魔法が使えない女の子

咲間 咲良

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エドガーが○○○になっちゃった!

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「みんなお待たせ。新しい友だちを紹介するわ、アレンっていうの」

 アレンが姿を見せると女の子たちが一斉にふり向いた。

「かっこいー」
「背も高いんだね」
「いいなぁエマ」

 ちょっと待って。カッコイイとか背が高いとか、一体アレンはどんな「顔」をしているの。見たいのに見られないのもつらいわ。

「けっ、つまんねー」
 エドガーだけは口をへの字に曲げてクッキーにかぶりついていた。男の子同士なんだから仲良くすればいいのに。

「じゃあアレンはわたしのとなり。いまホットミルクを持ってくるわね」

 みんな揃ったところでもう一度「いただきます」をしてお茶会をはじめた。アレンは近くのお皿からチョコチップクッキーをつまみあげる。

「どう、美味しい?」
「まぁまぁだな」
「良かった。わたしも手伝ったのよ。いっぱい食べてね」

 さっきまで味気なかったクッキーが途端に甘く感じる。ふしぎね。
 美味しいクッキーを食べながらだと話もはずんだ。女の子たちは初対面のアレンに興味津々。ハンナなんて前のめりになっている。

「あたしハンナっていうの。ねぇアレンくんはどんな魔法使えるの?」

「……全然、大したことない。ちょっとした物を持ち上げるくらいの」

「へぇ、見せて見せて」

 アレンとしてはあんまり派手じゃない魔法を口にしたつもりなのね。「見せて」と言われて仕方なさそうにテーブルの上のティーポットを指さす。するとティーポットはひとりでに浮き上がり、ふわふわとわたしの元に近づいてきた。空いていたティーカップに中身をそそぎ、何事もなかったかのように着地する。

「すごぉい! あたしにもやって!」
「こっちも!」
「クッキー食べちゃったから追加して!」

 ハンナたちは初めて見る魔法に大興奮。魔法を便利な給仕係みたいに使ってる。
 不満そうな顔をしながらも従っているアレンをよそに、わたしは紅茶に口をつけた。うん、淹れたてのお茶は美味しいわ。


「くっだんねー」

 急にエドガーが大声を出したのでみんなが注目した。クッキーを食べ散らかしたエドガーはホットミルクを飲み干してからアレンに向き直る。

「おまえ、せいぜい物を移動させることしかできないんだろう。ちゃちな魔法だな。オレなんかうーんと高いところまで飛べるんだぜ」

「……だからなんだよ」

「だから、おまえの魔法はしょーもないって言ってんだよ。オレのじーちゃんのじーちゃんはレイクウッド王国の貴族なんだぜ、オレもその血を引いてんの」

 おおいばりで鼻を膨らませるエドガーにハンナたちが「また言ってるー」とあきれ顔。無表情で聞いていたアレンがため息をついた。

「それが自慢のつもりかよ。ちっちゃいやつ」

「なっ、オレをバカにすんのか!」
 顔を赤くしたエドガーが掴みかかった。せっかくのお茶会が台無しになっちゃう。

「やめて、エドガー!」
 あわてて手を出すとエドガーがふり向いた。目をまっかにしてわたしをにらんでくる。

「エマは引っ込んでろ。なんにもできない『魔法ナシ』のくせに!」

 わたしもカチンときたわ。

「魔法が使えないことは関係ないでしょ! 手をはなして、アレンを傷つけないで!」
「うっせぇ悔しかったら魔法で止めてみろ! 『魔法ナシ』!」
「なんですって!」

 もう怒ったわ。前から一度引っぱたいてやりたいと思っていたのよ。

 思いっきり腕を振りかぶって生意気な頬をたたいてやろうとしたら、突然、エドガーの姿が消えた。わたしのビンタは空振りにおわる。


「ゲコ、ゲーコ」

 エドガーが立っていた場所には灰色のヒキガエルが一匹。

「きもちわるいっ」

 ハンナたちが悲鳴を上げて逃げていく中、アレンだけは冷たい眼差しでヒキガエルを見下ろしていた。

「魔法魔法言うけどな、魔法を使えることがそんなに偉いのかよ」

 無表情のはずなのに悲しそうに見える。
 魔法が強すぎるせいで、アレンは、いろんな学校で悲しい思いをしたのね。

「アレン」

 わたしはできるだけ優しい声で名前を呼んだ。怒ってないことを伝えたかったの。
 アレンはわたしとヒキガエルを交互に見て、申し訳なさそうにうなだれる。

「ちょっと腹が立っただけだ。すぐに人間に戻してやるよ」
「うん、ありがと」

 早速アレンがタクトを振るおうとするとエドガーヒキガエル(長いからエドガエルでいいかしら)がいきなりジャンプした。テーブルに飛び乗るなり長い舌を使ってお皿の上のクッキーをむしゃむしゃ食べはじめる。

「ちょっと! お行儀悪いわよ!」
「ゲコゲーコ!」
 捕まえようにも軽い身のこなしで避けていく。なんてすばしっこいの。

「アレン、そっちに行ったわ!」
「うわっ」
 エドガエルが仕返しとばかりにアレンの顔に飛びついた。びっくりしたせいでイスにぶつかり、上に置いてあった本が転げ落ちてしまう。


「「あっ」」


 わたしとアレンが本の上で重なった瞬間、ピンク色のリングが輝きだした。ブックマーカーが反応したんだわ。
 まずい、このままじゃ本の中に飲み込まれちゃう……!
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