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願いがぎっしりつまった夜空
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「ちょ……と待って。わたしとアレンは同じお母さんから生まれてきた?」
うそでしょう。そんなことってある?
まさかね。生まれたてのアレンを別のところから連れてきたんじゃないの? 別のエレノアさんのところから。
でもなんのために? だってお母さんは『わたしの大切な子どもたち』って言ったのよね。そうだとしたら結論はひとつしかないじゃない。
「わたしとアレンは双子の“きょうだい”……ってこと? まさかぁ」
あまりにも信じられなくてちょっと笑ってしまった。
「きっと冗談よね。ね? アレン」
頭のいいアレンなら別のことを思いついて「ちがう」と言ってくれると思ったけれど、石みたいに固まっている。どうやら別の答えはないみたい。
わたしとアレンのお母さんは同じ。
アレンは王子様だけど、わたしは王女じゃないわ。
どうして?――分かんない。考えれば考えるほど頭が痛くなる。
スクリーンの中ではお母さんとルシウスさんが赤ん坊のわたしたちを抱いて楽しそうだ。笑ってないで教えてよ、お母さん。
「…………」
突然アレンが立ち上がった。一言もしゃべらずに後ろの方に歩いていく。大きな扉があるの。
「『ひらけ』」
扉を開けて飛び出していくアレン。わたしも急いで追いかけた。重たい扉を力づくで押し開けると、冷たい風が吹き込んでくる。
「ここは、どこ?」
辺りは夜みたいに暗いけれど、空には満天の星が輝いている。足元は氷を張った池みたいに透き通っていて、自分の姿が鏡のように映る。なんだかとても不思議な空間。
『ばふ! ここは最終章『願いがぎっしりつまった夜空』だわわんっ』
「とうとうゴールなのね……」
アレンは少し先に立っている。良かった、どこかにいっちゃったかと思った。
息が凍りそうなほど寒いので手をつなごうと思って近づくと、
「エマは知ってたのか? きょうだいがいたこと」
ふり向いたアレンは泣きそうな顔をして、吐きだした息がふわっと空に溶けていく。
「し、知らないわ。全然。もし知っていたら絶対に会いに行ったもの」
「……そうだよな。でもばあさんやルシウスは知ってた。知ってて、隠していた。おれを騙していたんだ。ずっと……ずっと」
アレンの目から涙があふれてくる。
泣いているの、アレン。
どうして? 悲しいの? くやしいの? さみしいの?
「ルシウスが……ひっく、困るから、我慢して帰るのに、なんで、だますんだよ……うっ、なんで、うそ、つくんだよ……」
あぁ、やっぱりアレンは泣き虫なわたしのきょうだいだわ。
そっと頭をなでてあげるともっと涙が増えた。きれいね、真珠みたい。
「ねぇアレン。わたしもびっくりしたけれど、でもルシウスさんは意地悪で教えなかったわけじゃないと思うわ」
「なんで分かるんだよ!」
アレンはムキになって腕をふり払った。
「ルシウスとは三年も一緒にいて、いくらでも話すチャンスはあったんだぞ……、王宮の中でも。おれに本当の母さんの名前やカナリア島の出身だと教えてくれたのもルシウスだ。もし双子のきょうだいがいることを知っていたら、お母さんに気に入られるようもっともっと努力して、そしたら、もっと早く会いに来られたのにっ!」
アレンの泣き声が空に吸い込まれていく。
ぎゅっと抱きしめたけれど、アレンの体がどんどん冷たくなっていく。
そうよね、会いたくなっちゃうよね。
わたしも会いたかった。ついさっきまで双子だと知らなかったけれど、ずっと会いたかったわ。自分でも変なこと言ってると思うけれどホントよ。そんな気分なの。
『ばふっ、エマ、アレン、上を見るわわんっ』
スピンがしっぽを揺らすと空に二つの流れ星が走った。光の筋を描きながら落ちてくる。手を伸ばせばすぐ届きそうな場所でぷかぷか浮いた。
『ばっふん。魔法使いよ、よくぞここまでたどり着いたわわんっ』
スピンが急にまじめな口調になる。
『試練を乗り越えたふたりに『願いを一つだけ叶える魔法』を授けるわわんっ。その星を手にとって願いごとを唱えるわわんっ。ただし心の底から願っていることだけしか叶わないわわんっ』
星のひとつがわたしの手の中に降りてきた。金色の粉が散ってきれいね。
わたしの願い。
わたしはずっと魔法を使えるようになりたかったの。心の底から。
でも、いまはどうかしら。
いま、願うのは。
「……アレン?」
星を手にとったアレンが、何事かつぶやいた。聞こえないくらいの声で。
「アレン、いま、なにを願ったの?」
アレンはわたしの目を見てかすかに笑う。
「ごめんな、エマ」
「えっ?」
「おれ、もう、ヤなんだ」
イヤな予感がする。
急に風が強くなってきた。踏ん張っていないと飛ばされそうになる猛吹雪。
となりにいるアレンの姿が霞んでいく。手を伸ばしても届かない。どうして。
「アレン、わたしの手をつかんで、アレン! お願い!」
口の中に飛び込んでくる雪が冷たい。
「……エマ」
指先をつかむ気配にどれだけ安心したか。
「良かったアレン、一緒に」
「じゃあな」
「えっ」
指がはなれた瞬間、横殴りの風にわたしの体が吹き飛ばされた。
見えるのは、雪と、風と、手を振るアレンの……。
「いやー!!」
がばっと顔を起こした。
うそでしょう。そんなことってある?
