10 / 14
バレンタインバトル 10
しおりを挟む
「俺が、いいとか、そんな問題じゃないし」
ちょうどそこへ真中が飛び込んできた。
「すみません、遅くなりました!」
「おう。じゃな、明日また連絡するわ」
小笠原はそう言うと、真中を従えて出て行った。
良太はしばしぼんやり、突っ立っていた。
「そんな簡単にいけば、俺もそんなグルグルしないって…」
夜になると一層冷え込んできた。
ネットの天気予報を見ると、北海道は吹雪くという予報である。
「工藤、明日帰れるのかな……」
未明から関東地方の平野部でも雪が降るという。
「ナータンたちも寒いかも。そうだ、早速、もらったベッド使わせよっと」
仕事に区切りをつけると、良太は小夜子からもらったペット用ベッドの入った紙袋を抱え、灯りやエアコンを消してオフィスを出た。
バレンタインデーの朝、東京は雪景色だった。
だが、ベタ雪は滑りやすく、電車は遅れ、首都高ではあちこちで通行止めが相次いだ。
空港も無論例外ではなく、さらに当然北海道東北も大荒れで何便かが欠航した。
その中に工藤の乗る予定だった便も含まれていて、札幌で足止めをくらった工藤は空港のラウンジでイラついていた。
航空会社のカウンターで再三確認しているが、次の便の予定がわからない。
「まだ、飛ばないのか!」
あいにくここも禁煙である。
煙草をくわえることもできないのが、工藤のイライラを増幅させていた。
支障をきたすようなスケジュールはなかったものの、実を言えば久しぶりに時間が空いたので、良太を誘って食事でもしようかなどと考えていたのだ。
ドイツから戻った日以来、すれ違いばかりでほとんど顔を合わせることもなく、しかも千雪に言われ、ものわかりのいい上司をきどってスキー合宿に行かせてやったりで、まともに言葉もかわしていない。
おまけにバレンタインだかなんだか知らないが、女どもが余計なものを送りつけてきやがってと、はっきり言って工藤にしてみれば、バレンタインのプレゼントなんてものは迷惑極まりないのである。
そんなもののお陰で、良太があてこすりのようにプレゼントの山をどうするかなどと聞いてきたので、また妙な邪推をされるのも冗談じゃなく、そんなものは全部開けて食い物でなくても欲しいやつにくれてやればいい! と、つい怒鳴り返してしまった。
バレンタインもクリスマスも工藤にはどうでもいいことだ。
ただ、今日は久しぶりに仕事の入っていない土曜日なのだ。
じりじりと無駄に時間を潰していた工藤の耳に、「お待たせいたしました…」という館内アナウンスが聞こえてきた。
ネットでもテレビでも、朝から航空便に遅れや欠航が出ているという情報を流していた。
良太は工藤の乗るはずだった新千歳空港からの便が欠航になったことを確認すると、ついつい、あーあ、と口にする。
「ってことは、今日も札幌泊まりってことか」
やっぱり山之辺芽久や黒川真帆じゃなくてもがっくりである。
土曜日ではあるが、何となくオフィスでパソコンの前にいた。
小笠原から、飲まないかという連絡が入ったが、急な仕事が入ったと言ってまた今度ということになった。
もちろん、急な仕事はウソだが、何となくそういう気分にはなれなかったのだ。
外を見やるとようやく雪がやみ、青空なんかもちょこっと見えたりするから、少しは気温もあがるだろう。
良太はデスクワークに一区切りつけると、休み明けに面倒な仕事に入る前に、バレンタイン用の仕分けやらをやってしまおうとテーブルに積まれたチョコや贈り物の山の前に立った。
社員宛てのものは、オフィスに立ち寄った時に持って行ってもらえるようとに分けて、工藤宛のものは言われたとおり、まず中身を確認することにした。
加絵や佳乃からのものは開けるのに少し抵抗があったが、とにかく開けて、チョコレートや菓子類、食料品や酒などの類とそうでないものに分け、リストを作ってメッセージカードと一緒に渡すことにした。
加絵からはベネチアングラスと高級そうなワイン、ルクレツィアからはアルマーニのネクタイ数本と妥当なところだが、佳乃からは平造と工藤、それに良太宛のもあってちょっと驚いた。
