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空は遠く 74
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「すんげ、ふっかふかだぁ」
廊下側のベッドを占領した啓太は見るからに子供の顔でピョンピョンはねて喜んでいる。
「俺のベッドより、こっちのが断然いいぜ」
負けた東山はマットレスの上に敷いた布団にTシャツとスエットで寝転がった。
「またまたぁ、これだからええとこのおぼっちゃまは。遠慮しないでパンツ一丁になっていいんだぜ」
最後に風呂を使い、きっちりパジャマを着こんでいる佑人の肩にTシャツ短パンの坂本が腕を回す。
「爽やかなソープの香り、うー、お兄さん、オオカミになっちゃってもいい?」
「食われる前に張り倒して逃げろよ! 成瀬」
横になったまま東山が茶々をいれる。
「みんな同じ匂いだろ? 同じボディソープ使ったんだから」
さらりと返して坂本に肩を貸したままベッドに向かう佑人に、「それを言っちゃダメじゃん、貞操の危機でありんす、とか返してくんないと」と坂本が文句を垂れる。
ラッキーは佑人のベッドの横にクッションをいくつか置いてもらって、持参したラッキー用の毛布を掛けた上に、もうちゃっかり横になっていた。
「修学旅行もこのみんななら面白かったのにな」
啓太もやっぱりTシャツに短パンでベッドの上に胡坐をかいている。
「修学旅行か、そういや、とっくに終わってたよな、俺らの学年だけ一年の三月ってないよなぁ、例年二年の夏に北海道旅行って決まってんのに、ちょうどサミットとぶつかったんだっけ?」
肘枕で横になりながら、東山が言った。
「だよなー、政治家のお蔭で俺らの修学旅行ってとても修学旅行って気分じゃなかったよな、一年ん時じゃなー。しかも北海道なんか猛吹雪だし、結局九州巡り」
「そういや、福岡で東、地元の不良にからまれて相手ぼこぼこにしたっつって夜こそっと戻ってきたよな」
啓太がけらけら笑う。
「るっせー、旅の喧嘩はやり逃げっつーだろーが」
「んな換言、あるかよ」
坂本が吹き出し笑いをすると、啓太も東山も笑い、つられて佑人も笑う。
結構不埒な内容だが、人前で何も考えずに素直に笑えている自分に気づいて、少し不思議な気分になる。
「よーし、んじゃ、来年の春、卒業したらどっかみんなで行こうぜ。その頃なら免許取ってるはずだし。卒業旅行ってやつ」
「のった! それいい! どこ行く?」
坂本の提案に啓太がすぐに反応する。
「余裕、ぶっこいてんなー、坂本。もう合格したつもりでやんの。俺なんかどうなってっかわかんねーってのに」
最近、ちょっと必死になって勉強し始めた東山は眉をひそめる。
「まあまあ、それはそれ。な、成瀬もいいだろ?」
急に返答を求められて、佑人はさすがに躊躇する。
「どうかな。受かってれば……」
合否よりも気になるのは力の存在だ。
力も一緒に行くことになるのだろうか。
でもそれこそ、その頃、この関係もどうなっているかわからない。
「成瀬が受からないわけないじゃん。まあ、あとは力だが、ヤツはその頃になってみないとわからないしな」
「そうそ。どんな女が傍にいることやら。まず、内田じゃないことはかけてもいいぜ」
東山は断言する。
「でもよ、あいつどっか狙ってる大学あんの? まあ、成績もそこそこだし、理系っつーのもうなずけるけどよ。坂本、何か聞いてる?」
「いんや。ヤロウ、受験のことになるとはぐらかしやがって」
どうやら力はまだ誰にも獣医学部を受けることは話していないらしい。
いずれにせよ、卒業までもう十カ月ほどだ。
卒業すれば本当に力とは縁が切れる。
だったら、もしその頃までこのあやふやな関係が続いているのなら、坂本の言う卒業旅行に佑人も力と一緒に行ってみたい気がした。
それからしばらく、小学校やら保育園幼稚園の時の話で盛り上がり、敬遠されるかなと思いつつ佑人もボストンの小学校時代の話をしたが、みんなが興味津々で聞いてくれたので少し嬉しくなった。
今までボストンのことを話すとシラッとなったり、やっかみ半分の中傷を言われたりした経験しかなかったからだ。
だがそれもたまたまなのかもしれないし、相手によっても違うのだ。
「あーっと、喉かわいたよな、よーし、じゃんけんで負けたヤツ、冷蔵庫からノンアル缶とポカリ持ってくる!」
今度は負けてしまった佑人が持ってくることになった。
そういえば何時なのかも忘れるほど話に夢中になっていたが、おそらくもう午前零時をとっくに過ぎているに違いない。
電気をつけなくても、センサーでフットライトが点くのでそのまま階段を降りて、キッチンに向かう。
さすがにリビングは真っ暗で灯りを探そうと恐る恐る歩いていた佑人は、何かに足がぶつかって前のめりに転びそうになった。
「わ!!」
「おい!!」
辛うじて転ばずに抱きかかえられた、と思った次の瞬間、二人とも絨毯の上に転がっていた。
頭の後ろに大きな手があった。
おそらく転んだ拍子に何かにぶつけたりしないように庇ってくれたのだ。
いや、それより今のこの状況に佑人の心臓は飛び上がらんばかりに跳ねた。
転ばないように抱えたためにバランスを崩し、絨毯の上に佑人を押し付けるようにして力の身体が覆いかぶさっていた。
