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13 表紙打ち合わせで玉砕する

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3Pみつき「フッ……さすがみつきだね。「まとめよっか」って言っておきながらぜんぜんまとまってない(笑)。で、どうするの。ずっと反応返さないと変に思われるよ?」

2Pみつき「じゃあ、最終手段で……意見を小出しにしよう。まずは先方がすぐに修正できそうな部分から、やんわり言ってみるというのはどうかな。その途中で修正の難易度の高いものも混ぜていこう。言えそうなら同時でもいいけど」

1Pみつき「わかった。どこまでが言っていいラインかわからないからね。慎重に、そしてなるべく軽やかにいってみる――」


 +++


みつき「米田さん、須束さん、どうもお忙しい中ありがとうございます。イラスト、想像していたよりも美麗で驚きました!!」(中略)みつき「それで……絵のことに関しては、センスがないのでお二人におまかせします。が、少し気になったところがあったので、図々しいのは承知のうえで、意見してもいいですか……?」

米田さん「(にっこり)気になった点があれば遠慮なく仰って下さいませ」

 では遠慮なく――もちろん、言えるわけがないので、なるべく控えめに切り出します。

みつき「ええと、この子の髪色が銀髪に見えますが、これは色の効果ということでそうなってるんでしょうか?(自分の設定では水色)」

 やりとりがはじまります。 もはや、「慎重」というより「妙なへりくだり」になってる私ですが、そこまで微妙な調節ができるほどの余裕はありません。 それに対し、編集さん二人は落ち着いた感じで回答してくれます。

米田さん「確かに銀髪っぽくなっていますね。こちらは彩度や明度を調節すれば、設定色に近づけられると思います」

須束さん「髪色調整、了解です。もう少し水色っぽい方で調整してもらいますね」

みつき(……ほっ。やはり色替えはOKっぽい。……私が意見を言うのも大丈夫っぽいけれど、上限がわからないな。次はダメ元で諦めてもいいってことを伝えつつ意見してみよう……)

みつき「あと、キャラBの子なんですが、外見が自分の設定イメージより少し年上に見えるかなぁと……。もちろん、お二人がこのままでOKと判断されたら、それでいいと思います。口出し、本当にすみません(へこへこ)」

米田さん「キャラBについて、他のキャラとの差別化もあるので、今よりもあどけなさを出してしまうと似通った印象が出てしまいます。苦労をしてきた過去がありますので、その歳でも大人びた顔立ちはありだと思いますが、いかがでしょうか?」

みつき「――はい、そうですね」

 やっぱりダメだったか、という気持ちを抑えうなずきます。 それにしても、米田さんはさすがです。絵師さんの描いたキャラ絵も、私の作品の内容も立ててくれる言い方です。これが瞬時に出るんだからすごいよ……と感心してしまいます。(拍手)

須束さん「そちらのほうは難しいですね。十代とかであればもっと幼くできるんですが、作品上の役割も含めて考えると、これ以上幼く見えると作品性が薄れる可能性が高いです」

みつき「は、はい」

 須束さん、作品性まで考えてくださってるとは……! 編集さんすごい。 やっぱり、自分のイメージなんてたいした価値はなかったようです。出しゃばらずにいてよかったなぁ、と胸をなでおろしたのでした。



 +++


 なんだか、まだ聞いてもらえそうな空気かな? と思ったところで、深呼吸です。 だって次はいよいよ本番。 いちばん気になったところです。言わずにいようか言うべきか……流れ的に言っても大丈夫かなと判断した私が、おそるおそる切り出しました。

みつき「それから、最初のときに「気になる点」として言えばよかったのですが、キャラAの髪型を少しこういう髪型に変えていただくのは可能でしょうか? こちらはささいなところなので、ご負担になるようでしたらこのままでかまいません」

 ドキドキ。

 どうかな。髪型の修正がきついのはわかっている。 これも言ったところで、「この方がイメージに合います」って言われたら、そこで話が終わってしまうのだけど……せめてここだけはなんとか、自分のイメージに近づいてくれたら、と願わずにいられません。

須束さん「修正としてはそこそこ大きい修正になるのと、キャラの印象とかが変わりますが、そこは大丈夫ですか?」

 ひえ。(涙) なんだか無理そうな空気に変わりました。 あとやっぱりこの時点で、キャラAに対する印象が私と編集さん(&絵師さん)とで違っていることがわかりました。 イメージの共有って難しいんだなぁ、と思います。文章で書いても、それを自作資料の絵で補っても、なかなか伝わらないものなんだ……ということを痛感した次第です。