平造宛てには、アンティークのオルゴールつき置時計とあった。
「昔の家にあったものによく似ていて懐かしかったので、ぜひ、別荘に置いてください」
メッセージはカードでそのままつけてあるのでつい読んでしまう。
工藤にはコニャックとラム酒だ。
それに良太にはチェーンがついた銀細工のラペルピンである。
先には小さなイルカが彫られている。
「うっわ、お返しとかどうしよ」
そういう事態が待っているとは思っていなかった。
とりあえずそれは置いといて、ちょっと気が引けたが、真帆や芽久のも開けることにした。
真帆の包みを開けると、大きなチョコレートケーキに手編みのセーターである。
ケーキもどうやら手作りらしい。
芽久の袋から取り出したものは、小さな箱ではあったがブルガリのカフス。
「これって、すんげく高そう」
それにピエール何たらの高級チョコレート。
いずれにせよ、みんな思いを込めてってとこなんだよな。
ちょうどそこへ真中が飛び込んできた。
「すみません、遅くなりました!」
「おう。じゃな、明日また連絡するわ」
小笠原はそう言うと、真中を従えて出て行った。
良太はしばしぼんやり、突っ立っていた。
「そんな簡単にいけば、俺もそんなグルグルしないって…」
夜になると一層冷え込んできた。
ネットの天気予報を見ると、北海道は吹雪くという予報である。
「工藤、明日帰れるのかな……」
未明から関東地方の平野部でも雪が降るという。
「ナータンたちも寒いかも。そうだ、早速、もらったベッド使わせよっと」
仕事に区切りをつけると、良太は小夜子からもらったペット用ベッドの入った紙袋を抱え、灯りやエアコンを消してオフィスを出た。
バレンタインデーの朝、東京は雪景色だった。
だが、ベタ雪は滑りやすく、電車は遅れ、首都高ではあちこちで通行止めが相次いだ。
空港も無論例外ではなく、さらに当然北海道東北も大荒れで何便かが欠航した。
その中に工藤の乗る予定だった便も含まれていて、札幌で足止めをくらった工藤は空港のラウンジでイラついていた。
航空会社のカウンターで再三確認しているが、次の便の予定がわからない。
「まだ、飛ばないのか!」
あいにくここも禁煙である。
煙草をくわえることもできないのが、工藤のイライラを増幅させていた。
支障をきたすようなスケジュールはなかったものの、実を言えば久しぶりに時間が空いたので、良太を誘って食事でもしようかなどと考えていたのだ。
ドイツから戻った日以来、すれ違いばかりでほとんど顔を合わせることもなく、しかも千雪に言われ、ものわかりのいい上司をきどってスキー合宿に行かせてやったりで、まともに言葉もかわしていない。
おまけにバレンタインだかなんだか知らないが、女どもが余計なものを送りつけてきやがってと、はっきり言って工藤にしてみれば、バレンタインのプレゼントなんてものは迷惑極まりないのである。
そんなもののお陰で、良太があてこすりのようにプレゼントの山をどうするかなどと聞いてきたので、また妙な邪推をされるのも冗談じゃなく、そんなものは全部開けて食い物でなくても欲しいやつにくれてやればいい! と、つい怒鳴り返してしまった。
バレンタインもクリスマスも工藤にはどうでもいいことだ。
ただ、今日は久しぶりに仕事の入っていない土曜日なのだ。
じりじりと無駄に時間を潰していた工藤の耳に、「お待たせいたしました…」という館内アナウンスが聞こえてきた。
ネットでもテレビでも、朝から航空便に遅れや欠航が出ているという情報を流していた。
良太は工藤の乗るはずだった新千歳空港からの便が欠航になったことを確認すると、ついつい、あーあ、と口にする。
「ってことは、今日も札幌泊まりってことか」
やっぱり山之辺芽久や黒川真帆じゃなくてもがっくりである。
土曜日ではあるが、何となくオフィスでパソコンの前にいた。
小笠原から、飲まないかという連絡が入ったが、急な仕事が入ったと言ってまた今度ということになった。
もちろん、急な仕事はウソだが、何となくそういう気分にはなれなかったのだ。
外を見やるとようやく雪がやみ、青空なんかもちょこっと見えたりするから、少しは気温もあがるだろう。
