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バレンタインバトル 1
しおりを挟むACT 1
小林千雪に誘われた軽井沢のスキー合宿から良太が戻ったのは昨日の夕方だったが、オフィスの上に住居があるお陰で、合宿に行っている間猫たちの世話をしてくれた鈴木さんに、お土産のお菓子をお礼に持って行った。
ついでに、気になっていた仕事があり、結局夜八時頃までオフィスにいた。
月曜火曜と二日間も思い切って休みをもらったものの、工藤がOKを出そうが出すまいが、自分の仕事量は変わるわけではない。
ここ乃木坂にある青山プロダクション。
タレントのプロモーション及びテレビ番組、映画の企画制作が主な業務内容である。
社長の工藤高広は敏腕プロデューサーとして業界に名を馳せ、知らぬものがないという存在だが、縁は切っているものの広域暴力団組長の甥という出自のせいで会社は常に人手不足、工藤も国内国外を問わず走り回っている。
社員である良太も工藤に倣うように仕事は飽和状態である。
祝日の今日も自主振替えのようなもので、良太は朝からオフィスでたまったデスクワークをこなしていた。
祝日だからセーターとジーンズで動いているが、当然、鈴木さんは来ない。
エアコンはいいとしても、一応節電を考えて、自分の周りだけ灯りをつけている。
「昨日、沢村のやつちゃんと宮崎戻ったんだろうな」
良太はスキー合宿のことを思い出していた。
今回の合宿はいろんなメンバーが集まっていて面白かったのだが、友人である人気スラッガー沢村が、春のキャンプに入っているにもかかわらず、休日とはいえ宮崎から恋人の佐々木をこっそり追いかけてきて、一騒動起こしてくれた。
どうやら喧嘩してたみたいだけど、沢村が佐々木の車を運転して帰ったから、何とか仲直りしたんだろうけど。
ってか、要はラブラブなんだよっ! あの二人は。
あのヤロウ、「良太はまだ手が離せないっていうので」とか何とか勝手なこと言い訳並べて、佐々木さんを無理やり引っ張ってたったか帰りやがって。
まあ、俺としても二時間以上もあの二人のお邪魔虫になるつもりはなかったけどさっ!
この埋め合わせはしてもらうからな、沢村!
沢村たちに遅れること一時間後、行きは佐々木の車に便乗させてもらった良太はあぶれた形になったものの、ちょうど翌日の仕事のために帰るという研二の車に三田村と一緒に乗せてもらったのだ。
道中、千雪の同級生二人が、高校時代の千雪のエピソードなどいろいろ話をしてくれたお蔭で二時間ちょっとがあっという間だった。
三田村は面白い男で、特に千雪の小説が初めて映画化された頃の話は、当時の工藤のことも聞けて、良太としては思わぬ拾い物をした感があった。
今朝大阪に行った工藤は夜には戻ってくるはずだが、オフィスに寄るかどうかはわからない。
明日はまた俺、ロケだしな。
また工藤と行き違いになるのは必須で、東洋グループのパーティまでまともに顔を合わせないなんてこともあり得るかも。
週末、青山プロダクションにとっては重要なスポンサー企業である東洋グループの創立記念パーティに、グループ次期CEOと噂される東洋商事社長綾小路紫紀から直々の招待を受けている。
ふと顔を上げると、壁の時計は既に一時になろうとしていた。
「もうこんな時間か。弁当でも買いに行くか」
昨日辺りからまたマイナス四十度の寒気団が南下し、日本中すっぽり入っているとかで夕べは夜半から東京でも雪が降った。
外に出るとびゅうびゅう刺すように冷たい風が吹きつけ、あっという間に体温をさげてしまう。
「うう、寒ぅ…………」
良太はマフラーで口元辺りまで覆った。
短いダウンジャケットではあまり防寒対策にならないくらいだ。
数センチ積もった雪は、影になっているところにはまだ消えないまま残っている。
そういえばこの冬はまだ風邪を引いていない。
インフルエンザも流行っているし、気をつけないとな。
弁当を買うべく近くのコンビニに寄った良太は、ドアを開けた途端、どーんと色とりどりのチョコのラッピングの山を見て、げっと思わず口にしそうになった。
バレンタインデー………
天井からはあちこちにチョコやプレゼントの購入を促すポップが踊る。
日本では、男がチョコをもらう日になっている。
最近では義理チョコなるものも変遷を遂げ、バレンタインギフトは多種多様だ。
思わず、はあ、と良太は溜息をついた。
ここ数年、鈴木さんを始め、会社所属女優のアスカや奈々、独立した万里子や大物女優の山内ひとみもきっちりチョコやプレゼントをくれる。
もちろん妹の亜弓も何かしら送ってくるし、母親は温かい手編みのセーターやマフラーや帽子などを送ってくれる。
その他、業者さんや仕事関係者からの義理チョコやギフトが工藤だけでなく、良太にも届くようになった。
もちろん俳優の志村や小笠原宛のものは、破格の量なので宅配業者も一度にどんと持ってくるため、そのまま上のリラクゼーションルームに一時保管することにしている。
良太でさえ去年はもらった分のお返しをするのに、ホワイトデーには四苦八苦した。
工藤の分も一緒にやらなくてはならないからだ。
だが、小笠原のマネージャー真中にすればこの時期の大変さは並大抵ではないようだ。
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