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空は遠く 40
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「フン、拳銃持ったヤクザ相手に考えなしに素手で猪突猛進したのは誰だよ。一中のダルビッシュといわれた俺様のコントロールがなけりゃ、今頃お前の香典用意してるところだ」
「けっ、誰がダルだ? 銃の訓練もしてねぇヤツのタマなんかにそうそうあたってたまるかって」
「お前ら、いい加減にしろよ。今回は拳銃もヤクも押収できたからいいようなものの、そうそう片岡警部だって、大目にみてくれないぞ」
力と坂本のやり取りに割って入った練が二人に釘をさす。
「たまには、警部のところに行って礼くらいしてこいよ、力。こないだだって、お前らが消えるまで待ってからやってきてくれたんだぞ」
「フン、腹違いの不詳の弟が何かしでかしたら自分の地位が危うくなるからってだけだろ」
「しかし、梶田のやろう、成瀬のことはバラさなかったのか? ほんとに」
坂本が思い出したように言う。
「さあ、未遂の罪まで背負いたくはないんだろ?」
「わかるもんか、また兄貴がうまいこと何か吹き込んだんじゃねーのか? 元族のアタマ操って情報手に入れて、課が違うのに手柄をくれてやって恩を着せて、スイスイと昇進だ、あのやろう」
練はクスリと笑う。
百合江がまだ警察幹部だった力の父親片岡とつき合っていた時には、既に片岡の妻は亡くなっていたし、力が生まれたこともあって、当時もう成人しており、今は医師となっている長男や大学生だった次男、つまり現在は練が情報提供している警視庁捜査一課のエリート警部だが、二人とも入籍を勧めたにもかかわらず、百合江は頑として一人で育てることを主張した。
とはいえ、片岡家と百合江や力とは円満なつき合いを続けているし、力のできすぎな兄二人は年の離れた弟をそれなりに可愛がっている。
「いや、実際シャブ漬けにされて売人やらされてた女子大生が一人、亡くなってるからな。警部も結構キリキリしてたんだ」
「しっかし、テキも考えたよな。いかにも良家の子女ってな優等生ばっか狙って、クスリ漬けにして売人させるなんざ」
練の説明に、坂本が感心したように付け加える。
「だけじゃねぇよ、女の子らとか売春にも加担させられてたらしい」
「うっひゃああっ! 間一髪、成瀬ちゃんなんかきれーだから、そっちも危なかったかも! しかも相手は好きもののエロオヤジだったりして」
「キショイことぬかすんじゃねぇ!!」
どこか面白がるような坂本の発言に、力が思い切り怒鳴りつける。
「うっせーんだよ、力! 大声出すなってっだろ」
睨みを利かせてたしなめると、練は続けた。
「そういや、成瀬くんの兄貴、昨日、謝罪とお礼だっつって、寄ってくれたぞ」
力と坂本が同時に練を振り返る。
「いかにも良家のおぼっちゃまっつう顔して、あのインテリヤクザを一撃でのした鉄拳、思わず惚れ惚れしたな」
「てめぇ、見てねぇで、何でとっとと出てこねぇんだよ」
「フン、だから俺らが出る幕もなかっただろ? 高校生や良家のおぼっちゃまが関係してちゃまずいから、俺らが後始末してやったんだ、感謝しろ。大体、やつら、あばらやら腕やら脚やら骨折だかなんだかで全治何ヵ月って、やり過ぎじゃねぇかって、俺が文句言われたんだぞ、片岡警部に」
「相手は銃ぶっぱなしてんだぞ? 冗談じゃねぇ」
不貞腐れた顔で力は言い放つ。
「フン、まあ、クスリだけじゃなく拳銃のおまけつきで押さえられたからよかったようなものの、でなきゃ、たかだか障害沙汰で済まされて、やつらどっか潜り込んじまって肝心の捜査がデッドエンドだったんだ。梶田とかってガキがあらかた吐いたんで、餌食になった連中片っ端から聴取してるらしいが、どうやら勝間とかってあのインテリヤクザ、銃の出所やバックにいるやつのことどうしたって吐かないみてぇだし」
「知ったことかよ! んなこたケーサツのオシゴトだろうが」
不遜な態度で断言すると、力は、「練、何か食いもん!」と喚いた。
「あ、練さん、俺も」
坂本もちゃっかり追従する。
「いいかお前ら、この時間、店が休みってことは、俺らも休憩時間ってことなんだぞ」
「どうせ賄い作るんだろ? いいじゃん、俺らの分は力のおごりで」
にっこり笑う坂本を、「何で俺のおごりだ? 調子に乗りやがって」と力は睨みつける。
「まあまあ、細かいことは気にせず。成瀬の兄ちゃん、俺んとこにもわざわざ礼の電話くれたぜ? 弟を助けてくれてありがとう、坂本くんってな」
それに対して返しようがない力はちっと舌打ちし、無意味にタローをがしがしと撫で回す。
店のドアが開いたのはそんな時だった。
「すみません、ただ今準備中で………おや、成瀬くんじゃないか。君ならOKOK! どうぞ、中へ」
業務用の断りを言いかけて入ってきたのが佑人とわかると、練は手のひらを返す。
「お、成瀬! カウントダウンパーティ、参加すんの?」
さっきからだらだらと店の奥で立ち上がろうともしなかった坂本が、いそいそと佑人のところへ駆け寄るなりハグする。
「やーん、成瀬、今日は何かえらく可愛い!」
