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第一章
出会い
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火鉱石はその純度や大きさ、流し込む魔力によって火力が変わる。先ほどのダイナマイトは小粒で純度の悪いC級石をいくつも組み合わせて威力を増した。だけどこの手りゅう弾はA級でそこそこレアな石だ。
『ちょい待て、A級石があればどれだけの食糧と交換……』
「いくよ。手りゅう弾(レイ・ボム)」
着火した火鉱石を巣に向かって放り投げる。狙いは天井に接している土台部分。
「くるよラック、中の人は衝撃にそなえて」
ぼくは耳をふさいで伏せた。
一瞬おいてドーンッと派手な音と振動と熱風が襲ってくる。
狙い通り、天井部分から剥がれ落ちた巣が真っ逆さまに落ちてくる。
「きゃあああっ」
中の人が悲鳴を上げる。
ごめん。さすがに受け止められない。
ずしんと地面を震わせて着地した巣は薄い煙を上げながら転がった。
やがてはらりと表面が剥がれ落ちるのを確認し、急いで中を覗き込んだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「うっ……ひっく、こわかった」
不安そうにこちらを見つめ返すのはぼくと同じ年頃の女の子だった。
左右に結んだ銀色の長い髪に大きな瞳、愛らしい顔つき。
珍しい。女の子だ。それも、すごくカワイイ。
服装は飾りのないシャツにハーフパンツ。見たところコードを示すイヤーカフもない。
もしかして採掘師ではない? だとしたら……。
「ケガはない? 良かったら手を」
そっと手を差し出すとためらいつつ白い手を伸ばしてきた。
でもぼくの手の位置よりずっと下だ。見えてないのかな。
「あの……ごめんなさい、暗くて、よく見えなくて。あなたの顔も」
なにもないところでパタパタと上下させているのを見かねて、ぼくの方から手を掴んだ。
やわらかい。弾力のある苔みたいな感触だ。
「あ、いま、なにか」
「ぼくだよ。きみ、目がきかないんだね」
「だって真っ暗なんだもの。あなたには見えるの?」
「きみの顔も髪型もばっちり見える。よし、そのまま右足に力を入れて立ち上がって、左足の下に尖った岩があるから注意」
「う、うん」
やわらかな手をとって平坦なところへと連れ出す。
少女は気まずそうにしていたけど、ぼくの手をきつく握って放そうとしない。よっぽど怖いみたいだ。
どうにか落ち着かせようと考えて、ひとまず名乗ることにした。
「ぼくは採掘師見習いのハチミツだよ。十四歳。物心ついた時からここにいるんだ」
「採掘師──ってモグラのことよね……」
まじまじと見つめられて、はは……と苦笑いを浮かべるしかなかった。
【モグラ】。それが蔑称だということはぼくも知っている。
無理もない。
ふだん、地下深くで採掘作業をしているぼくらは身なりなんて気にしないし、水が貴重だから湯あみも一週間に一回だ。常に泥臭くて汗もいっぱいかいている。まっくろなんだ。だからモグラ。命がけで採掘しているなんて地上の人たちは知らない。ふだんから見ているものも食べているものも違う、住む世界が違うんだ。
いちいち腹を立てても仕方ない。お腹も空くしね。
『ひでぇ話だよな、こっちは毎日一所懸命働いているのに地上の奴らは真っ黒になったオレさまたちを【モグラ】ってバカにするんだぜ。あーひどいひどい』
ラックが小さく愚痴る。
少女は驚いて周囲を見回した。
「だれ? ねぇいま聞こえたのはだれの声?」
「大丈夫。ぼく相棒のラックだよ。気にしなくていい、ただの虫だから」
『虫じゃなくて微光虫だー!』
ぴかぴか点滅して存在を誇示する。
もう、ラックはうるさいなぁ。
『ついでに言っとくけどな、いいか嬢ちゃん、オレさまは偉大で寛大だから許してやるが、もし今度【モグラ】って言ったら……』
「すごいわ! 本当にいたのね! モグラさんと微光虫さん!」
ラックの言葉をさえぎるように大声を上げた。
目をキラキラさせて今にも飛び上がりそうだ。なにこの嬉しそうな反応。
「え……と、イヤじゃないの? ぼくらのこと」
「イヤ? どうして?」
不思議そうに首を傾げながら前のめりになってくる。
肩口でさらりと揺れる髪に見入られそうになって、慌てて体を引いた。
