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バレンタインバトル 5
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「今日はプライベートだよぉ。明日バレンタインだけど、土曜日だから、直から良太ちゃんへ」
直子は抱えていた淡いラベンダー色のバラの花束とチョコレートらしい包みを差し出した。
「え、俺に? うわ、すごいね、この花束」
「今年は、お花にしたんだ。プラグインにはカラーにしたの。さっき寄ってきたんだ」
「ありがとう。俺、花なんかもらったのって初めてかも。何か嬉しい」
「ほんと? よかった」
「でも、どうしよう、こっちのテーブルに飾るのがいいか。鈴木さん、花瓶とかありましたっけ?」
鈴木さんも微笑ましそうに二人を眺めていたが、「ありますよ、ちょっと待っててね」とキッチンに行った。
「佐々木ちゃんにもお花にしようと思ったら、沢村っちに先越されちゃって、今回はチョコとお酒にしたんだ。今朝、も、すんごいカサブランカの花束が届いちゃって、もちろんチョコとそれ以外にD&Gのジャケットとかワークシューズとか。絶対佐々木ちゃん似合いそう。でもって、バレンタイン用のカードにしっかり、手書きのラブラブなメッセージも入ってるし」
良太は苦笑する。
「あいつ、極端だよな。興味ない相手にはひとっこともしゃべんないくせに」
「でも、めちゃストレートでわかりやすいよね。佐々木ちゃんってば、何で実名で送るんだって怒ってたけど、まあ、あたしにもついでにチョコとD&Gのゲキカワブローチ送ってくれたの、ほら。お世話になったお礼だって」
直子はコートの胸につけた、音符のモチーフのブローチをちょっとつまんで良太に見せた。
鈴木さんが大きめの花瓶を持ってくると、直子は大量のバラをきれいに生けた。
「あら、ステキね。可愛くてオフィスが明るくなった気がするわ」
オフィスには業者を頼んでドアの近くに花をアレンジメントしてもらっているが、どうしても観賞用という感じになってしまう。
鈴木さんが良太の母親の焼いたチョコレートケーキと紅茶を直子に持ってきたので、コーヒーブレイクになった。
「わあ、美味しいよ、これ!」
一口食べて、直子が嬉しそうに言った。
「よかった。もらうばっかじゃ申し訳ないし」
「ああ、でもね、直もチョコ好きだし、女子同士でもチョコプレゼントしあったりするの」
「へえ、そうなんだ」
女子同士のやり取りなら可愛いかもしれないが、ヤロウ同士でチョコのやり取りとか、かなり薄ら寒いよな。
変な想像をして、良太は自分でげんなりした。
ああ、でも、藤堂さんは別か。
なぜかあの人の場合、違和感がない。
「ご馳走様。じゃ、またね、良太ちゃん」
バイバイ、と直子が出ていってから、良太はとりあえず昨日から考えていることを実行しようという気になった。
「鈴木さん、俺ちょっと用があって、少し早めだけど昼行って来ていいですか?」
「いいわよ。今日は朝、お弁当買ってきたから、ごゆっくり」
時間は十一時をちょっと回ったところだった。
地下鉄で外苑前に出ると、目当ての店はすぐ見つかった。
たまには酒ではないものを工藤にプレゼントしてみようかどうしようかと、昨夜ネットでいろいろ探したりしたのだが、今ひとつ逡巡していた。
良太を後押ししたのは沢村のプレゼントだ。
たまには、沢村みたいにストレートにやってみようかと。
父親なら二万云千円也のつるしのジャケットでもいいが、工藤にはそんなわけにはいかない。
かといって高級ブランドのスーツやらなんかはとても手が出ないし、手が届きそうなネクタイは工藤からはもらったことはあるが、自分が、しかもバレンタインなんかに贈った日には、つけてくれたら嬉しいが、それはそれで何やら気恥ずかしい。
自分が買えるそこそこのもので、工藤の持っているものに混じってもわからないようなものがいい、ということで色々考えた挙句、結局サングラスになった。
サングラスならいくつあっても構わないだろう。
あの男がサングラスをするのはカッコづけでも何でもなく、ただ瞳の色が薄いので眩しいらしい。
例えラッピングのままクローゼット行きだとしても、使っているか使っていないかわからなければいいのだ、とりあえず自分が贈りたいという欲求は満たされるのだから。
だってほんとは、好きな人に何かあげたいって日だろ?
