっとはしゃいでいる。
工藤は仕方ないとばかりにベッドに腰を降ろした。
羽田から真っ直ぐオフィスに戻ってきた工藤は、灯りが消えているのですぐに自分の部屋に向かった。
リビングのテーブルには良太が仕分けした工藤宛のプレゼントの山と、良太が丁寧に作ったリストが載っていた。
上着とネクタイを取ってから、良太を前田の店にでも連れて行くかと隣のドアをノックしたが応答がないので中に入ってみたのだった。
酒を飲んで一杯機嫌で炬燵に眠ってしまっている良太を見て、そのまま寝かせておこうと思ったのだが。
静かになったと思えば、隣にボスンと腰を降ろした良太がカップを持ったまま、目を閉じている。
「こら、良太」
あやうくその手から落ちそうなカップをとりあげた工藤は、自分の手にある酒を飲み干して良太のカップと一緒に炬燵の上に置いた。
ゆらりと良太の身体が揺れて工藤に凭れかかった。
工藤はやんわりと良太の肩を抱き寄せた。
小杉と連絡を取った時、「よくやってますよ、良太くん、あの面倒な脚本家や監督と」とさりげなく告げられた。
何とか切り抜ければいいくらいに思っていたが、案外、工藤の助けも求めようとはせず、芽久のこともうまくあしらっているようだった。
おまけにバレンタインだか何だか知らないが、くだらない雑用までやらせることになってしまった。
いい加減プレゼントごっこはやめにしたらどうだ、と声を大にして言いたいところだ。
このプレゼントごっこも景気の一端を担っているのかもしれないことはわかっていても、誰がこんな面倒なことを考え出したんだか、と工藤は口にしないではいられなかった。
寝返りをうとうとして、硬いものにぶつかった良太は、今度は逆へ寝返りを打ったものの、そのまま足がベッドから落ちた。
ひやりと冷気を感じた良太はむくりと起き上がり、のたのたとトイレに向かった。
これも模様替えされた時に、平造が取りつけてくれたのだが、フットライトが勝手についてくれるので、真っ暗な中で動くこともなくなった。
トイレから出てくると、喉が渇いていることに気づいてキッチンに立ち、ポカリスエットをカップに注いでその場でゴクゴクと飲み干した良太は、またベッドに戻って倒れこんだ。
「うわっ!」
途端、ベッドではないものの上にダイビングしたことに気づき、また起き上がろうとして、腕を取られた。
「いってぇな」
「な、何であんた、いるんだよ!」
のっそりと工藤は裸の身体を起こした。
九時頃だったか、工藤はシャワーを浴びたあと、バスローブ一枚で一つ二つ気になっていた案件があり、海外と連絡を取ったりしていたが、ベッドに横になったままの良太が起きる気配もないのでそのまま自分の部屋へ戻ろうと腰を上げた。
「……工藤……さ……」
その時良太が呼んだのかと思った工藤は振り返ったが、どうやら良太の寝言らしかった。
しばし寝顔を見ているうちに工藤は何となく帰りそびれたのだ。
「いい加減にしろよ、沢村から美味い酒もらったからって嬉しそうに、俺に飲め飲めって言ったのはどこのどいつだ?」
工藤に揶揄されて良太の頭からまだ残っていた酔いが吹っ飛んだ。
「……誰が嬉しそうにだよ!」
良太は突っかかる。
ところが掴まれた腕を引っ張られて、今度はベッドに押し付けられた。
「まだ真夜中だ。お前が酔っ払ってとっとと寝ちまったから、こっちは手持ち無沙汰だったんだ」
「な、ちょ……! わ!」
「色気のない声を出すな」
後ろに手を回して良太のスウェットを下着ごとスルリと脱がせた工藤はニヤリと笑う。
「工藤、あんた! 飛行機飛ばなかったイライラを俺で晴らしたいだけだろ! う……あっ……っ!!」
曝け出された下肢にいきなり指が絡みつき、良太はまだ何か言おうとした唇を塞がれた。
だいたい、あんなものに嬉しそうにしやがって。
自分を情動へと突き動かしているものの正体は工藤もよくわかっていた。
喉に引っかかった小骨のような、些細だがどうにも許しがたい、くだらない嫉妬だ。
たかだか沢村が半分おふざけでボトルに書いたのだろうハートマークつきの文字ごときが癇に障り、つい頭に血がのぼった。
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