「なんていうかほら、汚れているし、汗の匂いとか」
「ぜんぜん。私も昔は毎日汗だくて走り回っていたもの。発汗は大事よ」
「あ、ぅんそぅだね……ラック、どうしよう、この子つよい」
『がんばれ~』
耳の中でブルンブルンと笑ってる。
『ちょい待て、A級石があればどれだけの食糧と交換……』
「いくよ。手りゅう弾(レイ・ボム)」
着火した火鉱石を巣に向かって放り投げる。狙いは天井に接している土台部分。
「くるよラック、中の人は衝撃にそなえて」
ぼくは耳をふさいで伏せた。
一瞬おいてドーンッと派手な音と振動と熱風が襲ってくる。
狙い通り、天井部分から剥がれ落ちた巣が真っ逆さまに落ちてくる。
「きゃあああっ」
中の人が悲鳴を上げる。
ごめん。さすがに受け止められない。
ずしんと地面を震わせて着地した巣は薄い煙を上げながら転がった。
やがてはらりと表面が剥がれ落ちるのを確認し、急いで中を覗き込んだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「うっ……ひっく、こわかった」
不安そうにこちらを見つめ返すのはぼくと同じ年頃の女の子だった。
左右に結んだ銀色の長い髪に大きな瞳、愛らしい顔つき。
珍しい。女の子だ。それも、すごくカワイイ。
服装は飾りのないシャツにハーフパンツ。見たところコードを示すイヤーカフもない。
もしかして採掘師ではない? だとしたら……。
「ケガはない? 良かったら手を」
そっと手を差し出すとためらいつつ白い手を伸ばしてきた。
でもぼくの手の位置よりずっと下だ。見えてないのかな。
「あの……ごめんなさい、暗くて、よく見えなくて。あなたの顔も」
なにもないところでパタパタと上下させているのを見かねて、ぼくの方から手を掴んだ。
やわらかい。弾力のある苔みたいな感触だ。
「あ、いま、なにか」
「ぼくだよ。きみ、目がきかないんだね」
「だって真っ暗なんだもの。あなたには見えるの?」
「きみの顔も髪型もばっちり見える。よし、そのまま右足に力を入れて立ち上がって、左足の下に尖った岩があるから注意」
「う、うん」
やわらかな手をとって平坦なところへと連れ出す。
少女は気まずそうにしていたけど、ぼくの手をきつく握って放そうとしない。よっぽど怖いみたいだ。
どうにか落ち着かせようと考えて、ひとまず名乗ることにした。
「ぼくは採掘師見習いのハチミツだよ。十四歳。物心ついた時からここにいるんだ」
「採掘師──ってモグラのことよね……」
まじまじと見つめられて、はは……と苦笑いを浮かべるしかなかった。
【モグラ】。それが蔑称だということはぼくも知っている。
無理もない。
ふだん、地下深くで採掘作業をしているぼくらは身なりなんて気にしないし、水が貴重だから湯あみも一週間に一回だ。常に泥臭くて汗もいっぱいかいている。まっくろなんだ。だからモグラ。命がけで採掘しているなんて地上の人たちは知らない。ふだんから見ているものも食べているものも違う、住む世界が違うんだ。
いちいち腹を立てても仕方ない。お腹も空くしね。
『ひでぇ話だよな、こっちは毎日一所懸命働いているのに地上の奴らは真っ黒になったオレさまたちを【モグラ】ってバカにするんだぜ。あーひどいひどい』
ラックが小さく愚痴る。
少女は驚いて周囲を見回した。
「だれ? ねぇいま聞こえたのはだれの声?」
「大丈夫。ぼく相棒のラックだよ。気にしなくていい、ただの虫だから」
『虫じゃなくて微光虫だー!』
ぴかぴか点滅して存在を誇示する。
もう、ラックはうるさいなぁ。
『ついでに言っとくけどな、いいか嬢ちゃん、オレさまは偉大で寛大だから許してやるが、もし今度【モグラ】って言ったら……』
「すごいわ! 本当にいたのね! モグラさんと微光虫さん!」
ラックの言葉をさえぎるように大声を上げた。
目をキラキラさせて今にも飛び上がりそうだ。なにこの嬉しそうな反応。
「え……と、イヤじゃないの? ぼくらのこと」
「イヤ? どうして?」
不思議そうに首を傾げながら前のめりになってくる。
肩口でさらりと揺れる髪に見入られそうになって、慌てて体を引いた。
「なんていうかほら、汚れているし、汗の匂いとか」
「ぜんぜん。私も昔は毎日汗だくて走り回っていたもの。発汗は大事よ」
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