乾燥したガラクタ

デラシネ

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旅路

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マネージャーが気を遣って席を外す。


「ICD、作動しなかったの?」

「しなかったの」

「・・・・・?」

「不整脈じゃないんだって。心臓そのものが弱って、血液が送り出せてないんだって」

ハルはどうしても疲れた時や辛い時、タカハシの前でだけは泣くようになっていた。
タカハシはいつも笑いながら慰めた。必ず解決策を探すように努め、気休めは絶対に言わなかった。
ハルが苦しんでいれば最後まで一緒に苦しむ。そう決めている。

しかし、その原因が自分ならば話は違う。
以前の自分なら何の問題もないのだが、今はハルがいる。
これほど取り乱すハルは初めてだ。


2人は既に、幼いリュカとクラウスの様に離れることができなくなっていた。




・・・・・・少し落ち着いたようだ。

ハルがナースコールを押す。

看護師がやってくると、タカハシを見るなり踵を返す。

「あ!ちょっと先生呼んできます!」





しかし、前回に続き人のいるところで倒れるとは、ほとほと悪運が強い。

家で仕事中だったらと思うと・・・・・・ゾッとする。




医師がやってくるが、なんだか苦い顔をしている。
久しぶりに嫌な予感がする・・・・。


「タカハシさん、えーと、確か恋人の方ですよね?」

当然だが、医師はタカハシの実年齢を知っている。
しかし実年齢よりかなり若く見えるのでハルに対して違和感はないようだ。

「構いません。もう家族も同然なので」

「うーん、ご本人がそう言うなら・・・・」
「やっぱり駆出率が下がってますね。他にも機能的に・・・・転職なされたそうで?」

「・・・・・確かに最近座りっぱなしでした」

「ナツはどうなっちゃうんですか・・・?」

赤くなった目をしたハルが、消え入りそうな声で言う。

タカハシはいつも通り、微笑みながら声を掛ける。

「大丈夫だよハル」



医師も少し困り顔だ。

「落ち着いてください。亡くなるような話ではないんです。ただ現状これ以上の対策がなくて・・・・」

「・・・・・気を遣わせてすみません・・・・とりあえず、退院できるんですよね?」

「はい。ただし、色々と指導はさせていただきます」





1ヶ月ほどが経過した。
運動を再開したタカハシの体調は良くなっている。
倒れたのが嘘のように健康的だった。

SRJの事務所には行かないようにしている。
気にしないでいいと言われているが、やはり、外部の人間が迷惑をかけた負い目がある。
ハルの立場もあるだろう。
レコーディングも終えたし、タイミングも良かった。



世界は止まることなく動いている。
ハルは大学2回生になり、その間も忙しくライブとレコーディングをこなす。
しばらくタカハシと会うこともなかった。




すれ違い始めていた。
当然だ。片や大人気ミュージシャン、一方は一介のエンジニアだ。
今まで歩幅が合った方が不思議なのだ。



言い様のない、遣る瀬ない様な、悲しみと愛しさを抱えたまま時間だけが過ぎた。




・・・・ミズタニから吉報が届く。

「決まりましたよ。武道館」

ハルの実績を考えれば遅いぐらいだった。






大方の予想通り、チケットは即完した。
武道館ライブというのはいつもよりチケットの売れ行きが良くなるらしい。

その頃、ハルは大学3回生になる。






また携帯が鳴る・・・・・ミズタニだった。

「ナツさん、どうしましょう・・・・ハルが・・・・」

「・・・・・?・・・・ハルに何かあったんですか?」

「とにかく事務所に来てもらえますか?」

緊急事態というわけでもなさそうだ。一体何だ?

「すぐに行きます」
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