良太はデスクワークに一区切りつけると、休み明けに面倒な仕事に入る前に、バレンタイン用の仕分けやらをやってしまおうとテーブルに積まれたチョコや贈り物の山の前に立った。
社員宛てのものは、オフィスに立ち寄った時に持って行ってもらえるようとに分けて、工藤宛のものは言われたとおり、まず中身を確認することにした。
加絵や佳乃からのものは開けるのに少し抵抗があったが、とにかく開けて、チョコレートや菓子類、食料品や酒などの類とそうでないものに分け、リストを作ってメッセージカードと一緒に渡すことにした。
加絵からはベネチアングラスと高級そうなワイン、ルクレツィアからはアルマーニのネクタイ数本と妥当なところだが、佳乃からは平造と工藤、それに良太宛のもあってちょっと驚いた。
平造宛てには、アンティークのオルゴールつき置時計とあった。
「昔の家にあったものによく似ていて懐かしかったので、ぜひ、別荘に置いてください」
メッセージはカードでそのままつけてあるのでつい読んでしまう。
工藤にはコニャックとラム酒だ。
それに良太にはチェーンがついた銀細工のラペルピンである。
先には小さなイルカが彫られている。
「うっわ、お返しとかどうしよ」
そういう事態が待っているとは思っていなかった。
とりあえずそれは置いといて、ちょっと気が引けたが、真帆や芽久のも開けることにした。
真帆の包みを開けると、大きなチョコレートケーキに手編みのセーターである。
ケーキもどうやら手作りらしい。
芽久の袋から取り出したものは、小さな箱ではあったがブルガリのカフス。
「これって、すんげく高そう」
それにピエール何たらの高級チョコレート。
いずれにせよ、みんな思いを込めてってとこなんだよな。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
風そよぐ
chatetlune
BL
工藤と良太、「花を追い」のあとになります。
ようやく『田園』の撮影も始まったが、『大いなる旅人』の映画化も決まり、今度は京都がメイン舞台だが、工藤は相変わらずあちこち飛び回っているし、良太もドラマの立ち合いや、ドキュメンタリー番組制作の立ち合いや打ち合わせの手配などで忙しい。そこにまた、小林千雪のドラマが秋に放映予定ということになり、打ち合わせに現れた千雪も良太も疲労困憊状態で………。
夢のつづき
chatetlune
BL
工藤×良太 月の光が静かにそそぐ の後エピソードです。
ただでさえ仕事中毒のように国内国外飛び回っている工藤が、ここのところ一段と忙しない。その上、山野辺がまた妙に工藤に絡むのだが、どうも様子が普通ではないし、工藤もこそこそ誰かに会っている。不穏な空気を感じて良太は心配が絶えないのだが………
逢いたい
chatetlune
BL
工藤×良太、いつかそんな夜が明けても、の後エピソードです。
厳寒の二月の小樽へ撮影に同行してきていた良太に、工藤から急遽札幌に来るという連絡を受ける。撮影が思いのほか早く終わり、時間が空いたため、準主役の青山プロダクション所属俳優志村とマネージャー小杉が温泉へ行く算段をしている横で、良太は札幌に行こうかどうしようか迷っていた。猫の面倒を見てくれている鈴木さんに土産を買った良太は、意を決して札幌に行こうとJRに乗った。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
彼と僕の最上の欠点
神雛ジュン@元かびなん
BL
中学生の母親から生まれた月瀬幸輝は厳しい祖父母のもと、母親とは離れ離れにされた上、誰にも甘えることが出来ない境遇に置かれて過ごしてきた。
そんな複雑な環境のせいで真に心を寄せられる相手が作れなかった幸輝は、孤独という環境に適応できない心の病を患ってしまう。
社会人となって一人暮しをしても、一人になると孤独感に押し潰され食事も満足に取ることもできない。そこまで弱ってしまった幸輝を救ったのは、新しい職場で出会った十九歳年上の無骨な男・各務誠一だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる