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気になる匂い
残された彼女の匂い
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「ん…」
目が覚めると見慣れない天井が目に飛び込んできた。そうか、昨日は氷室くんのバーで彼女と飲んで…ここのホテルに来た。そこまでは覚えている…。スーツはハンガーに掛けられて壁に吊られている。それ以外のシャツもズボンも身に付けたまま寝ていたみたいだ。ということは、何もせずにホテルに泊まったということか?俺の隣には誰も寝ていないし、シーツを触ってみても温かくもない。が、ドゥルキスの甘い香りが残っている。
「やっぱり…」
ベッドに上半身だけを起こし、髪の毛を掴んで「はっ」と、自嘲気味に笑いをこぼす。
「あ~。何やってんだろうな、俺」
三十を目前に馬鹿すぎるだろ。惚れた女一人抱くこともできずに、甘い匂いに胸が締め付けられているなんて。
まぁ、くよくよしても仕方がない。名前も知らない彼女の事は忘れよう。そろそろ本気で恋人を作らなきゃなぁ。結婚も考える年齢だし。来月は、高校の同級生が結婚するらしいから結婚式にも参加することにした。同じテーブルの女性にでも声を掛けるか?彼女みたいに乗ってくれる女性はいないだろうけど。
「シャワーだけでも浴びて帰るか…」
寝心地の悪いベッドから降りてバスルームの開きにくい扉を力ずくで開く。
「えっ!?」
俺は思わず叫んでしまった。鏡の前に赤い口紅が置かれていたからだ。…アストルムの。どうして?単純に忘れて帰ったのか?そんなわけないよな?疑問は次々とわいてくる。…また彼女に会うためには、あのバーに行けば良いのか…?もう忘れようと思ったのに…。リフレッシュをするためにも服を脱いでシャワーを浴びる。
「はぁ…」
朝ごはんは近くのコンビニで買って家でいつも通り一人寂しく食べるとするか。そんなことを考えながら掛けた覚えのないスーツを着ようと近づいた。
「なんなんだよ…」
どこまで俺を惚れさせたら良いんだ?
俺のスーツからはドゥルキスの甘い香りが漂ってきた。目を閉じれば彼女の後ろ姿も、酒を飲んでいる姿も、今、目の前で見ているかのように鮮明に思い出せる。
こんなに誰かに惚れたのは生まれてはじめて。俺はどうすれば良いんだ?答えは一つしかない。
また、あのバーに行って彼女の事をもっと知る…それだけだ。
それまで静かだった俺の携帯がなっている。表示された名前を見ると、来月結婚する予定の伊藤からだった。
「もしもし?どうしたんだよ土曜の朝から。もしかして浮気しているのがバレたのか?」
『そうなんだよ…ってなわけないだろ。誰かと違って順調にいっているから。心配無用ですよ~』
「あっ、そう。それはよかったな。で?わざわざ嫁自慢をするために俺に電話してきたのか?なら、切るぞ」
正確にはまだ嫁ではないがわかりやすすぎる嫌みを言ってやる。煽ってきたお返しだ。独身貴族をなめるなよ。高校生の頃から俺も伊藤も全く変わってないな。と、虚しくなってくる。
『…今日の夜、空いてる?ちょっと相談があるんだけど』
珍しく真面目な声で伊藤が言ってくるから取り合わないわけにもいかない。本当は今日も氷室くんのバーに行って彼女に会いたかったけど。俺の数少ない友人を大切にしないわけにもいかない。
「ああ。いつでも空きまくってるよ」
『よかった。じゃあ──』
と、俺は聞いたことがない居酒屋を指定された。場所を知らないと言うと『だろうな。後で、スカメに送っておくよ』
スカメとは『スカイメッセージ』の略で電話もできるし、名前の通り、メッセージのやり取りができるアプリだ。使っていない人はいないだろう。彼女にもスカメを聞いておけばよかったなぁなんて後悔をしながら電話を切り、ホテルを後にした。
