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第一章
怒りの8032
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「ラック! シオン!」
最後に音がした白塗りの建物の中に飛び込む。
教会を兼ねた孤児院って言ってたっけ。
見上げるほど高い天井に、整然と並んだイス。
正面突き当たりには子どもを抱いた女性の像や巨大な壁画がかかっている。
左右の壁には仕切りのような布が吊り下げられていて、大きなガラスの窓やそこに飾ってある絵画を隠す役割をしているみたいだ。
しずかだ。
どうしてこんなに静まり返っているんだろう。
ラックは?
シオンは?
確かにこっちの方角に来たはずなのに。
ぼくは目を閉じた。
聴覚に全神経を集中させるためだ。
──ザワザワ
──ザザザ
だれの姿も見えない。
でも、たくさんいる。ものすごい数。気配を殺してぼくを取り囲んでいる。
(────けて)
「……シオン!?」
(た、す──ハチ……)
シオンの声だ。
近い。
でもダメだ、音が多すぎてかき消されてしまう。特定できない。
きっとどこかに捕まって身動きが取れないんだ。
ああくそ、ラックがいたら熱源を辿ってくれるのに。
「そうだ! ラック! 最大照射!!」
発光器官が不十分なラックは普段から力を温存している。
ここぞ、という時に目映い光を放つのだ。
ラックはきっとぼくの声に応えてくれる。
全身全霊で光を放ち、ぼくに場所を伝えようとしてくれているはずだ。
ぼくは走りだす。
相棒の命の火を探して周囲にすばやく目線を送る。
「──見つけた!」
きらりと光る。
女神像の目の奥だ。
ぼくは走りながら火鉱石を投じた。
「手りゅう弾(レイ・ボム)! 最大火力!」
ドォンッ!と派手に爆発して女神像の胴体が吹っ飛んだ。
ぽろぽろと剝がれ落ちるのはクモたちの死骸。そして中に閉じ込められていたシオンとラックが倒れ込んだ。
「ラック、シオン!」
ぼくは慌てて駆けつけ、ふたりをを抱き上げた。
『おう……相棒、おまえならきっと見つけてくれると思ったゼ』
弱々しく翅を震わせるラック。背中の光が次第に薄くなり、完全に消えた。眠ったんだ。
「ありがとラック、少しだけ休んでてくれよ」
そっと背中を撫でてやると、腕の中にいたシオンが小さく息を吐いた。
薄目を開けてぼくの姿を確認するや、うっすらと笑みを浮かべる。
「ハチミツ……来てくれた……ありがと、また、助けられちゃった」
「遅れてごめん。苦しかったよね」
「ううん、へいき。ラックが守ってくれたの。私の顔に張りついて、クモたちが来ないように翅で威嚇しながら呼吸しやすいように守ってくれたの」
あぁラック。なんだよ。格好良すぎるじゃないか。
「ごめんシオン。怖い思いさせて。ぼくが弱いから」
もっと早く異変に気づいてやれればシオンもラックもこんな目に遭わなかったかもしれないのに。ぼくのせいだ。
「ごめん……」
ぽろぽろと溢れてきた涙を、シオンのやわらかな手がぬぐってくれる。
「どうして謝るの? おねがい、そんなふうに自分を責めないで。私にとってハチミツはとても強い勇者だよ。信じてたもん」
「シオン……」
「だから、もっと自分に自信をもって。……ね?」
シオンの体がずしりと重くなった。意識を失ったんだ。
規則正しく胸が上下して、寝息が聞こえてくる。大丈夫、生きてる。
──ザワザワザワ。クモたちが騒いでいる。
どうやら女神像の中の空洞に巣があり、シオンやラックをエサにするつもりだったみたいだ。それを破壊されて怒り狂っている。
でもさ、怒っているのはオマエらだけじゃないんだよ。
ぼくの中で赤々と燃えているもの。これも、怒りなんだ。
こんなに怒ったのは初めてかもしれない。
怒りと怒りのぶつかり合い。
容赦するつもりはない。
立ち上がったぼくはクモたちを振り返る。
「……来いよ」
燃え滾るマグマのような怒りが全身を包み込み、いまにも爆発しそうだ。
「さっさと来いよ。灰にしてやる」
最後に音がした白塗りの建物の中に飛び込む。
教会を兼ねた孤児院って言ってたっけ。
見上げるほど高い天井に、整然と並んだイス。
正面突き当たりには子どもを抱いた女性の像や巨大な壁画がかかっている。
左右の壁には仕切りのような布が吊り下げられていて、大きなガラスの窓やそこに飾ってある絵画を隠す役割をしているみたいだ。
しずかだ。
どうしてこんなに静まり返っているんだろう。
ラックは?
