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空は遠く 27
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子供の頃は、イブの夜には美月のお手製のケーキやローストチキンや、佑人の好きなものがところ狭しと並んだテーブルを家族みんなで囲んだものだ。クリスマスの朝にはツリーの周りにラッピングされたたくさんのプレゼントが溢れている。
ここ数年、イブの食卓やプレゼントやは同じだが、肝心の美月や一馬は仕事だ学会だといないことが多く、郁磨やラッキーと過ごしている。
今年はその郁磨も研究室の飲み会に借り出されたらしく、帰っても出迎えてくれるのはラッキーだけだ。
郁磨は気にしていたが、高二にもなっていい加減サンタクロースを待ってる子供じゃないから、と佑人は笑った。
いや、おそらくサンタクロースではなくクリスマスに一緒に騒ぐ友達や彼女さえいない自分を郁磨は心配しているのだろうとはわかっていたが。
「へえ、じゃあ、俺んち、来ない?」
唐突な坂本の申し出に佑人は戸惑う。
以前は、自分の過去を知っている嫌なヤツ、として佑人の中で近づきたくない人間でしかなかったが、話してみるとサバサバしていて、そう嫌なヤツでもないかもしれないという気がしていた。
心を許すようなことはないのは変わらなかったのだが。
「……いや、急にお邪魔したら家の方にご迷惑だし」
予定はないといった手前、断るに断れない。
「ああ、平気平気。俺んち、親、こないだっからクリスマスクルーズってやつで今頃海の上。だから年末年始ずっと俺一人だし。よし、んじゃ帰ってピザでも取るか。ピザ、食えるよな? ワインとかビールは冷蔵庫にあったし」
「え……ちょ、坂本」
「あとは、せっかくイブだからケーキとかローストチキンとか買ってこう」
「お、お前こそ、彼女と予定あるんじゃ………」
佑人は慌てて何とか断りの理由を探す。
「受験終わるまで彼女は断ってるし」
「だって、家庭教師の……」
「あの人とはお互いプレイ楽しむだけってやつ? 彼女って感じじゃないし。じゃ、駅ビルでいろいろ仕入れていこうぜ」
駅に近づくと、坂本は佑人の腕を取って、見えてきた駅ビルのスーパーへとたったか向かう。
「あ、ワリィ、ちょっち待ってて? 軍資金」
銀行の前まで来て、坂本はキャッシュサービスに入っていく。
佑人は坂本のペースに乗せられてそこまできたものの、まだどうしたものかと迷いながらATMの前にぼんやりたたずんでいた。
「よう」
だから、前からやってきた数人の学生たちが目の前で足を止めるまで気づかなかった。
「こないだは世話になったな」
他校の生徒だとはわかったが、その顔をすぐに思い出せなかった。ただ、関わらない方がいい相手だとは瞬時に気づき、身構える。
ところが後ろから近づいてきた男たちが両側から佑人の腕を捕らえると、たまたま手に持っていたリュックが落ちた。
「おとなしそうな顔して、こないだは軽ぅくやってくれちゃったからな」
あっと、いつぞや啓太を脅していた連中だと佑人は思い当たった。
前に三人、横から二人に腕を取られ、後ろに二人と囲まれたまま、佑人はキャッシュサービスの横の路地へと連れ込まれる。
やばい………かも……
佑人はそれでも頭の中で冷静に状況を判断する。
「成瀬!」
年末でクリスマスイブということもあってか、結構な人数の後ろに並んでいたATMの前で、イラつきながら何気に外を振り返った坂本は、東條の制服が視界に入った途端、外に飛び出した。
「やられた! 成瀬! 駅前の住銀のATMの右横!」
走りながら坂本は携帯で叫んだ。
相手の唸り声だけで携帯は切れた。
路地にはもう人影はなく、坂本は落ちていたリュックを拾う。
「成瀬!」
「ちょっとぉ! 力! どうしたのよ! どこ行くのよ!」
坂本の横を力がすごい勢いで路地を走っていった。
追いかけようとした坂本は、息せき切って横断歩道を渡ってきた少女に気づき、足を止めた。
「ちょい待ち!」
路地についていこうとした少女を坂本は振り向かせる。
「相田美紀さん?」
「な、何よ? あなた」
可愛いコートの下はとっくに着替えたらしく制服ではない。
バッグも靴も目いっぱいのおしゃれをしている少女は、坂本を睨みつけた。
「この先はヤバいから、追わない方がいいよ」
「どういうことよ!? これから力の家に行くって………」
見る見る美紀の目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「はあ、しょうがねぇな……とにかく、えっと、あのマックで待ってな。なるべく人のたくさんいるとこにいた方がいい」
「……え?」
佑人のことが気になりつつも、美紀を近くのマクドナルドに押し込むと、慌ててまた路地へと走った。
佑人の動きを封じるためか、七人の男たちは佑人にぴたりとくっついている。
これはやっぱ、マズいかな、とは思いながらも、隙を窺っていた佑人だが、駅裏の狭い路地へと男たちは入っていく。
その時後ろからバイクの音がした。と思いきや、バイクの男の腕がすれ違いざま、佑人の左側にいた男を思い切り引き刷り倒した。