出がけに坂本がカギを渡していたから帰ってきていたのだろう、声で力だとは分かったが、予想だにしない出来事に佑人は息をのむ。
廊下側のベッドを占領した啓太は見るからに子供の顔でピョンピョンはねて喜んでいる。
「俺のベッドより、こっちのが断然いいぜ」
負けた東山はマットレスの上に敷いた布団にTシャツとスエットで寝転がった。
「またまたぁ、これだからええとこのおぼっちゃまは。遠慮しないでパンツ一丁になっていいんだぜ」
最後に風呂を使い、きっちりパジャマを着こんでいる佑人の肩にTシャツ短パンの坂本が腕を回す。
「爽やかなソープの香り、うー、お兄さん、オオカミになっちゃってもいい?」
「食われる前に張り倒して逃げろよ! 成瀬」
横になったまま東山が茶々をいれる。
「みんな同じ匂いだろ? 同じボディソープ使ったんだから」
さらりと返して坂本に肩を貸したままベッドに向かう佑人に、「それを言っちゃダメじゃん、貞操の危機でありんす、とか返してくんないと」と坂本が文句を垂れる。
ラッキーは佑人のベッドの横にクッションをいくつか置いてもらって、持参したラッキー用の毛布を掛けた上に、もうちゃっかり横になっていた。
「修学旅行もこのみんななら面白かったのにな」
啓太もやっぱりTシャツに短パンでベッドの上に胡坐をかいている。
「修学旅行か、そういや、とっくに終わってたよな、俺らの学年だけ一年の三月ってないよなぁ、例年二年の夏に北海道旅行って決まってんのに、ちょうどサミットとぶつかったんだっけ?」
肘枕で横になりながら、東山が言った。
「だよなー、政治家のお蔭で俺らの修学旅行ってとても修学旅行って気分じゃなかったよな、一年ん時じゃなー。しかも北海道なんか猛吹雪だし、結局九州巡り」
「そういや、福岡で東、地元の不良にからまれて相手ぼこぼこにしたっつって夜こそっと戻ってきたよな」
啓太がけらけら笑う。
「るっせー、旅の喧嘩はやり逃げっつーだろーが」
「んな換言、あるかよ」
坂本が吹き出し笑いをすると、啓太も東山も笑い、つられて佑人も笑う。
結構不埒な内容だが、人前で何も考えずに素直に笑えている自分に気づいて、少し不思議な気分になる。
「よーし、んじゃ、来年の春、卒業したらどっかみんなで行こうぜ。その頃なら免許取ってるはずだし。卒業旅行ってやつ」
「のった! それいい! どこ行く?」
坂本の提案に啓太がすぐに反応する。
「余裕、ぶっこいてんなー、坂本。もう合格したつもりでやんの。俺なんかどうなってっかわかんねーってのに」
最近、ちょっと必死になって勉強し始めた東山は眉をひそめる。
「まあまあ、それはそれ。な、成瀬もいいだろ?」
急に返答を求められて、佑人はさすがに躊躇する。
「どうかな。受かってれば……」
合否よりも気になるのは力の存在だ。
力も一緒に行くことになるのだろうか。
でもそれこそ、その頃、この関係もどうなっているかわからない。
「成瀬が受からないわけないじゃん。まあ、あとは力だが、ヤツはその頃になってみないとわからないしな」
「そうそ。どんな女が傍にいることやら。まず、内田じゃないことはかけてもいいぜ」
東山は断言する。
「でもよ、あいつどっか狙ってる大学あんの? まあ、成績もそこそこだし、理系っつーのもうなずけるけどよ。坂本、何か聞いてる?」
「いんや。ヤロウ、受験のことになるとはぐらかしやがって」
どうやら力はまだ誰にも獣医学部を受けることは話していないらしい。
いずれにせよ、卒業までもう十カ月ほどだ。
卒業すれば本当に力とは縁が切れる。
だったら、もしその頃までこのあやふやな関係が続いているのなら、坂本の言う卒業旅行に佑人も力と一緒に行ってみたい気がした。
それからしばらく、小学校やら保育園幼稚園の時の話で盛り上がり、敬遠されるかなと思いつつ佑人もボストンの小学校時代の話をしたが、みんなが興味津々で聞いてくれたので少し嬉しくなった。
今までボストンのことを話すとシラッとなったり、やっかみ半分の中傷を言われたりした経験しかなかったからだ。
だがそれもたまたまなのかもしれないし、相手によっても違うのだ。
「あーっと、喉かわいたよな、よーし、じゃんけんで負けたヤツ、冷蔵庫からノンアル缶とポカリ持ってくる!」
今度は負けてしまった佑人が持ってくることになった。
そういえば何時なのかも忘れるほど話に夢中になっていたが、おそらくもう午前零時をとっくに過ぎているに違いない。
電気をつけなくても、センサーでフットライトが点くのでそのまま階段を降りて、キッチンに向かう。
さすがにリビングは真っ暗で灯りを探そうと恐る恐る歩いていた佑人は、何かに足がぶつかって前のめりに転びそうになった。
「わ!!」
「おい!!」
辛うじて転ばずに抱きかかえられた、と思った次の瞬間、二人とも絨毯の上に転がっていた。
頭の後ろに大きな手があった。
おそらく転んだ拍子に何かにぶつけたりしないように庇ってくれたのだ。
いや、それより今のこの状況に佑人の心臓は飛び上がらんばかりに跳ねた。
転ばないように抱えたためにバランスを崩し、絨毯の上に佑人を押し付けるようにして力の身体が覆いかぶさっていた。
出がけに坂本がカギを渡していたから帰ってきていたのだろう、声で力だとは分かったが、予想だにしない出来事に佑人は息をのむ。
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