目が覚めると見慣れない天井が目に飛び込んできた。そうか、昨日は氷室くんのバーで彼女と飲んで…ここのホテルに来た。そこまでは覚えている…。スーツはハンガーに掛けられて壁に吊られている。それ以外のシャツもズボンも身に付けたまま寝ていたみたいだ。ということは、何もせずにホテルに泊まったということか?俺の隣には誰も寝ていないし、シーツを触ってみても温かくもない。が、ドゥルキスの甘い香りが残っている。
「やっぱり…」
ベッドに上半身だけを起こし、髪の毛を掴んで「はっ」と、自嘲気味に笑いをこぼす。
「あ~。何やってんだろうな、俺」
三十を目前に馬鹿すぎるだろ。惚れた女一人抱くこともできずに、甘い匂いに胸が締め付けられているなんて。
まぁ、くよくよしても仕方がない。名前も知らない彼女の事は忘れよう。そろそろ本気で恋人を作らなきゃなぁ。結婚も考える年齢だし。来月は、高校の同級生が結婚するらしいから結婚式にも参加することにした。同じテーブルの女性にでも声を掛けるか?彼女みたいに乗ってくれる女性はいないだろうけど。
「シャワーだけでも浴びて帰るか…」
寝心地の悪いベッドから降りてバスルームの開きにくい扉を力ずくで開く。
「えっ!?」
俺は思わず叫んでしまった。鏡の前に赤い口紅が置かれていたからだ。…アストルムの。どうして?単純に忘れて帰ったのか?そんなわけないよな?疑問は次々とわいてくる。…また彼女に会うためには、あのバーに行けば良いのか…?もう忘れようと思ったのに…。リフレッシュをするためにも服を脱いでシャワーを浴びる。
「はぁ…」
朝ごはんは近くのコンビニで買って家でいつも通り一人寂しく食べるとするか。そんなことを考えながら掛けた覚えのないスーツを着ようと近づいた。
「なんなんだよ…」
どこまで俺を惚れさせたら良いんだ?
俺のスーツからはドゥルキスの甘い香りが漂ってきた。目を閉じれば彼女の後ろ姿も、酒を飲んでいる姿も、今、目の前で見ているかのように鮮明に思い出せる。
こんなに誰かに惚れたのは生まれてはじめて。俺はどうすれば良いんだ?答えは一つしかない。
また、あのバーに行って彼女の事をもっと知る…それだけだ。
それまで静かだった俺の携帯がなっている。表示された名前を見ると、来月結婚する予定の伊藤からだった。
「もしもし?どうしたんだよ土曜の朝から。もしかして浮気しているのがバレたのか?」
『そうなんだよ…ってなわけないだろ。誰かと違って順調にいっているから。心配無用ですよ~』
「あっ、そう。それはよかったな。で?わざわざ嫁自慢をするために俺に電話してきたのか?なら、切るぞ」
正確にはまだ嫁ではないがわかりやすすぎる嫌みを言ってやる。煽ってきたお返しだ。独身貴族をなめるなよ。高校生の頃から俺も伊藤も全く変わってないな。と、虚しくなってくる。
『…今日の夜、空いてる?ちょっと相談があるんだけど』
珍しく真面目な声で伊藤が言ってくるから取り合わないわけにもいかない。本当は今日も氷室くんのバーに行って彼女に会いたかったけど。俺の数少ない友人を大切にしないわけにもいかない。
「ああ。いつでも空きまくってるよ」
『よかった。じゃあ──』
と、俺は聞いたことがない居酒屋を指定された。場所を知らないと言うと『だろうな。後で、スカメに送っておくよ』
スカメとは『スカイメッセージ』の略で電話もできるし、名前の通り、メッセージのやり取りができるアプリだ。使っていない人はいないだろう。彼女にもスカメを聞いておけばよかったなぁなんて後悔をしながら電話を切り、ホテルを後にした。
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