シオンは?
確かにこっちの方角に来たはずなのに。
ぼくは目を閉じた。
聴覚に全神経を集中させるためだ。
──ザワザワ
──ザザザ
だれの姿も見えない。
でも、たくさんいる。ものすごい数。気配を殺してぼくを取り囲んでいる。
(────けて)
「……シオン!?」
(た、す──ハチ……)
シオンの声だ。
近い。
でもダメだ、音が多すぎてかき消されてしまう。特定できない。
きっとどこかに捕まって身動きが取れないんだ。
ああくそ、ラックがいたら熱源を辿ってくれるのに。
「そうだ! ラック! 最大照射!!」
発光器官が不十分なラックは普段から力を温存している。
ここぞ、という時に目映い光を放つのだ。
ラックはきっとぼくの声に応えてくれる。
全身全霊で光を放ち、ぼくに場所を伝えようとしてくれているはずだ。
ぼくは走りだす。
相棒の命の火を探して周囲にすばやく目線を送る。
「──見つけた!」
きらりと光る。
女神像の目の奥だ。
ぼくは走りながら火鉱石を投じた。
「手りゅう弾(レイ・ボム)! 最大火力!」
ドォンッ!と派手に爆発して女神像の胴体が吹っ飛んだ。
ぽろぽろと剝がれ落ちるのはクモたちの死骸。そして中に閉じ込められていたシオンとラックが倒れ込んだ。
「ラック、シオン!」
ぼくは慌てて駆けつけ、ふたりをを抱き上げた。
『おう……相棒、おまえならきっと見つけてくれると思ったゼ』
弱々しく翅を震わせるラック。背中の光が次第に薄くなり、完全に消えた。眠ったんだ。
「ありがとラック、少しだけ休んでてくれよ」
そっと背中を撫でてやると、腕の中にいたシオンが小さく息を吐いた。
薄目を開けてぼくの姿を確認するや、うっすらと笑みを浮かべる。
「ハチミツ……来てくれた……ありがと、また、助けられちゃった」
「遅れてごめん。苦しかったよね」
「ううん、へいき。ラックが守ってくれたの。私の顔に張りついて、クモたちが来ないように翅で威嚇しながら呼吸しやすいように守ってくれたの」
あぁラック。なんだよ。格好良すぎるじゃないか。
「ごめんシオン。怖い思いさせて。ぼくが弱いから」
もっと早く異変に気づいてやれればシオンもラックもこんな目に遭わなかったかもしれないのに。ぼくのせいだ。
「ごめん……」
ぽろぽろと溢れてきた涙を、シオンのやわらかな手がぬぐってくれる。
「どうして謝るの? おねがい、そんなふうに自分を責めないで。私にとってハチミツはとても強い勇者だよ。信じてたもん」
「シオン……」
「だから、もっと自分に自信をもって。……ね?」
シオンの体がずしりと重くなった。意識を失ったんだ。
規則正しく胸が上下して、寝息が聞こえてくる。大丈夫、生きてる。
──ザワザワザワ。クモたちが騒いでいる。
どうやら女神像の中の空洞に巣があり、シオンやラックをエサにするつもりだったみたいだ。それを破壊されて怒り狂っている。
でもさ、怒っているのはオマエらだけじゃないんだよ。
ぼくの中で赤々と燃えているもの。これも、怒りなんだ。
こんなに怒ったのは初めてかもしれない。
怒りと怒りのぶつかり合い。
容赦するつもりはない。
立ち上がったぼくはクモたちを振り返る。
「……来いよ」
燃え滾るマグマのような怒りが全身を包み込み、いまにも爆発しそうだ。
「さっさと来いよ。灰にしてやる」
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