70 / 93
空は遠く 70
しおりを挟む
「いずれは俺また、ここ住みたいし」
坂本が言った。
「そうなんだ」
バスルームもきれいに使ってあるし、一階には応接間が一つ、二階には大小三つの部屋があり、その一つが坂本の部屋らしく、NBAの人気選手のポスターが壁にかけてあったり、トロフィーなどが飾ってあったりした。
「へえ、優勝したんだ? 中学の時?」
「まあね、地区大会でさ。マジ、NBAに入るとかって思ってたんだけどな」
「やめちゃったのか?」
空笑いをする坂本に佑人は聞いた。
「おいおい、俺ごときのレベルなんかどこにでもいるってこと。スカウトに来た高校とかもあったりしてさ。でも、主力高に行った連中なんかみたらてんで、俺なんかの力じゃ足元にも及ばない。しかもNBAなんか見た日には、さ。目が覚めたって感じで」
「もったいないな」
「……まあ、そう、周りはもったいないとか勝手なこと言うんだよ。でも自分のことわかってるのは自分だろ? で、勝手に有名校に入るんだろ、とか決めつけてくれちゃって」
掃除機を抱えて隣の部屋へと移動しながら、坂本は続けた。
「実際、うざくて」
「まさか、それがうちの学校、来た理由とか?」
「何だよ、成瀬だって、うちみたいな三流に入るような成績じゃないだろ?」
「近いからだって。せめて二流と言ってやれば? ってか、そのランクって、何だろうな。よく考えると」
しばし、坂本は足を止めた。
「学業とか、ガラとか?」
「ガラって何だよ」
佑人は笑う。
「重要な、分析材料だろ? 成瀬みたいな生徒が入って、ほんの少し、ランクが上がった」
「ランクとか……あまり好きじゃない」
「そう杓子定規に考えんな、ゲームみたいなもんだろ」
そうだな、まともに考え過ぎると佑人も自分でもよくわかっているのだが。
「やっぱり、中学の喧嘩が原因?」
「え」
窓を開けて部屋に風を入れようとした佑人は坂本を振り返る。
「おふくろさん、有名人だから色々言われたみたいだけど、成瀬が責任感じることないって」
「知ってた?」
「まあ、ちょっと聞いた」
「でも、怪我させた」
表情を硬くする佑人を見て、坂本は大仰に溜息をつく。
「だったら、俺ら、力を筆頭に、東もみんな、成瀬より大罪犯してるってことになるぜ? 練さんなんか、ほら、ブイブイいわせてた頃なんか、ちょっと怪我させたなんてもんじゃないし。でも今はもうちゃんとしてるぜ? んな昔のことにこだわってたら、ちっとも前に進めないだろうが」
坂本はいつになく熱っぽく語る。
「第一、喧嘩の原因って、彼女かばってだろ? 俺だって好きなやつが危ないってなら、いくらでも喧嘩してやるさ」
どこまで知っているのかと訝しんだものの、真剣な目を向ける坂本を見つめ、佑人は微笑んだ。
「坂本って、ひょっとしていいやつだった?」
「あったりまえだろ? 今さら」
「俺、要領悪いみたいでさ。兄にも言われたよ、マジに考え過ぎるって。でも性格だし、しょうがないよ」
「いや、だから、もちょっと肩の力抜いてだな、あたら短い青春を謳歌しなくてどうするよ!」
佑人はついに吹き出した。
「坂本、うちのおじいさんみたいなこと言ってる」
そういえばこんな風に昔のことを家族以外と話したことはなかったな、と佑人は思う。
いや、話すこと自体なかったな。
ざっと家の中の掃除を終えると、坂本は庭の隅にある物置から芝刈り機を出してきた。
「あ、それ、うちにもある」
「成瀬んちは広いから、こんなんじゃ大変だろ?」
「まあ、たまに造園業者に入ってもらうけど」
「だよな。うちなんかこれイッコで楽勝!」
言いながら、また物置に入ると今度はバーベキューセットを取り出してきた。
「俺ざっとやるから、成瀬、そっちスタンバって?」
「わかった」
始め、坂本から泊りで遠出などという誘いを受けた時はどうやって断ろうかくらい考えていたはずが、バーベキューセットを用意している今、結構楽しんでいることに佑人は気づいた。
家族以外では夏に柳沢と二人で料理をしたりテニスをしたりしたことはあったが、柳沢はあくまでも郁磨の友人だ。
「ここ塀が割と高いし、ラッキー出しても平気そうだな」
「ああ、いいぜ、終わったし」
リビングでおとなしく待っていたラッキーは佑人が呼ぶと勢いよく駆け出してきた。
しばらくラッキーの好きなフリスビーで遊んだが、坂本はラッキーとのこの遊びをかなり気に入ったようで、佑人より面白がってラッキーと戯れていた。
「はー、久々遊んだー」
坂本が刈ったばかりの芝の上に大の字に転がると、ラッキーもその傍でまだ期待に満ちた目で二人を見つめている。
「飯食ったら後で海、行こうぜ、ラッキー連れて。こんな猫の額じゃ、ラッキーには狭いよなー」
「勉強しにきたんじゃないのか?」
「だから、それも、ありってこと。あ、じゃあさ、これからオールイングリッシュ」
「いいよ」
ニンジンは苦手だということで意見が一致したものの、せっかく美月が用意してくれたものだということで食べようとやら、やっぱり二人で食べるには量が多すぎるとやら、何だかだと言いあいながら存分に食べた二人は、腹ごなしにラッキーを連れて海岸へと向かった。
坂本が言った。
「そうなんだ」
バスルームもきれいに使ってあるし、一階には応接間が一つ、二階には大小三つの部屋があり、その一つが坂本の部屋らしく、NBAの人気選手のポスターが壁にかけてあったり、トロフィーなどが飾ってあったりした。
「へえ、優勝したんだ? 中学の時?」
「まあね、地区大会でさ。マジ、NBAに入るとかって思ってたんだけどな」
「やめちゃったのか?」
空笑いをする坂本に佑人は聞いた。
「おいおい、俺ごときのレベルなんかどこにでもいるってこと。スカウトに来た高校とかもあったりしてさ。でも、主力高に行った連中なんかみたらてんで、俺なんかの力じゃ足元にも及ばない。しかもNBAなんか見た日には、さ。目が覚めたって感じで」
「もったいないな」
「……まあ、そう、周りはもったいないとか勝手なこと言うんだよ。でも自分のことわかってるのは自分だろ? で、勝手に有名校に入るんだろ、とか決めつけてくれちゃって」
掃除機を抱えて隣の部屋へと移動しながら、坂本は続けた。
「実際、うざくて」
「まさか、それがうちの学校、来た理由とか?」
