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空は遠く 56
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また数人入ってきた。
空調がきいている上、大人数のせいもあり、ジャケットは脱いだものの部屋の中は暑かった。
だから佑人もごくごくとグラスの液体を飲んでしまったが、酒が入っているのではと何となくわかっていた。
口当たりがよく、ほとんどオレンジジュースの味しかしなかったのに、少し経つと体がほてってきた。
こんなところで補導でもされたら、また美月に迷惑がかかってしまう、と頭のどこかで理性が囁いていたが、思った以上にアルコールが強かった。
「成瀬、大丈夫? ひょっとしてアルコール、免疫なかった?」
すぐそばで上谷の声がした。
「ん、大丈夫、少し休めば………」
しっかりしなくてはと思う傍から、頭がふらついた。
「わかった、ここ空気悪いし、向うの部屋で休むといいよ」
上谷は佑人の体を支えながら立ち上がった。
佑人はジャケットをしっかり握りしめていたが、ほとんど上谷に抱きかかえられたままふわふわと歩く。
地に足がつかないというのはこのことだった。
パタン、とドアが閉まる音が聞こえた。
佑人の瞼が落ちて、寝かされたベッドで意識が飛んだ。
「可愛いよね、成瀬って」
そんな言葉にも、上谷が覆いかぶさってきたことにも佑人は気づかなかった。
それでも首筋の辺りを何かが這い回っているような気がして、佑人は無意識に手で追い払おうとした。
やがて胸の方にも違和感を感じた佑人は少し目を開けた。
何故、上谷の顔がすぐ間近にあるのかすぐにはわからなかった。
だが、ズボンのファスナーが降ろされて、ひんやりとした指が触れた途端、佑人の全身に怖気が走った。
逃れようと身体を捩るが、上谷がのしかかって佑人を押さえつけている。
さらに佑人の両腕を素早く掴んで上谷は佑人の動きを阻んだ。
「……や…めろ!! 離せ!」
「すんごい肌が滑らか。今時の女よりよほどきれいだ」
首筋を這い回っていたのが、上谷の舌だとわかると佑人は総毛立つほどの気持ち悪さを感じた。
「少しくらい抵抗してくれた方が、そそるよね」
追いかけてくる唇を振り払うように、佑人はかぶりを振る。
上谷が再びズボンの中に手を入れてきた。
「嫌だ! 離せ!やめ……!!!」
佑人をどうにかしようと夢中になっていた上谷は、バン! とドアが開いたことに眉を顰めたまま振り返った。
「はーい、そこまで! ダメでしょ? お子様を酔わせて悪さしようなんて、しかも生徒会長が」
何故坂本がそこに立っているのか把握しきれないまま、坂本が携帯でシャッターを押すのを上谷は動こうともせずに見ていた。
「プライベートだぜ? 無粋すぎないか?」
「どうみたって合意じゃないよな?」
その隙に、上谷を突き飛ばしてベッドから転がり落ちた佑人は、まだ酒のせいでふらつく頭で顔を上げた。
佑人も何故坂本がいるのかと靄が張ったような頭の中で考えを巡らせる。
その坂本の後ろから大きな影が現れたかと思うと、まだベッドの上にいた上谷を殴りつけた。
え……?
目の前の展開は幻覚ではないかとさえ思った佑人だが、次にはその肩に担ぎ上げられ、そのまま部屋から連れ出された。
「成瀬くんをテゴメにしようなんざ、八つ裂きにしても足りねぇ!」
知っている声がした。
「テゴメって、あんた、何時代の人間だよ」
「フン、死にそうな声で助けを求めてきたの、もう忘れたのか? 店もほっぽり出させやがって!」
「しゃあないだろ、俺バイクだし、成瀬連れてくのに車ないと。練なんか、成瀬くんの一大事とかって、すっとんできたくせに」
マンションに入っていく外人連中の後ろにくっついて中に入って見回した坂本は、佑人を抱えて隣の部屋に入っていくのに気づいた。
鍵もかかっていなかったのは、上谷が罪悪感など持ち合わせていない証拠だろう。
「お前らだけなら、来るもんかよ!」
少し意識が戻ると、佑人にも車の中だとわかった。
しかもまたしても練にまで迷惑をかけたのだと、佑人は自己嫌悪に襲われる。
「うっせーんだよ! 練! 黙って運転しろよ!」
後部座席でドアにもたれかかるようにして目を閉じていた佑人は隣で怒鳴りつける力の声にうっすらと目を開けた。
「……す……みません、ご迷惑をおかけして………ここで、降ろして……ください……」
佑人はどうやらまだ抜けきらない酒のせいでふらつきながら、身体を起こした。
「大丈夫か? 成瀬くん、気分が悪いのか?」
練にそう聞かれると、上谷に襲われた時の悍ましさが舞い戻り、実際吐き気さえ覚えた。
「……あ、はい、ちょっと……頭を冷やしたいし」
「よし、わかった」
「練、もちょっと先で停めてくれ」
力が言った。
路肩に車が停まると、ドアを開けようと焦る佑人の背後から、力が佑人を抱えるようにしてドアを開け、そのまま車を降りた。
外の風は空気がいいとは言わないまでも、その冷たさに佑人の吐き気も少しおさまった。
「悪い……もう、ほっといてくれていいから……」
「てめ、いい加減にしろよ!」
足元のおぼつかない佑人を抱えて、力が怒鳴る。
「大丈夫か?」
