乾燥したガラクタ

デラシネ

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旅路

再会

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冬が終わりに近付く。もうすぐ春になろうとしていた。


「タカハシと申しますが・・・・」
久しぶりにこの台詞を口にした。



キャパ5000人の大きな会場だ。
改めて自分とハルの距離を測ることができる。

(これでもう吹っ切れそうだな)

「ミズタニさんから伺ってますよ。こちらへ」

やはり誰もいない部屋でミズタニを待つ。

誰かがドアをノックする。いや、1人しかいないのだが・・・・。
「おお!ナツさん」

「どうも、ミズタニさん」
タカハシの無表情は変わっていない。

「いやあ!久しぶりですね!」
「ところで最近、何聴いてますか?」

ミズタニもまったく変わらない。
相変わらず音楽が大好きで楽しそうだ。

「最近あんまり聴いてないんですけど、えーとLOVEとかAshの新譜です」

「相変わらず雑多ですね」
「私はメンフィスの・・・・・」

楽しそうに、物凄い勢いで話し始める。
タカハシもやはり、楽しい。
そう、楽しいのだ。失われた感情はいつのまにか戻っている。




「なんだか盛り上がってますね」

一瞬で緊張する。汗が滝のように吹き出した。
「久しぶりですね。ハルさん」

久しぶりに見るハルは、最後に会った時よりも随分大人びていた。
ハルがミズタニを見る。

「2人にしてもらえますか?」

「もちろん、そのつもりだよ」
本当にいつも通り・・・・・いつも通りの笑顔だ。

「・・・・・・・マジですか?」

「マジですよ。ハルだっていつまでも子供じゃないんです」
そう言うとミズタニは部屋を後にした。





(気まずい・・・・・・)

やはり口火を切るのはハルだ。
「大学、受かりました」

「おめでとうございます」

「1年ぶりぐらいですよね?」

「・・・・・そんなになりますか」

「教えてください」

「何をです?」

「とりあえず、この1年間のこと」

「(とりあえず?)えーと、仕事で忙しくて・・・・・あ、曲も作ったりしましたよ。ハルさんのようにはいきませんけど」

「ほんと?聴きたい!」

「(しまった・・・・!)いや、いいですよ。そんな大したものじゃないです」

既にハルの姿はない。すぐにギターを持って戻って来た。
こういうのも相変わらずだな。

「じゃあ、こんな感じなんですけど・・・・」

いくつか作った中で最もシンプルな曲だった。4つのコードで展開する。

「お、いいじゃん」

「・・・・どうでしょう?自分ではどうにも・・・」

「今日演る。歌詞書いて」

「ええ???」

この頃のハルのライブはバンドセットが殆ど無くなり、大半はアコギの弾き語りスタイルになっていた。
その時は自分の気分次第で色々な曲をやっていた。

「ミズタニさんに許可は・・・・・・取らないですよね」

「あはは。ミズタニさんの言った通りだ。わたしの性格わかってるって」
「そういう訳で、もちろん勝手にやります!」

「知りませんよ、どうなっても」

「まだ聞きたいことがあるんですけど」

「何でしょう?」

外からコンコン、とドアをノックする。

「あ、時間だ・・・・ライブが終わってから・・・・また話せますか?」

「(敵わないな・・・・・)・・・・僕も話したいです」




変わらない笑顔で部屋を出て行く。
いや、変わって行く。タカハシもハルも変わり続けている。
今この瞬間も変わっているのだ。

入れ替わりでミズタニが入室する。

「こういうのも久しぶりですね」
「さ、行きますか」
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