「何だよ、成瀬だって、うちみたいな三流に入るような成績じゃないだろ?」
「近いからだって。せめて二流と言ってやれば? ってか、そのランクって、何だろうな。よく考えると」
しばし、坂本は足を止めた。
「学業とか、ガラとか?」
「ガラって何だよ」
佑人は笑う。
「重要な、分析材料だろ? 成瀬みたいな生徒が入って、ほんの少し、ランクが上がった」
「ランクとか……あまり好きじゃない」
「そう杓子定規に考えんな、ゲームみたいなもんだろ」
そうだな、まともに考え過ぎると佑人も自分でもよくわかっているのだが。
「やっぱり、中学の喧嘩が原因?」
「え」
窓を開けて部屋に風を入れようとした佑人は坂本を振り返る。
「おふくろさん、有名人だから色々言われたみたいだけど、成瀬が責任感じることないって」
「知ってた?」
「まあ、ちょっと聞いた」
「でも、怪我させた」
表情を硬くする佑人を見て、坂本は大仰に溜息をつく。
「だったら、俺ら、力を筆頭に、東もみんな、成瀬より大罪犯してるってことになるぜ? 練さんなんか、ほら、ブイブイいわせてた頃なんか、ちょっと怪我させたなんてもんじゃないし。でも今はもうちゃんとしてるぜ? んな昔のことにこだわってたら、ちっとも前に進めないだろうが」
坂本はいつになく熱っぽく語る。
「第一、喧嘩の原因って、彼女かばってだろ? 俺だって好きなやつが危ないってなら、いくらでも喧嘩してやるさ」
どこまで知っているのかと訝しんだものの、真剣な目を向ける坂本を見つめ、佑人は微笑んだ。
「坂本って、ひょっとしていいやつだった?」
「あったりまえだろ? 今さら」
「俺、要領悪いみたいでさ。兄にも言われたよ、マジに考え過ぎるって。でも性格だし、しょうがないよ」
「いや、だから、もちょっと肩の力抜いてだな、あたら短い青春を謳歌しなくてどうするよ!」
佑人はついに吹き出した。
「坂本、うちのおじいさんみたいなこと言ってる」
そういえばこんな風に昔のことを家族以外と話したことはなかったな、と佑人は思う。
いや、話すこと自体なかったな。
ざっと家の中の掃除を終えると、坂本は庭の隅にある物置から芝刈り機を出してきた。
「あ、それ、うちにもある」
「成瀬んちは広いから、こんなんじゃ大変だろ?」
「まあ、たまに造園業者に入ってもらうけど」
「だよな。うちなんかこれイッコで楽勝!」
言いながら、また物置に入ると今度はバーベキューセットを取り出してきた。
「俺ざっとやるから、成瀬、そっちスタンバって?」
「わかった」
始め、坂本から泊りで遠出などという誘いを受けた時はどうやって断ろうかくらい考えていたはずが、バーベキューセットを用意している今、結構楽しんでいることに佑人は気づいた。
家族以外では夏に柳沢と二人で料理をしたりテニスをしたりしたことはあったが、柳沢はあくまでも郁磨の友人だ。
「ここ塀が割と高いし、ラッキー出しても平気そうだな」
「ああ、いいぜ、終わったし」
リビングでおとなしく待っていたラッキーは佑人が呼ぶと勢いよく駆け出してきた。
しばらくラッキーの好きなフリスビーで遊んだが、坂本はラッキーとのこの遊びをかなり気に入ったようで、佑人より面白がってラッキーと戯れていた。
「はー、久々遊んだー」
坂本が刈ったばかりの芝の上に大の字に転がると、ラッキーもその傍でまだ期待に満ちた目で二人を見つめている。
「飯食ったら後で海、行こうぜ、ラッキー連れて。こんな猫の額じゃ、ラッキーには狭いよなー」
「勉強しにきたんじゃないのか?」
「だから、それも、ありってこと。あ、じゃあさ、これからオールイングリッシュ」
「いいよ」
ニンジンは苦手だということで意見が一致したものの、せっかく美月が用意してくれたものだということで食べようとやら、やっぱり二人で食べるには量が多すぎるとやら、何だかだと言いあいながら存分に食べた二人は、腹ごなしにラッキーを連れて海岸へと向かった。
2
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
「誕生日前日に世界が始まる」
悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です)
凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^
ほっこり読んでいただけたら♡
幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡
→書きたくなって番外編に少し続けました。
腐男子ですが何か?
みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。
ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。
そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。
幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。
そしてついに高校入試の試験。
見事特待生と首席をもぎとったのだ。
「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ!
って。え?
首席って…めっちゃ目立つくねぇ?!
やっちまったぁ!!」
この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

オレに触らないでくれ
mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。
見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。
宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。
高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。
『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる