乾燥したガラクタ

デラシネ

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旅路

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「ナツって呼んでもいいですか?」

何を聞かれるのかと思えばそんなことか。

「え、別にいいですけど」

「じゃあわたしのこともハルで!」

「・・・・・・・どうしても?」

「わたしの性格、わかってますよね?」

「・・・・ハル」

「じゃあ次」

「次?」

「敬語、やめてほしい」

「・・・・・・・わかったよ」

「ナツのさ、他の曲も聴きたいな」

「いいですけど。あ、いや、いいけど・・・・」

・・・・・・しばらく無言になる。




「あのさ、ハル」

神妙な面持ちで言った。ハルが仰け反る。

「な、なんでしょうか。あ、何?」

「ハルって太陽みたいなんだよ」

「・・・・・何の話?」

構わずに続ける。

「眩しすぎてさ、目が眩んじゃったんだ。直視できなくなってた」
「僕は結構、酷い人生を歩んでいて・・・・・・」

タカハシは初めて他人に自分の半生を話した。これでこの気持ちに蹴りがつくだろう。


「わたしさ・・・・」

今度はハルが話し始める。

「人前で怒ったことなかったんだよ。あの時まで」
「みんなポカンとしてたでしょ?そりゃそうだよ、いきなり大声で怒鳴りつけるんだもん」
「怒ってもいいんだとか、泣いてもいいんだとか」
「受け止めてくれるじゃん。いつも。今も」
「そしたら曲もたくさんできるようになって・・・・・一回できなくなったけど」

「えーっと、なんか上手く言えないや。ごめん」
「ナツにどんな過去があっても、ナツはナツだし」






何故これほどハルと惹かれ合うのか、なんとなくわかった気がする。

タカハシの正の感情は失われていた。
それとは真逆だ。ハルは負の感情を失っていたのだ。

互いに足りないものを補い合う。
欠けたままでは生きられないものが埋まってゆく。

歯車のように噛み合い、絵の具が新しい色を見せるように溶け合い、乾いた大地と雨のように混ざった。




タカハシもハルも、絶え間なく変化している。

失っていた感情が湖のように満ちてゆく。

「あのさ」

流石に、女性に言わせる訳にはいかないだろう。

「む・・・・・」

ハルが変な声を出す。

「一緒に居て欲しい」

ぶっきらぼうだが真っ赤な顔で言った。



ハルの顔も朱色が差し、硬直している。こんな表情は見たことがない。

「む・・・・うん・・・・」

「あの・・・・よろしくお願いします・・・・・」



「こちらこそ、よろしく」

一礼して顔を上げる。



その顔を見たハルが驚いて言った。

「って、笑った?」


「え?ああ・・・・」

いつも無表情だと自覚はしているが、ハルの前で笑ったことがなかったのか・・・・。
それ以前の問題か。ハルの前に限らず、ずっと笑っていなかった。


「ナツが笑うか・・・・・雨じゃ済まないね」

「・・・・・・それ、今言う?」


(この瞬間も歌になりそうだ)

2人で同じことを考えながら笑い転げる。

疲れ果てたガラクタは、長い旅路の果てに笑顔を取り戻し、太陽は涙を取り戻した。
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