ふかふかのダッフルコートにサーモンピンクのマフラーをぐるぐる巻きにして現れた佑人の頬は寒さの中走ってきたせいで真っ赤だった。
「ちょ……坂本……って」
いきなり抱きすくめられた佑人は一層頬を赤くする。
「けっ、誰がダルだ? 銃の訓練もしてねぇヤツのタマなんかにそうそうあたってたまるかって」
「お前ら、いい加減にしろよ。今回は拳銃もヤクも押収できたからいいようなものの、そうそう片岡警部だって、大目にみてくれないぞ」
力と坂本のやり取りに割って入った練が二人に釘をさす。
「たまには、警部のところに行って礼くらいしてこいよ、力。こないだだって、お前らが消えるまで待ってからやってきてくれたんだぞ」
「フン、腹違いの不詳の弟が何かしでかしたら自分の地位が危うくなるからってだけだろ」
「しかし、梶田のやろう、成瀬のことはバラさなかったのか? ほんとに」
坂本が思い出したように言う。
「さあ、未遂の罪まで背負いたくはないんだろ?」
「わかるもんか、また兄貴がうまいこと何か吹き込んだんじゃねーのか? 元族のアタマ操って情報手に入れて、課が違うのに手柄をくれてやって恩を着せて、スイスイと昇進だ、あのやろう」
練はクスリと笑う。
百合江がまだ警察幹部だった力の父親片岡とつき合っていた時には、既に片岡の妻は亡くなっていたし、力が生まれたこともあって、当時もう成人しており、今は医師となっている長男や大学生だった次男、つまり現在は練が情報提供している警視庁捜査一課のエリート警部だが、二人とも入籍を勧めたにもかかわらず、百合江は頑として一人で育てることを主張した。
とはいえ、片岡家と百合江や力とは円満なつき合いを続けているし、力のできすぎな兄二人は年の離れた弟をそれなりに可愛がっている。
「いや、実際シャブ漬けにされて売人やらされてた女子大生が一人、亡くなってるからな。警部も結構キリキリしてたんだ」
「しっかし、テキも考えたよな。いかにも良家の子女ってな優等生ばっか狙って、クスリ漬けにして売人させるなんざ」
練の説明に、坂本が感心したように付け加える。
「だけじゃねぇよ、女の子らとか売春にも加担させられてたらしい」
「うっひゃああっ! 間一髪、成瀬ちゃんなんかきれーだから、そっちも危なかったかも! しかも相手は好きもののエロオヤジだったりして」
「キショイことぬかすんじゃねぇ!!」
どこか面白がるような坂本の発言に、力が思い切り怒鳴りつける。
「うっせーんだよ、力! 大声出すなってっだろ」
睨みを利かせてたしなめると、練は続けた。
「そういや、成瀬くんの兄貴、昨日、謝罪とお礼だっつって、寄ってくれたぞ」
力と坂本が同時に練を振り返る。
「いかにも良家のおぼっちゃまっつう顔して、あのインテリヤクザを一撃でのした鉄拳、思わず惚れ惚れしたな」
「てめぇ、見てねぇで、何でとっとと出てこねぇんだよ」
「フン、だから俺らが出る幕もなかっただろ? 高校生や良家のおぼっちゃまが関係してちゃまずいから、俺らが後始末してやったんだ、感謝しろ。大体、やつら、あばらやら腕やら脚やら骨折だかなんだかで全治何ヵ月って、やり過ぎじゃねぇかって、俺が文句言われたんだぞ、片岡警部に」
「相手は銃ぶっぱなしてんだぞ? 冗談じゃねぇ」
不貞腐れた顔で力は言い放つ。
「フン、まあ、クスリだけじゃなく拳銃のおまけつきで押さえられたからよかったようなものの、でなきゃ、たかだか障害沙汰で済まされて、やつらどっか潜り込んじまって肝心の捜査がデッドエンドだったんだ。梶田とかってガキがあらかた吐いたんで、餌食になった連中片っ端から聴取してるらしいが、どうやら勝間とかってあのインテリヤクザ、銃の出所やバックにいるやつのことどうしたって吐かないみてぇだし」
「知ったことかよ! んなこたケーサツのオシゴトだろうが」
不遜な態度で断言すると、力は、「練、何か食いもん!」と喚いた。
「あ、練さん、俺も」
坂本もちゃっかり追従する。
「いいかお前ら、この時間、店が休みってことは、俺らも休憩時間ってことなんだぞ」
「どうせ賄い作るんだろ? いいじゃん、俺らの分は力のおごりで」
にっこり笑う坂本を、「何で俺のおごりだ? 調子に乗りやがって」と力は睨みつける。
「まあまあ、細かいことは気にせず。成瀬の兄ちゃん、俺んとこにもわざわざ礼の電話くれたぜ? 弟を助けてくれてありがとう、坂本くんってな」
それに対して返しようがない力はちっと舌打ちし、無意味にタローをがしがしと撫で回す。
店のドアが開いたのはそんな時だった。
「すみません、ただ今準備中で………おや、成瀬くんじゃないか。君ならOKOK! どうぞ、中へ」
業務用の断りを言いかけて入ってきたのが佑人とわかると、練は手のひらを返す。
「お、成瀬! カウントダウンパーティ、参加すんの?」
さっきからだらだらと店の奥で立ち上がろうともしなかった坂本が、いそいそと佑人のところへ駆け寄るなりハグする。
「やーん、成瀬、今日は何かえらく可愛い!」
ふかふかのダッフルコートにサーモンピンクのマフラーをぐるぐる巻きにして現れた佑人の頬は寒さの中走ってきたせいで真っ赤だった。
「ちょ……坂本……って」
いきなり抱きすくめられた佑人は一層頬を赤くする。
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