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空は遠く 65
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「お前はどっちかっていうと……」
「落ちこぼれだろ?」
力が坂本の言葉じりを取って笑う。
「何だよぉ、どうせそうだよ。でも、何そのグループ分けとかって?」
「知るかよ! くっだらねぇ」
不機嫌そうに力が言った。
「なあ、坂本、俺、そのグループとか入ってねえからみんな俺に口きかねぇの?」
啓太はまた坂本に向き直る。
「うーん、明確な分け方があるわけじゃねぇし、派閥みてぇなもんだから。いんじゃね? 口ききたくないやつらと無理に話さなくても」
「だって、教室で一人じゃ寂しいよ!」
啓太は今にも泣きそうに喚く。
「誰かはいるだろ、きっと。んな、気にすることねぇって。ちなみに俺は適当に上位ランクのやつらとうまくやってるがな」
「てめぇはそういうやつだぜ、どこでも」
自慢げに話す坂本に、力が吐き捨てるように言う。
「一種のモラトリアムだから、学校とか。そんなこと考えるやつがいるんだよ」
イジメとか無視とかいう言葉がつい思い浮かんで佑人はそう口にした。
これはそういう目にあったやつじゃなきゃ、わからない。
「余裕の上から目線発言」
茶々を入れたのは力だ。
「それは山本の方じゃないのか? だいたい、勝手に人にランクとか、高田が一体何したっていうんだよ」
とまた佑人がムキになると、「まあまあ」と坂本が両手で二人を制するような仕草で、フフンと笑う。
「成瀬みたくまともに正義感かざすやつって、返り討ちになる手合いだよな。向うは逆に固まっちまうから」
「成瀬も力も喧嘩すんなよぉ。でないと俺、どこに行ったらいいかわかんねくなっちまう!」
必死な顔で訴える啓太に、佑人も少し気を取り直す。
「そうそう、お前、何かあったらこのグループに逃げ込めばいいんだって」
「グループって………」
坂本に、勝手にひとまとめにされて、佑人は眉を顰める。
「今更だろ? まあ、珍しい組み合わせではあるけどな。成瀬なんか、こいつらに脅されて嫌々引っ張りこまれて、いいようにされてんじゃないかって、俺に聞いてくるやつもいたもんな」
そんな風に見られているらしいことも佑人は知っていたが、敢えて自分から訂正することもしなかった。
「こいつがそんなタマかよ」
力はバカにしたようにせせら笑う。
「そうそう、それは成瀬の表の顔だっつっといたけどな」
「え、……それってどういうことだよ!」
あまりの言いぐさに佑人は坂本に詰め寄った。
「おい坂本、啓太と同じクラスなんだろ? だったら仲良くしてやれよ」
そこへ東山がイライラと口を挟む。
「ああ、ほら、俺、クラスじゃ上位ランクだからさ。いいじゃん、成瀬が言うように、モラトリアムの中だからこその遊びと思えば」
「お前みたいに達観できるやろうじゃねんだよ、啓太は」
「だってどうせ卒業したら終わりなんだから。あっという間だぜ? 一年なんか」
確かにそうだ。
佑人は思う。
だが得てして大人は、子供だからとか軽く考えてしまいがちだが、小学生は小学生なりの、中学生は中学生なりの世界がある。
考え方で一年は長くも短くもなる。
渦中にいる者はそれだけで精いっぱいで、その外のことなど気づく余裕はないのだ。
坂本のように達観するとか、力のように我関せずで歩いているやつらにはわからないだろう。
「何かあったら、いつでも来いよ。あんまり考え過ぎないようにした方がいい」
半べその啓太に佑人は優しく微笑んだ。
「わーん、成瀬ぇ」
「あ、成瀬、俺も俺も、何かあったら行くからさ」
また佑人に抱きつく啓太の後ろから坂本が調子のいいことを言う。
「坂本はそんな必要ないだろう」
佑人がすっぱり言い切ると、「振られたな」と東山が突っ込む。
「冷たい視線くれてんなよ、俺たちの仲で。何にもなくても行っちゃうもんね、俺は」
あっけらかんと言う坂本は、精神的にタフで柔軟なのだろう。
佑人には羨ましい限りだ。
何だかな、と佑人は心の中でため息を吐く。
穏やかな青空の下、終わりかけた桜の花びらを乗せて春風が傍らを過ぎて行った。
佑人ひとりでは入ることはないから、マックに寄るのは随分久しぶりだった。
授業が終わると、結局みんなでマックに寄ることになっていた。
まるで一年前と同じ展開である。
ただし、佑人の気持ち的には以前のようなささくれだったものが取れて少しなりとも穏やかでいられた。
「けどよ、成瀬、いいのか? 俺らなんかに付き合ってて、受験だろ?」
力、啓太、東山、坂本と佑人、五人で入って先に席を取ると、じゃんけんで負けた佑人と東山がみんなの分を買うために列に並んだ。
「東山だって受験だろ?」
同じことを返すと、東山は「いや、俺はまあ……いんだよ」と言葉を濁す。
「理学療法士目指すんだって?」
「あ、啓太だな、べらべらと」
東山はばつが悪そうに頭をかいた。
「お母さん、看護師さんだから影響受けたとか?」
「んなんでもないけどよ、医者とかんなるアタマないけど手に職っつうか、腕使う仕事とかならできるかなとか。ま、大学ダメでも専門学校とかあるし」
「そうか、目標あっていいな、東山も山本も」
「成瀬だって、T大だろ? すげえじゃん、そっか、余裕なんだもんな、成瀬。ってより、力、てっきり文系だと思ってたんだけど、何、あいつ何か目指してんの?」