まさかね。生まれたてのアレンを別のところから連れてきたんじゃないの? 別のエレノアさんのところから。
でもなんのために? だってお母さんは『わたしの大切な子どもたち』って言ったのよね。そうだとしたら結論はひとつしかないじゃない。
「わたしとアレンは双子の“きょうだい”……ってこと? まさかぁ」
あまりにも信じられなくてちょっと笑ってしまった。
「きっと冗談よね。ね? アレン」
頭のいいアレンなら別のことを思いついて「ちがう」と言ってくれると思ったけれど、石みたいに固まっている。どうやら別の答えはないみたい。
わたしとアレンのお母さんは同じ。
アレンは王子様だけど、わたしは王女じゃないわ。
どうして?――分かんない。考えれば考えるほど頭が痛くなる。
スクリーンの中ではお母さんとルシウスさんが赤ん坊のわたしたちを抱いて楽しそうだ。笑ってないで教えてよ、お母さん。
「…………」
突然アレンが立ち上がった。一言もしゃべらずに後ろの方に歩いていく。大きな扉があるの。
「『ひらけ』」
扉を開けて飛び出していくアレン。わたしも急いで追いかけた。重たい扉を力づくで押し開けると、冷たい風が吹き込んでくる。
「ここは、どこ?」
辺りは夜みたいに暗いけれど、空には満天の星が輝いている。足元は氷を張った池みたいに透き通っていて、自分の姿が鏡のように映る。なんだかとても不思議な空間。
『ばふ! ここは最終章『願いがぎっしりつまった夜空』だわわんっ』
「とうとうゴールなのね……」
アレンは少し先に立っている。良かった、どこかにいっちゃったかと思った。
息が凍りそうなほど寒いので手をつなごうと思って近づくと、
「エマは知ってたのか? きょうだいがいたこと」
ふり向いたアレンは泣きそうな顔をして、吐きだした息がふわっと空に溶けていく。
「し、知らないわ。全然。もし知っていたら絶対に会いに行ったもの」
「……そうだよな。でもばあさんやルシウスは知ってた。知ってて、隠していた。おれを騙していたんだ。ずっと……ずっと」
アレンの目から涙があふれてくる。
泣いているの、アレン。
どうして? 悲しいの? くやしいの? さみしいの?
「ルシウスが……ひっく、困るから、我慢して帰るのに、なんで、だますんだよ……うっ、なんで、うそ、つくんだよ……」
あぁ、やっぱりアレンは泣き虫なわたしのきょうだいだわ。
そっと頭をなでてあげるともっと涙が増えた。きれいね、真珠みたい。
「ねぇアレン。わたしもびっくりしたけれど、でもルシウスさんは意地悪で教えなかったわけじゃないと思うわ」
「なんで分かるんだよ!」
アレンはムキになって腕をふり払った。
「ルシウスとは三年も一緒にいて、いくらでも話すチャンスはあったんだぞ……、王宮の中でも。おれに本当の母さんの名前やカナリア島の出身だと教えてくれたのもルシウスだ。もし双子のきょうだいがいることを知っていたら、お母さんに気に入られるようもっともっと努力して、そしたら、もっと早く会いに来られたのにっ!」
アレンの泣き声が空に吸い込まれていく。
ぎゅっと抱きしめたけれど、アレンの体がどんどん冷たくなっていく。
そうよね、会いたくなっちゃうよね。
わたしも会いたかった。ついさっきまで双子だと知らなかったけれど、ずっと会いたかったわ。自分でも変なこと言ってると思うけれどホントよ。そんな気分なの。
『ばふっ、エマ、アレン、上を見るわわんっ』
スピンがしっぽを揺らすと空に二つの流れ星が走った。光の筋を描きながら落ちてくる。手を伸ばせばすぐ届きそうな場所でぷかぷか浮いた。
『ばっふん。魔法使いよ、よくぞここまでたどり着いたわわんっ』
スピンが急にまじめな口調になる。
『試練を乗り越えたふたりに『願いを一つだけ叶える魔法』を授けるわわんっ。その星を手にとって願いごとを唱えるわわんっ。ただし心の底から願っていることだけしか叶わないわわんっ』
星のひとつがわたしの手の中に降りてきた。金色の粉が散ってきれいね。
わたしの願い。
わたしはずっと魔法を使えるようになりたかったの。心の底から。
でも、いまはどうかしら。
いま、願うのは。
「……アレン?」
星を手にとったアレンが、何事かつぶやいた。聞こえないくらいの声で。
「アレン、いま、なにを願ったの?」
アレンはわたしの目を見てかすかに笑う。
「ごめんな、エマ」
「えっ?」
「おれ、もう、ヤなんだ」
イヤな予感がする。
急に風が強くなってきた。踏ん張っていないと飛ばされそうになる猛吹雪。
となりにいるアレンの姿が霞んでいく。手を伸ばしても届かない。どうして。
「アレン、わたしの手をつかんで、アレン! お願い!」
口の中に飛び込んでくる雪が冷たい。
「……エマ」
指先をつかむ気配にどれだけ安心したか。
「良かったアレン、一緒に」
「じゃあな」
「えっ」
指がはなれた瞬間、横殴りの風にわたしの体が吹き飛ばされた。
見えるのは、雪と、風と、手を振るアレンの……。
「いやー!!」
がばっと顔を起こした。
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