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空は遠く 38
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「くっそ、もっと早く、調べとくんだった!」
それでもナビで見ると、『ドン』の周辺にある広い家は三軒ほどだった。
タクシーが三鷹近くに差し掛かった頃、画面を睨みつけていた坂本の手の中で携帯がコールした。
佑人の兄からだった。
一瞬、どう言ったものかと坂本は迷ったものの、電話に出た。
「どこにいるかわかりましたか? 教えて下さい。俺も行きます」
静かだが有無を言わせぬ雰囲気で問われ、坂本は事実を伝えることにした。
「三鷹の『ドン』という店です。先日お話した、近隣の高校のワルたちのたまり場で、こないだ仲間がやられたことに責任感じて、成瀬、一人で行ったみたいなんです」
「わかりました。行ってみます」
電話はすぐに切れた。
「だから、何であいつが責任感じなくちゃなんないんだよっ!」
坂本はイラつきながら、ようやく三鷹の駅の近くにくると、いてもたってもいられず運転手に一万円札を渡してタクシーを飛び出した。
「あ、おい、おつり………」
ちょっとはもったいない気がしたものの、この際おつりとかもらってる時間なんかないって、と『ドン』に向かってとにかく走った。
井の頭通りを車の間を縫ってバイクを飛ばしに飛ばし、時間にしておそらく十分ほどで三鷹に辿り着いた力は、やがて『ドン』という看板が目に入ると、バイクを停めるのもそこそこに、店のドアへと突進した。
バン! と大きな音とともににドアが開いて、『ドン』の店内にいた連中はドカドカとライダースブーツで踏み込んできた大柄な男を一斉に見た。
「何だぁ、てめぇ!」
近づいてきたひょろっとした髭面の胸倉を掴むと、フルフェイスのヘルメットを取りもせず、力はその髭面を壁に押し付けた。
そのままついでに後ろからかかってきた二人を即座に蹴り倒す。
「成瀬はどこだ?」
ぎゅうぎゅうと壁にさらに押し付けるようにして、男に聞いた。
「知るか……」
途端、力は締め上げていた男をくるりと裏返し、今度はその腕を力任せに捻り上げる。
「…わーっ、いてっ、ぎゃああああああああっ!」
情けなくもおぞましい悲鳴が店内に響き渡る。
「腕を潰されたくなけりゃ、吐け!」
「……やめ……うぎゃああっ! 裏の…空き家だ……」
「裏?」
「…こ、この裏の…」
「案内しろ」
「ぎゃああああっ! わかった、わかったから……」
力は髭面の腕を掴んだまま出て行こうとして、ドア口近くの椅子に置かれた見覚えのあるリュックに気づくとそれを抱えた。
「カジ、…今、男が佐古田連れてそっち向かった! や、ちょっと強ぇ、腕折られて…」
店の奥から電話をする大きな声が、出て行く力の耳まで届いた。
「あのやろう!」
もちろん、東條の梶田らに対しての怒りは凄まじいものがあった。
だが、あのやろう、と頭にきているのは、佑人のことだ。
「あのやろう!」
力はもう一度繰り返した。
「どっちだ?!」
佐古田と呼ばれた髭面の男を引き摺るようにして店を出ると力は唸るように問いただした。
「……そっちだ。ブロック……塀の……空き家……」
ぎゅうぎゅう腕を締め上げられて、佐古田はようやく声を絞り出した。
力は佐古田の腹に一発拳を入れると、呻いてうずくまる男を放り出して駆け出した。
店の裏に回ると二軒目が今にも壊れそうなブロック塀でぐるりと囲まれている。
狭い道路は一方通行で、あまり車も通らないようだ。
かなり敷地面積は大きく、ところどころ崩れているブロックの間から不気味に鬱然とした雑木林の闇が垣間見えた。
その闇の向こうに一瞬眩い光を見た力は、すぐにそれが車のヘッドライトだと気づいた。
門の入り口が見えてきたと思いきや、車のエンジン音が聞こえた。
逃がすものかと、力は壊れかけたブロックに目をやり、両手にブロックを掴むと猛烈な勢いでダッシュし、今にも道路へ走りだそうとした車のフロントガラス目掛けてそのひとつを投げつける。
車は急ブレーキをかけて停まった。
ちょうど街路灯が車を照らしだし、フロントガラスにひびが入り、ブロックは砕け散っている。
「何しやがる!」
運転席から降りてきた派手なスーツの一見してヤクザな男を力は凄まじいパンチで殴り倒した。
後部座席と助手席のドアが開いて、また男が二人降り立ち、力に向かって突進してくる。
恐持てのいかつい男のパンチを避けて逆にその腹を膝蹴りし、背中を肘で思い切り殴り倒す。
もう一人が梶田だと認めると殴りかかってきたその脚を蹴り、泳いだ腕を掴んで手首を捻り上げた。
「ぎゃあああああああああっ!」
よほど痛いのだろう、梶田は口汚く罵ることもできずにただ悲鳴を上げる。
「成瀬はどこだ?」
答えない梶田の手首をさらに捻る。
「折った方がいいか?」
「…やめ……ぎゃあああっ…! トランクだ、トランク………!」
その時、バン! と力の足元で何か花火のようなものが炸裂する音がした。
「次は貴様の頭に穴があくぞ」
今しがた後部座席から降りた男は、高そうなスーツに身を包んだインテリヤクザ風で、車の向こうから拳銃を向けている。