 って、泣いてる場合じゃありません。打ち合わせの最中です。

みつき「はい。印象が変わるのは問題ありません。外見はこれこれこういうイメージの子なので、自分のイメージではこうなのです。ですが、そこそこ大きい修正ということなので、無理でしたらそのままで大丈夫です」

須束さん「承知しました。イラストレーターさんには一旦相談入れさせてもらいますね。あ、米田さん、事前にキャララフ等で確認してもらっていたデザインからの変更になりますが問題ないですか? 念のためですが。絵師さんには本文を読み込んてもらった上でデザインは起こしてもらってますので。イメージに齟齬が出ないかと」



 は……、はい――――?( ゚Д゚)



 そ、そんな重要なこと、きいてないです、よ……?!?!(※最初に作者に伝える義務はないので、知らなくて当然なのです)

 血の気が引く思いがしました。 だって絵師さんが私のキャラのことを考えて、編集さんと一緒にデザイン起こしをしてまで描いてくれたのなら、そっちのほうがずっと大事ではないですか……? たとえそれが、私のイメージとは違っていても、です。

(あとから米田さんに聞いた話なんですが……。絵師さんの中には、作品を創った側の要望を一切聞かない、という方もいらっしゃるとのことです。作品からデザインを起こしてくれるというのは当たり前の行為ではなく、絵師さんのご厚意なのです)

 問題ありまくりですよ。それを先に言ってほしい。や、この場合、「絵師さんがこんなことをしてくれてる」という予測ができなかった私が悪いのかな? 事前に担当さんに詳しく聞かなかったのがいけないのかな? そういうことだよね?

 もはや、自分のキャライメージなんか、どうでもいいのでは。 どこかに押し込んでおいてかまわないので、そっちを採用してくださいという思いを込め、あわてて言いました。

みつき「そういうことをしていただいた上で変えるのは失礼なので、髪の件は忘れてください。重ね重ね、すみませんでした」

 お二人に伝えます。 しかし、編集さんたちの会話の流れはすでにリテイクの話で終わる方向へ流れていました。私の「リテイク取り消し」への返答はありません。

米田さん「その髪型になると、現行よりもちょっとだけ大人度が上がる印象になりますね。方向性は良いと思います。ただ現行もイメージと違う訳ではないため、イラストレーターさんの負担が大きくなるようでしたら現行で」

須束さん「デザイン上、髪の毛はキャラの印象に大きく関わる部分なのでどうしても負担は大きいですね。相談はしてみますが、全体への影響も考えないといけないので直せるかどうかはお約束できません」

米田さん「承知しました。お手数をおかけしますが、よろしくお願い致します」

みつき「(みつき:だ、大丈夫なのかな……?)……承知しました。このままでも大丈夫ですので、引き続きよろしくお願い致します」

 むしろ。直さなくていいです。(本音) リテイクをかけるのも避けたいところです(本音) が、絵師さんとのやりとりは(私の)仕事の範囲外。裁量で動けるところではありません。

 この間に、もう一度、「リテイク無しで」と強く言うべき? でも、大丈夫だと編集のお二人が思っているのなら、そこはお任せしたほうが……と、ひたすらぐるぐるしてました。

 そんなこんなで打ち合わせはいったん終了です。けれど、終わった気がしませんでした。 気持があせって、嫌な汗ばかりが流れます。

 だって。 これ、問題です。 絵師さんの立場になって考えてみましょう。 編集さんと相談して作って「大丈夫」って言われたキャラを描いただけなのに、あとから原作者に「ここが違うよ」って指摘されたのです。これで、気分を害さないはずないと思うのですが……どうでしょうか。

 ですが「作者は直接、絵師さんと話せない」という仕事上のルールがあります。 いくら謝りたくても、現行のままでと伝えたくても、何もできません。  結局、「どうか気分を害しませんように」、と祈ることしかできませんでした。


+++



2Pみつき「あーあ。やっちゃったねぇ、みつき。一体誰が悪いんだろね?」

1Pみつき「調子に乗って、自我を出してしまったあたりと……絵師さんがそういうことまでやってくださってることを知らずにいたこと、ですかね……」

 1~4P自分の脳内相談では、4Pみつきの意見を優先させようと思っていたのに……いつのまにか、2Pみつきの意見が出てしまってました。 なんのために話し合いをしたのでしょう(後悔)

2Pみつき「だよねぇ。こんなことで迷惑かけちゃうなら、もうデビューしないほうがいいんじゃないかな? また同じこと繰り返すでしょ」 1Pみつき「……(´・ω・`)」

  ぐうの音も出ません。 この日はそんなことを本気で考え、落ちこんでいたのでした。






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