構えた男たちに今度は前から別のバイクが突進してくる。
「うわっ!」
「何だ、てめぇ!」
喚きながらも男たちは佑人を放り出して右往左往した。
ここ数年、イブの食卓やプレゼントやは同じだが、肝心の美月や一馬は仕事だ学会だといないことが多く、郁磨やラッキーと過ごしている。
今年はその郁磨も研究室の飲み会に借り出されたらしく、帰っても出迎えてくれるのはラッキーだけだ。
郁磨は気にしていたが、高二にもなっていい加減サンタクロースを待ってる子供じゃないから、と佑人は笑った。
いや、おそらくサンタクロースではなくクリスマスに一緒に騒ぐ友達や彼女さえいない自分を郁磨は心配しているのだろうとはわかっていたが。
「へえ、じゃあ、俺んち、来ない?」
唐突な坂本の申し出に佑人は戸惑う。
以前は、自分の過去を知っている嫌なヤツ、として佑人の中で近づきたくない人間でしかなかったが、話してみるとサバサバしていて、そう嫌なヤツでもないかもしれないという気がしていた。
心を許すようなことはないのは変わらなかったのだが。
「……いや、急にお邪魔したら家の方にご迷惑だし」
予定はないといった手前、断るに断れない。
「ああ、平気平気。俺んち、親、こないだっからクリスマスクルーズってやつで今頃海の上。だから年末年始ずっと俺一人だし。よし、んじゃ帰ってピザでも取るか。ピザ、食えるよな? ワインとかビールは冷蔵庫にあったし」
「え……ちょ、坂本」
「あとは、せっかくイブだからケーキとかローストチキンとか買ってこう」
「お、お前こそ、彼女と予定あるんじゃ………」
佑人は慌てて何とか断りの理由を探す。
「受験終わるまで彼女は断ってるし」
「だって、家庭教師の……」
「あの人とはお互いプレイ楽しむだけってやつ? 彼女って感じじゃないし。じゃ、駅ビルでいろいろ仕入れていこうぜ」
駅に近づくと、坂本は佑人の腕を取って、見えてきた駅ビルのスーパーへとたったか向かう。
「あ、ワリィ、ちょっち待ってて? 軍資金」
銀行の前まで来て、坂本はキャッシュサービスに入っていく。
佑人は坂本のペースに乗せられてそこまできたものの、まだどうしたものかと迷いながらATMの前にぼんやりたたずんでいた。
「よう」
だから、前からやってきた数人の学生たちが目の前で足を止めるまで気づかなかった。
「こないだは世話になったな」
他校の生徒だとはわかったが、その顔をすぐに思い出せなかった。ただ、関わらない方がいい相手だとは瞬時に気づき、身構える。
ところが後ろから近づいてきた男たちが両側から佑人の腕を捕らえると、たまたま手に持っていたリュックが落ちた。
「おとなしそうな顔して、こないだは軽ぅくやってくれちゃったからな」
あっと、いつぞや啓太を脅していた連中だと佑人は思い当たった。
前に三人、横から二人に腕を取られ、後ろに二人と囲まれたまま、佑人はキャッシュサービスの横の路地へと連れ込まれる。
やばい………かも……
佑人はそれでも頭の中で冷静に状況を判断する。
「成瀬!」
年末でクリスマスイブということもあってか、結構な人数の後ろに並んでいたATMの前で、イラつきながら何気に外を振り返った坂本は、東條の制服が視界に入った途端、外に飛び出した。
「やられた! 成瀬! 駅前の住銀のATMの右横!」
走りながら坂本は携帯で叫んだ。
相手の唸り声だけで携帯は切れた。
路地にはもう人影はなく、坂本は落ちていたリュックを拾う。
「成瀬!」
「ちょっとぉ! 力! どうしたのよ! どこ行くのよ!」
坂本の横を力がすごい勢いで路地を走っていった。
追いかけようとした坂本は、息せき切って横断歩道を渡ってきた少女に気づき、足を止めた。
「ちょい待ち!」
路地についていこうとした少女を坂本は振り向かせる。
「相田美紀さん?」
「な、何よ? あなた」
可愛いコートの下はとっくに着替えたらしく制服ではない。
バッグも靴も目いっぱいのおしゃれをしている少女は、坂本を睨みつけた。
「この先はヤバいから、追わない方がいいよ」
「どういうことよ!? これから力の家に行くって………」
見る見る美紀の目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「はあ、しょうがねぇな……とにかく、えっと、あのマックで待ってな。なるべく人のたくさんいるとこにいた方がいい」
「……え?」
佑人のことが気になりつつも、美紀を近くのマクドナルドに押し込むと、慌ててまた路地へと走った。
佑人の動きを封じるためか、七人の男たちは佑人にぴたりとくっついている。
これはやっぱ、マズいかな、とは思いながらも、隙を窺っていた佑人だが、駅裏の狭い路地へと男たちは入っていく。
その時後ろからバイクの音がした。と思いきや、バイクの男の腕がすれ違いざま、佑人の左側にいた男を思い切り引き刷り倒した。
構えた男たちに今度は前から別のバイクが突進してくる。
「うわっ!」
「何だ、てめぇ!」
喚きながらも男たちは佑人を放り出して右往左往した。
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