「え?」
しまった、と佑人は目をそらす。
「落ちこぼれだろ?」
力が坂本の言葉じりを取って笑う。
「何だよぉ、どうせそうだよ。でも、何そのグループ分けとかって?」
「知るかよ! くっだらねぇ」
不機嫌そうに力が言った。
「なあ、坂本、俺、そのグループとか入ってねえからみんな俺に口きかねぇの?」
啓太はまた坂本に向き直る。
「うーん、明確な分け方があるわけじゃねぇし、派閥みてぇなもんだから。いんじゃね? 口ききたくないやつらと無理に話さなくても」
「だって、教室で一人じゃ寂しいよ!」
啓太は今にも泣きそうに喚く。
「誰かはいるだろ、きっと。んな、気にすることねぇって。ちなみに俺は適当に上位ランクのやつらとうまくやってるがな」
「てめぇはそういうやつだぜ、どこでも」
自慢げに話す坂本に、力が吐き捨てるように言う。
「一種のモラトリアムだから、学校とか。そんなこと考えるやつがいるんだよ」
イジメとか無視とかいう言葉がつい思い浮かんで佑人はそう口にした。
これはそういう目にあったやつじゃなきゃ、わからない。
「余裕の上から目線発言」
茶々を入れたのは力だ。
「それは山本の方じゃないのか? だいたい、勝手に人にランクとか、高田が一体何したっていうんだよ」
とまた佑人がムキになると、「まあまあ」と坂本が両手で二人を制するような仕草で、フフンと笑う。
「成瀬みたくまともに正義感かざすやつって、返り討ちになる手合いだよな。向うは逆に固まっちまうから」
「成瀬も力も喧嘩すんなよぉ。でないと俺、どこに行ったらいいかわかんねくなっちまう!」
必死な顔で訴える啓太に、佑人も少し気を取り直す。
「そうそう、お前、何かあったらこのグループに逃げ込めばいいんだって」
「グループって………」
坂本に、勝手にひとまとめにされて、佑人は眉を顰める。
「今更だろ? まあ、珍しい組み合わせではあるけどな。成瀬なんか、こいつらに脅されて嫌々引っ張りこまれて、いいようにされてんじゃないかって、俺に聞いてくるやつもいたもんな」
そんな風に見られているらしいことも佑人は知っていたが、敢えて自分から訂正することもしなかった。
「こいつがそんなタマかよ」
力はバカにしたようにせせら笑う。
「そうそう、それは成瀬の表の顔だっつっといたけどな」
「え、……それってどういうことだよ!」
あまりの言いぐさに佑人は坂本に詰め寄った。
「おい坂本、啓太と同じクラスなんだろ? だったら仲良くしてやれよ」
そこへ東山がイライラと口を挟む。
「ああ、ほら、俺、クラスじゃ上位ランクだからさ。いいじゃん、成瀬が言うように、モラトリアムの中だからこその遊びと思えば」
「お前みたいに達観できるやろうじゃねんだよ、啓太は」
「だってどうせ卒業したら終わりなんだから。あっという間だぜ? 一年なんか」
確かにそうだ。
佑人は思う。
だが得てして大人は、子供だからとか軽く考えてしまいがちだが、小学生は小学生なりの、中学生は中学生なりの世界がある。
考え方で一年は長くも短くもなる。
渦中にいる者はそれだけで精いっぱいで、その外のことなど気づく余裕はないのだ。
坂本のように達観するとか、力のように我関せずで歩いているやつらにはわからないだろう。
「何かあったら、いつでも来いよ。あんまり考え過ぎないようにした方がいい」
半べその啓太に佑人は優しく微笑んだ。
「わーん、成瀬ぇ」
「あ、成瀬、俺も俺も、何かあったら行くからさ」
また佑人に抱きつく啓太の後ろから坂本が調子のいいことを言う。
「坂本はそんな必要ないだろう」
佑人がすっぱり言い切ると、「振られたな」と東山が突っ込む。
「冷たい視線くれてんなよ、俺たちの仲で。何にもなくても行っちゃうもんね、俺は」
あっけらかんと言う坂本は、精神的にタフで柔軟なのだろう。
佑人には羨ましい限りだ。
何だかな、と佑人は心の中でため息を吐く。
穏やかな青空の下、終わりかけた桜の花びらを乗せて春風が傍らを過ぎて行った。
佑人ひとりでは入ることはないから、マックに寄るのは随分久しぶりだった。
授業が終わると、結局みんなでマックに寄ることになっていた。
まるで一年前と同じ展開である。
ただし、佑人の気持ち的には以前のようなささくれだったものが取れて少しなりとも穏やかでいられた。
「けどよ、成瀬、いいのか? 俺らなんかに付き合ってて、受験だろ?」
力、啓太、東山、坂本と佑人、五人で入って先に席を取ると、じゃんけんで負けた佑人と東山がみんなの分を買うために列に並んだ。
「東山だって受験だろ?」
同じことを返すと、東山は「いや、俺はまあ……いんだよ」と言葉を濁す。
「理学療法士目指すんだって?」
「あ、啓太だな、べらべらと」
東山はばつが悪そうに頭をかいた。
「お母さん、看護師さんだから影響受けたとか?」
「んなんでもないけどよ、医者とかんなるアタマないけど手に職っつうか、腕使う仕事とかならできるかなとか。ま、大学ダメでも専門学校とかあるし」
「そうか、目標あっていいな、東山も山本も」
「成瀬だって、T大だろ? すげえじゃん、そっか、余裕なんだもんな、成瀬。ってより、力、てっきり文系だと思ってたんだけど、何、あいつ何か目指してんの?」
「え?」
しまった、と佑人は目をそらす。
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