と、ここまでやってきていながら、今更ながらにグダグダと考え考え、店の中に足を踏み入れるまで五分、店の前を行ったり来たりして、ようやくドアを開けた。
時間的なものもあるだろう、客はまばらで、カップルか女性客が数名いるだけだ。
大体こんな高級ブランドの店にプライベートで入ること自体、良太には勇気がいったのだが、静かでシックな雰囲気の店内をゆっくり歩くと、やがて目当てのものを見つけた。
「これ、お願いします。あの、ラッピングもお願いします」
形も色も工藤が持っているものと割と似ているが、だからこそ好みに反することもないだろう。
ただし母親のチョコレートケーキと一緒に渡せば、とちょっと姑息なことを考えていた。
「バレンタイン用のラッピングになさいますか?」
ここの高級ブランドのスーツをビシッと着こなしたイケメンの男性スタッフが、良太に真顔でそう尋ねた。
確かにさり気なく、バレンタインデーの贈り物に、といったポップが店内のそこここに置いてある。
直子は抱えていた淡いラベンダー色のバラの花束とチョコレートらしい包みを差し出した。
「え、俺に? うわ、すごいね、この花束」
「今年は、お花にしたんだ。プラグインにはカラーにしたの。さっき寄ってきたんだ」
「ありがとう。俺、花なんかもらったのって初めてかも。何か嬉しい」
「ほんと? よかった」
「でも、どうしよう、こっちのテーブルに飾るのがいいか。鈴木さん、花瓶とかありましたっけ?」
鈴木さんも微笑ましそうに二人を眺めていたが、「ありますよ、ちょっと待っててね」とキッチンに行った。
「佐々木ちゃんにもお花にしようと思ったら、沢村っちに先越されちゃって、今回はチョコとお酒にしたんだ。今朝、も、すんごいカサブランカの花束が届いちゃって、もちろんチョコとそれ以外にD&Gのジャケットとかワークシューズとか。絶対佐々木ちゃん似合いそう。でもって、バレンタイン用のカードにしっかり、手書きのラブラブなメッセージも入ってるし」
良太は苦笑する。
「あいつ、極端だよな。興味ない相手にはひとっこともしゃべんないくせに」
「でも、めちゃストレートでわかりやすいよね。佐々木ちゃんってば、何で実名で送るんだって怒ってたけど、まあ、あたしにもついでにチョコとD&Gのゲキカワブローチ送ってくれたの、ほら。お世話になったお礼だって」
直子はコートの胸につけた、音符のモチーフのブローチをちょっとつまんで良太に見せた。
鈴木さんが大きめの花瓶を持ってくると、直子は大量のバラをきれいに生けた。
「あら、ステキね。可愛くてオフィスが明るくなった気がするわ」
オフィスには業者を頼んでドアの近くに花をアレンジメントしてもらっているが、どうしても観賞用という感じになってしまう。
鈴木さんが良太の母親の焼いたチョコレートケーキと紅茶を直子に持ってきたので、コーヒーブレイクになった。
「わあ、美味しいよ、これ!」
一口食べて、直子が嬉しそうに言った。
「よかった。もらうばっかじゃ申し訳ないし」
「ああ、でもね、直もチョコ好きだし、女子同士でもチョコプレゼントしあったりするの」
「へえ、そうなんだ」
女子同士のやり取りなら可愛いかもしれないが、ヤロウ同士でチョコのやり取りとか、かなり薄ら寒いよな。
変な想像をして、良太は自分でげんなりした。
ああ、でも、藤堂さんは別か。
なぜかあの人の場合、違和感がない。
「ご馳走様。じゃ、またね、良太ちゃん」
バイバイ、と直子が出ていってから、良太はとりあえず昨日から考えていることを実行しようという気になった。
「鈴木さん、俺ちょっと用があって、少し早めだけど昼行って来ていいですか?」
「いいわよ。今日は朝、お弁当買ってきたから、ごゆっくり」
時間は十一時をちょっと回ったところだった。
地下鉄で外苑前に出ると、目当ての店はすぐ見つかった。
たまには酒ではないものを工藤にプレゼントしてみようかどうしようかと、昨夜ネットでいろいろ探したりしたのだが、今ひとつ逡巡していた。
良太を後押ししたのは沢村のプレゼントだ。
たまには、沢村みたいにストレートにやってみようかと。
父親なら二万云千円也のつるしのジャケットでもいいが、工藤にはそんなわけにはいかない。
かといって高級ブランドのスーツやらなんかはとても手が出ないし、手が届きそうなネクタイは工藤からはもらったことはあるが、自分が、しかもバレンタインなんかに贈った日には、つけてくれたら嬉しいが、それはそれで何やら気恥ずかしい。
自分が買えるそこそこのもので、工藤の持っているものに混じってもわからないようなものがいい、ということで色々考えた挙句、結局サングラスになった。
サングラスならいくつあっても構わないだろう。
あの男がサングラスをするのはカッコづけでも何でもなく、ただ瞳の色が薄いので眩しいらしい。
例えラッピングのままクローゼット行きだとしても、使っているか使っていないかわからなければいいのだ、とりあえず自分が贈りたいという欲求は満たされるのだから。
だってほんとは、好きな人に何かあげたいって日だろ?
と、ここまでやってきていながら、今更ながらにグダグダと考え考え、店の中に足を踏み入れるまで五分、店の前を行ったり来たりして、ようやくドアを開けた。
時間的なものもあるだろう、客はまばらで、カップルか女性客が数名いるだけだ。
大体こんな高級ブランドの店にプライベートで入ること自体、良太には勇気がいったのだが、静かでシックな雰囲気の店内をゆっくり歩くと、やがて目当てのものを見つけた。
「これ、お願いします。あの、ラッピングもお願いします」
形も色も工藤が持っているものと割と似ているが、だからこそ好みに反することもないだろう。
ただし母親のチョコレートケーキと一緒に渡せば、とちょっと姑息なことを考えていた。
「バレンタイン用のラッピングになさいますか?」
ここの高級ブランドのスーツをビシッと着こなしたイケメンの男性スタッフが、良太に真顔でそう尋ねた。
確かにさり気なく、バレンタインデーの贈り物に、といったポップが店内のそこここに置いてある。
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