車の中から心配そうな声をかける練に返事もせず、力は佑人を抱えたまま歩きだした。
空調がきいている上、大人数のせいもあり、ジャケットは脱いだものの部屋の中は暑かった。
だから佑人もごくごくとグラスの液体を飲んでしまったが、酒が入っているのではと何となくわかっていた。
口当たりがよく、ほとんどオレンジジュースの味しかしなかったのに、少し経つと体がほてってきた。
こんなところで補導でもされたら、また美月に迷惑がかかってしまう、と頭のどこかで理性が囁いていたが、思った以上にアルコールが強かった。
「成瀬、大丈夫? ひょっとしてアルコール、免疫なかった?」
すぐそばで上谷の声がした。
「ん、大丈夫、少し休めば………」
しっかりしなくてはと思う傍から、頭がふらついた。
「わかった、ここ空気悪いし、向うの部屋で休むといいよ」
上谷は佑人の体を支えながら立ち上がった。
佑人はジャケットをしっかり握りしめていたが、ほとんど上谷に抱きかかえられたままふわふわと歩く。
地に足がつかないというのはこのことだった。
パタン、とドアが閉まる音が聞こえた。
佑人の瞼が落ちて、寝かされたベッドで意識が飛んだ。
「可愛いよね、成瀬って」
そんな言葉にも、上谷が覆いかぶさってきたことにも佑人は気づかなかった。
それでも首筋の辺りを何かが這い回っているような気がして、佑人は無意識に手で追い払おうとした。
やがて胸の方にも違和感を感じた佑人は少し目を開けた。
何故、上谷の顔がすぐ間近にあるのかすぐにはわからなかった。
だが、ズボンのファスナーが降ろされて、ひんやりとした指が触れた途端、佑人の全身に怖気が走った。
逃れようと身体を捩るが、上谷がのしかかって佑人を押さえつけている。
さらに佑人の両腕を素早く掴んで上谷は佑人の動きを阻んだ。
「……や…めろ!! 離せ!」
「すんごい肌が滑らか。今時の女よりよほどきれいだ」
首筋を這い回っていたのが、上谷の舌だとわかると佑人は総毛立つほどの気持ち悪さを感じた。
「少しくらい抵抗してくれた方が、そそるよね」
追いかけてくる唇を振り払うように、佑人はかぶりを振る。
上谷が再びズボンの中に手を入れてきた。
「嫌だ! 離せ!やめ……!!!」
佑人をどうにかしようと夢中になっていた上谷は、バン! とドアが開いたことに眉を顰めたまま振り返った。
「はーい、そこまで! ダメでしょ? お子様を酔わせて悪さしようなんて、しかも生徒会長が」
何故坂本がそこに立っているのか把握しきれないまま、坂本が携帯でシャッターを押すのを上谷は動こうともせずに見ていた。
「プライベートだぜ? 無粋すぎないか?」
「どうみたって合意じゃないよな?」
その隙に、上谷を突き飛ばしてベッドから転がり落ちた佑人は、まだ酒のせいでふらつく頭で顔を上げた。
佑人も何故坂本がいるのかと靄が張ったような頭の中で考えを巡らせる。
その坂本の後ろから大きな影が現れたかと思うと、まだベッドの上にいた上谷を殴りつけた。
え……?
目の前の展開は幻覚ではないかとさえ思った佑人だが、次にはその肩に担ぎ上げられ、そのまま部屋から連れ出された。
「成瀬くんをテゴメにしようなんざ、八つ裂きにしても足りねぇ!」
知っている声がした。
「テゴメって、あんた、何時代の人間だよ」
「フン、死にそうな声で助けを求めてきたの、もう忘れたのか? 店もほっぽり出させやがって!」
「しゃあないだろ、俺バイクだし、成瀬連れてくのに車ないと。練なんか、成瀬くんの一大事とかって、すっとんできたくせに」
マンションに入っていく外人連中の後ろにくっついて中に入って見回した坂本は、佑人を抱えて隣の部屋に入っていくのに気づいた。
鍵もかかっていなかったのは、上谷が罪悪感など持ち合わせていない証拠だろう。
「お前らだけなら、来るもんかよ!」
少し意識が戻ると、佑人にも車の中だとわかった。
しかもまたしても練にまで迷惑をかけたのだと、佑人は自己嫌悪に襲われる。
「うっせーんだよ! 練! 黙って運転しろよ!」
後部座席でドアにもたれかかるようにして目を閉じていた佑人は隣で怒鳴りつける力の声にうっすらと目を開けた。
「……す……みません、ご迷惑をおかけして………ここで、降ろして……ください……」
佑人はどうやらまだ抜けきらない酒のせいでふらつきながら、身体を起こした。
「大丈夫か? 成瀬くん、気分が悪いのか?」
練にそう聞かれると、上谷に襲われた時の悍ましさが舞い戻り、実際吐き気さえ覚えた。
「……あ、はい、ちょっと……頭を冷やしたいし」
「よし、わかった」
「練、もちょっと先で停めてくれ」
力が言った。
路肩に車が停まると、ドアを開けようと焦る佑人の背後から、力が佑人を抱えるようにしてドアを開け、そのまま車を降りた。
外の風は空気がいいとは言わないまでも、その冷たさに佑人の吐き気も少しおさまった。
「悪い……もう、ほっといてくれていいから……」
「てめ、いい加減にしろよ!」
足元のおぼつかない佑人を抱えて、力が怒鳴る。
「大丈夫か?」
車の中から心配そうな声をかける練に返事もせず、力は佑人を抱えたまま歩きだした。
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