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モモクリマチからきた鬼
三枚のお札
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「鬼さんこちら、手のなるほうへ!」
花菜はグラウンドのまんなかで手を叩いた。中腰になって体育館をのぞき込んでいた石鬼がゆっくり振り向く。
三つの目ににらまれて内心ヒヤッとしたけれど花菜は精いっぱい叫んだ。
「アキトくんに会いたいんでしょう。わたしが案内してあげる。ついてきて!」
両手を振って合図してから走り出した。
『まーてー』
ズシン、ズシンと足音が響いてくる。
(待ちません!)
花菜はなるべく後ろを見ないようにしながら必死に走った。手には白い球。そしてポケットには三枚のお札。アキトがくれたものだ。
「――いいか花菜。オレが集めていたこの札は「鬼の手形」といって鬼を退治したときにドロップされるアイテムなんだ。鬼の力をほんのすこしだけ借りられる。これを使って石鬼を裏手の山までおびきだしてくれ、オレは先にいって準備してる。ただし絶対にムチャするなよ」
(わたしにできるかどうかなんて関係ない。やるしかないんだ)
もうすぐ校門にたどり着く、というとき花菜の目の前に石鬼の手が伸びてきた。逃げ道をふさぐつもりだ。
(おねがい、力を貸して)
ポケットから最初の札を引っ張り出す。茶色い根が書かれていた札を挟むように二回手を叩き、アキトから教わった呪文をとなえる。
「一の鬼、石鬼の動きを止めて。かしこみかしこみもうす」
すると札が光りかがやいた。花菜の手をすり抜けて頭上へと舞い上がる。ぼよんっと地面が揺れた。
「きゃっ」
トランポリンの上に立っているときみたいに地面がうねる。花菜はとっさにしゃがみ込んだが、背の大きな石鬼はバランスを崩して派手に尻餅をついた。
(いまだ)
花菜は地面を這いつくばりながら校門を抜ける。すると札の効力がきれたのか波立っていた地面が元に戻った。まだ足元がふわふわしているような気がして気持ち悪い。けれど貴重な時間をムダにしないようにと地面を蹴った。石鬼はなにが起こったのか分からない様子で、まだ立ち上がれない。
咲倉町の中は静まり返っていた。人も車も電車のぜんぶ石になっているのだ。
(石鬼に踏まれたら大変だから、なるべく人がいないところを通らないと)
ふだんなら絶対に怒られるけれどきょうは緊急事態だ。生垣の上を歩いたり、人の家の庭を抜けたりする。閉まっている踏切をくぐりぬけて線路の中に入った。
『まーてー』
「え、もう来たの!?」
足の速い石鬼がもうそこまで来ている。目の前には踏切が開くのを待っている人たちがいる。
(ええい、こうなったら)
花菜は心の中で「ごめんなさい」とあやまってから線路の上を走り出した。絶対にしちゃいけないけれど、こうするしかなかったのだ。鬼は花菜のあとを追って線路の上を走ってくる。
「あっ、トンネル!」
行く手にまっくらなトンネルが口を開いて待ち構えていた。えいっと中に飛び込む。足元は暗いが壁際に埋め込まれた明かりでかろうじて見えた。
『まーてー』
おおきな鬼は狭いトンネルの中で四つん這いになって追いかけてくる。これなら時間稼ぎができる、そう思った花菜だったが正面の明かりに気づいて急ブレーキをかけた。
「電車だ……」
すぐそこがトンネルの外なのに、石になった電車一両が出口をふさぐような形で停まっている。
「どうしよう。このままじゃ石鬼がきて電車をつぶしちゃう。そうしたら中の人たちが」
ここで電車を見捨てたらアキトは悲しむだろう。花菜も悲しい。この町が大好きで、だれも犠牲になってほしくない。
(決めた!)
花菜は二枚目のお札を取り出した。本の形が描かれている。
「二の鬼、電車を押して。かしこみかしこみもうす」
札が光った。どこからともなく羽音がして白い鳥のようなものが飛んでくる。
「ちがう、鳥じゃない。紙だ。本のページだ」
何千、何万という本のページが電車の後ろに群がる。花菜も石化を弱められる白い球を握りしめて電車の後部に手をついた。
「せーのぉ」
ありったけの力をこめるがまったく動かない。鉄の塊なのだから当然。
「もう一回いくよ。せーのぉっ」
今度はもっと力を込める。びくともしない。手がじんじんしてきた。
『みーつーけーたー』
「まずい、きた」
石鬼がすぐそこまで来ている。地面に手をつく度にレールが激しく割れた。もしあの怪力で電車を踏みつぶしたらと思うと……。
(もう無理なの? わたし、助けられない?)
絶望的な気持ちになる。
どんなに努力しても無理なものは無理なのだ。
ちっぽけな力では、だれも助けられない。
(もうだめ……)
ぎゅっと目をつぶったとき、
『あきらめるな、花菜!』
耳元で声がした。ハッとして目を開けるとアキトの姿がある。どうして。
花菜はグラウンドのまんなかで手を叩いた。中腰になって体育館をのぞき込んでいた石鬼がゆっくり振り向く。
三つの目ににらまれて内心ヒヤッとしたけれど花菜は精いっぱい叫んだ。
「アキトくんに会いたいんでしょう。わたしが案内してあげる。ついてきて!」
両手を振って合図してから走り出した。
『まーてー』
ズシン、ズシンと足音が響いてくる。
(待ちません!)
花菜はなるべく後ろを見ないようにしながら必死に走った。手には白い球。そしてポケットには三枚のお札。アキトがくれたものだ。
「――いいか花菜。オレが集めていたこの札は「鬼の手形」といって鬼を退治したときにドロップされるアイテムなんだ。鬼の力をほんのすこしだけ借りられる。これを使って石鬼を裏手の山までおびきだしてくれ、オレは先にいって準備してる。ただし絶対にムチャするなよ」
(わたしにできるかどうかなんて関係ない。やるしかないんだ)
もうすぐ校門にたどり着く、というとき花菜の目の前に石鬼の手が伸びてきた。逃げ道をふさぐつもりだ。
(おねがい、力を貸して)
ポケットから最初の札を引っ張り出す。茶色い根が書かれていた札を挟むように二回手を叩き、アキトから教わった呪文をとなえる。
「一の鬼、石鬼の動きを止めて。かしこみかしこみもうす」
すると札が光りかがやいた。花菜の手をすり抜けて頭上へと舞い上がる。ぼよんっと地面が揺れた。
「きゃっ」
トランポリンの上に立っているときみたいに地面がうねる。花菜はとっさにしゃがみ込んだが、背の大きな石鬼はバランスを崩して派手に尻餅をついた。
(いまだ)
花菜は地面を這いつくばりながら校門を抜ける。すると札の効力がきれたのか波立っていた地面が元に戻った。まだ足元がふわふわしているような気がして気持ち悪い。けれど貴重な時間をムダにしないようにと地面を蹴った。石鬼はなにが起こったのか分からない様子で、まだ立ち上がれない。
咲倉町の中は静まり返っていた。人も車も電車のