上 下
35 / 37
モモクリマチからきた鬼

三枚のお札

しおりを挟む
「鬼さんこちら、手のなるほうへ!」

 花菜はグラウンドのまんなかで手を叩いた。中腰になって体育館をのぞき込んでいた石鬼がゆっくり振り向く。
 三つの目ににらまれて内心ヒヤッとしたけれど花菜は精いっぱい叫んだ。

「アキトくんに会いたいんでしょう。わたしが案内してあげる。ついてきて!」

 両手を振って合図してから走り出した。


『まーてー』


 ズシン、ズシンと足音が響いてくる。

(待ちません!)

 花菜はなるべく後ろを見ないようにしながら必死に走った。手には白い球。そしてポケットには三枚のお札。アキトがくれたものだ。


「――いいか花菜。オレが集めていたこの札は「鬼の手形」といって鬼を退治したときにドロップされるアイテムなんだ。鬼の力をほんのすこしだけ借りられる。これを使って石鬼を裏手の山までおびきだしてくれ、オレは先にいって準備してる。ただし絶対にムチャするなよ」


(わたしにできるかどうかなんて関係ない。やるしかないんだ)

 もうすぐ校門にたどり着く、というとき花菜の目の前に石鬼の手が伸びてきた。逃げ道をふさぐつもりだ。

(おねがい、力を貸して)

 ポケットから最初の札を引っ張り出す。茶色い根が書かれていた札を挟むように二回手を叩き、アキトから教わった呪文をとなえる。

「一の鬼、石鬼の動きを止めて。かしこみかしこみもうす」

 すると札が光りかがやいた。花菜の手をすり抜けて頭上へと舞い上がる。ぼよんっと地面が揺れた。

「きゃっ」

 トランポリンの上に立っているときみたいに地面がうねる。花菜はとっさにしゃがみ込んだが、背の大きな石鬼はバランスを崩して派手に尻餅をついた。

(いまだ)

 花菜は地面を這いつくばりながら校門を抜ける。すると札の効力がきれたのか波立っていた地面が元に戻った。まだ足元がふわふわしているような気がして気持ち悪い。けれど貴重な時間をムダにしないようにと地面を蹴った。石鬼はなにが起こったのか分からない様子で、まだ立ち上がれない。



 咲倉町の中は静まり返っていた。人も車も電車のぜんぶ石になっているのだ。

(石鬼に踏まれたら大変だから、なるべく人がいないところを通らないと)

 ふだんなら絶対に怒られるけれどきょうは緊急事態だ。生垣の上を歩いたり、人の家の庭を抜けたりする。閉まっている踏切をくぐりぬけて線路の中に入った。

『まーてー』

「え、もう来たの!?」

 足の速い石鬼がもうそこまで来ている。目の前には踏切が開くのを待っている人たちがいる。

(ええい、こうなったら)

 花菜は心の中で「ごめんなさい」とあやまってから線路の上を走り出した。絶対にしちゃいけないけれど、こうするしかなかったのだ。鬼は花菜のあとを追って線路の上を走ってくる。

「あっ、トンネル!」

 行く手にまっくらなトンネルが口を開いて待ち構えていた。えいっと中に飛び込む。足元は暗いが壁際に埋め込まれた明かりでかろうじて見えた。

『まーてー』

 おおきな鬼は狭いトンネルの中で四つん這いになって追いかけてくる。これなら時間稼ぎができる、そう思った花菜だったが正面の明かりに気づいて急ブレーキをかけた。

「電車だ……」

 すぐそこがトンネルの外なのに、石になった電車一両が出口をふさぐような形で停まっている。

「どうしよう。このままじゃ石鬼がきて電車をつぶしちゃう。そうしたら中の人たちが」

 ここで電車を見捨てたらアキトは悲しむだろう。花菜も悲しい。この町が大好きで、だれも犠牲になってほしくない。


(決めた!)


 花菜は二枚目のお札を取り出した。本の形が描かれている。

「二の鬼、電車を押して。かしこみかしこみもうす」

 札が光った。どこからともなく羽音がして白い鳥のようなものが飛んでくる。

「ちがう、鳥じゃない。紙だ。本のページだ」

 何千、何万という本のページが電車の後ろに群がる。花菜も石化を弱められる白い球を握りしめて電車の後部に手をついた。

「せーのぉ」

 ありったけの力をこめるがまったく動かない。鉄の塊なのだから当然。

「もう一回いくよ。せーのぉっ」

 今度はもっと力を込める。びくともしない。手がじんじんしてきた。

『みーつーけーたー』

「まずい、きた」

 石鬼がすぐそこまで来ている。地面に手をつく度にレールが激しく割れた。もしあの怪力で電車を踏みつぶしたらと思うと……。


(もう無理なの? わたし、助けられない?)


 絶望的な気持ちになる。
 どんなに努力しても無理なものは無理なのだ。
 ちっぽけな力では、だれも助けられない。


(もうだめ……)


 ぎゅっと目をつぶったとき、

『あきらめるな、花菜!』

 耳元で声がした。ハッとして目を開けるとアキトの姿がある。どうして。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

鳥の詩

恋下うらら
児童書・童話
小学生、名探偵ソラくん、クラスで起こった事件を次々と解決していくお話。

霊能者、はじめます!

島崎 紗都子
児童書・童話
小学六年生の神埜菜月(こうのなつき)は、ひょんなことから同じクラスで学校一のイケメン鴻巣翔流(こうのすかける)が、霊が視えて祓えて成仏させることができる霊能者だと知る。 最初は冷たい性格の翔流を嫌う菜月であったが、少しずつ翔流の優しさを知り次第に親しくなっていく。だが、翔流と親しくなった途端、菜月の周りで不可思議なことが起こるように。さらに翔流の能力の影響を受け菜月も視える体質に…!

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

魔法が使えない女の子

咲間 咲良
児童書・童話
カナリア島に住む九歳の女の子エマは、自分だけ魔法が使えないことを悩んでいた。 友だちのエドガーにからかわれてつい「明日魔法を見せる」と約束してしまったエマは、大魔法使いの祖母マリアのお使いで魔法が書かれた本を返しに行く。 貸本屋ティンカーベル書房の書庫で出会ったのは、エマそっくりの顔と同じエメラルドの瞳をもつ男の子、アレン。冷たい態度に反発するが、上から降ってきた本に飲み込まれてしまう。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

空をとぶ者

ハルキ
児童書・童話
鳥人族であるルヒアは村を囲む神のご加護のおかげで外の人間による戦争の被害を受けずに済んでいる。しかし、そのご加護は村の人が誰かひとりでも村の外に出るとそれが消えてしまう。それに村の中からは外の様子を確認できない決まりになっている。それでも鳥人族は1000年もの間、神からの提示された決まりを守り続けていた。しかし、ルヒアと同い年であるタカタは外の世界に興味を示している。そして、ついに、ご加護の決まりが破かれる・・・  

幼なじみの告白。

藤永ゆいか
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞エントリー作品】 中学2年生の千紗は、幼なじみの朔のことが好き。だけど、朔は中学生になってからなぜか千紗に冷たくなってしまった。 朔が自分のことをどう思っているのか気になった千紗は、ある日マーガレットで花占いをしてみることに。しかし、その結果はまさかの “嫌い” で……。 そんななか、千紗は久しぶりに朔と一緒に帰ることになるが……? *「野いちご」にも掲載しています。

処理中です...