咄嗟に力は梶田を自分の前に引き寄せて盾にした。
それでもナビで見ると、『ドン』の周辺にある広い家は三軒ほどだった。
タクシーが三鷹近くに差し掛かった頃、画面を睨みつけていた坂本の手の中で携帯がコールした。
佑人の兄からだった。
一瞬、どう言ったものかと坂本は迷ったものの、電話に出た。
「どこにいるかわかりましたか? 教えて下さい。俺も行きます」
静かだが有無を言わせぬ雰囲気で問われ、坂本は事実を伝えることにした。
「三鷹の『ドン』という店です。先日お話した、近隣の高校のワルたちのたまり場で、こないだ仲間がやられたことに責任感じて、成瀬、一人で行ったみたいなんです」
「わかりました。行ってみます」
電話はすぐに切れた。
「だから、何であいつが責任感じなくちゃなんないんだよっ!」
坂本はイラつきながら、ようやく三鷹の駅の近くにくると、いてもたってもいられず運転手に一万円札を渡してタクシーを飛び出した。
「あ、おい、おつり………」
ちょっとはもったいない気がしたものの、この際おつりとかもらってる時間なんかないって、と『ドン』に向かってとにかく走った。
井の頭通りを車の間を縫ってバイクを飛ばしに飛ばし、時間にしておそらく十分ほどで三鷹に辿り着いた力は、やがて『ドン』という看板が目に入ると、バイクを停めるのもそこそこに、店のドアへと突進した。
バン! と大きな音とともににドアが開いて、『ドン』の店内にいた連中はドカドカとライダースブーツで踏み込んできた大柄な男を一斉に見た。
「何だぁ、てめぇ!」
近づいてきたひょろっとした髭面の胸倉を掴むと、フルフェイスのヘルメットを取りもせず、力はその髭面を壁に押し付けた。
そのままついでに後ろからかかってきた二人を即座に蹴り倒す。
「成瀬はどこだ?」
ぎゅうぎゅうと壁にさらに押し付けるようにして、男に聞いた。
「知るか……」
途端、力は締め上げていた男をくるりと裏返し、今度はその腕を力任せに捻り上げる。
「…わーっ、いてっ、ぎゃああああああああっ!」
情けなくもおぞましい悲鳴が店内に響き渡る。
「腕を潰されたくなけりゃ、吐け!」
「……やめ……うぎゃああっ! 裏の…空き家だ……」
「裏?」
「…こ、この裏の…」
「案内しろ」
「ぎゃああああっ! わかった、わかったから……」
力は髭面の腕を掴んだまま出て行こうとして、ドア口近くの椅子に置かれた見覚えのあるリュックに気づくとそれを抱えた。
「カジ、…今、男が佐古田連れてそっち向かった! や、ちょっと強ぇ、腕折られて…」
店の奥から電話をする大きな声が、出て行く力の耳まで届いた。
「あのやろう!」
もちろん、東條の梶田らに対しての怒りは凄まじいものがあった。
だが、あのやろう、と頭にきているのは、佑人のことだ。
「あのやろう!」
力はもう一度繰り返した。
「どっちだ?!」
佐古田と呼ばれた髭面の男を引き摺るようにして店を出ると力は唸るように問いただした。
「……そっちだ。ブロック……塀の……空き家……」
ぎゅうぎゅう腕を締め上げられて、佐古田はようやく声を絞り出した。
力は佐古田の腹に一発拳を入れると、呻いてうずくまる男を放り出して駆け出した。
店の裏に回ると二軒目が今にも壊れそうなブロック塀でぐるりと囲まれている。
狭い道路は一方通行で、あまり車も通らないようだ。
かなり敷地面積は大きく、ところどころ崩れているブロックの間から不気味に鬱然とした雑木林の闇が垣間見えた。
その闇の向こうに一瞬眩い光を見た力は、すぐにそれが車のヘッドライトだと気づいた。
門の入り口が見えてきたと思いきや、車のエンジン音が聞こえた。
逃がすものかと、力は壊れかけたブロックに目をやり、両手にブロックを掴むと猛烈な勢いでダッシュし、今にも道路へ走りだそうとした車のフロントガラス目掛けてそのひとつを投げつける。
車は急ブレーキをかけて停まった。
ちょうど街路灯が車を照らしだし、フロントガラスにひびが入り、ブロックは砕け散っている。
「何しやがる!」
運転席から降りてきた派手なスーツの一見してヤクザな男を力は凄まじいパンチで殴り倒した。
後部座席と助手席のドアが開いて、また男が二人降り立ち、力に向かって突進してくる。
恐持てのいかつい男のパンチを避けて逆にその腹を膝蹴りし、背中を肘で思い切り殴り倒す。
もう一人が梶田だと認めると殴りかかってきたその脚を蹴り、泳いだ腕を掴んで手首を捻り上げた。
「ぎゃあああああああああっ!」
よほど痛いのだろう、梶田は口汚く罵ることもできずにただ悲鳴を上げる。
「成瀬はどこだ?」
答えない梶田の手首をさらに捻る。
「折った方がいいか?」
「…やめ……ぎゃあああっ…! トランクだ、トランク………!」
その時、バン! と力の足元で何か花火のようなものが炸裂する音がした。
「次は貴様の頭に穴があくぞ」
今しがた後部座席から降りた男は、高そうなスーツに身を包んだインテリヤクザ風で、車の向こうから拳銃を向けている。
咄嗟に力は梶田を自分の前に引き寄せて盾にした。
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