乾燥したガラクタ

デラシネ

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エピローグ

ハルとナツ

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夕暮れ時、空が茜色に染まる。後ほんの数分であっという間に太陽が沈むだろう。


2人はベランダで少し肌寒い風をその身に受けている。


美しい夕日だった。この瞬間は何もかもどうでもよくなる。


枯れ果てた孤独が埋まる。頬を伝う涙が乾く。


自分のなんとちっぽけなことか。




「ずっと聞きたかったんだけどさ」


「ん?」


「いつかの続き」


「いつかの?」


「『あの時の』という顔で言われましても」


無表情じゃないと、そんなにわかりやすいものだろうか・・・・・。

いや、きっと多分、絶対に、間違いなく違う。

もう2人には言葉なんて要らないのだ。


「・・・・・・『とりあえず』、の続きでしょうか?マドモアゼル」


「よろしい」


「・・・・・・・・いつからわたしのこと好きだった?」


「嘘ついて良ければ」


「ついてもわかるよ」


「・・・・・・はじめて目が合った時」





笑顔が咲いた。


「あの時さ、ステージの上からナツだけ輝いて見えたよ」


「・・・・・・うん」



「あ、笑った」


「ん?あれ?」


ハルが嬉しそうにしている。

そうすると、自分も嬉しくなる。





「ナツさ、わたしが太陽みたいだって言ったよね?」


「・・・・・・言ったっけ?」


「それじゃ、ナツは月じゃない?」


「んー?どのへんが?」


「月って太陽を受けて光るでしょ」


「わたしを受け止めて、夜を照らしてくれたから」


「月が光る限り、そこには必ず太陽が居るんだよ・・・・目には見えないけど」





「一緒に居たいんだ」



「・・・・・・僕もだよ」



「あ、泣いた」



涙が流れた。自然と溢れ出した。

はじめて嬉しさで、喜びで、愛しさで泣くことができた。





もうすぐ冬が終わる。


ハルが来て、ナツが来る。


これからも繰り返してゆく。


誰にとっても同じことだ。




太陽もそうだ。


この世界に生きている限り、誰もがその温もりを感じることができる。


その為には重いドアを開け、外に出なければいけない。


しかし、その一歩の価値は誰よりもあなたが知っているはずだ。






水分を取り戻し、陽の光を受けた。


乾燥したガラクタは再生する。


花が咲くように、月が輝き出すみたいに、或いは人々が目覚める朝の如く。





「まだまだこれからだよ、わたしたち」


笑っているハルの目にも、涙が浮かんでいた。
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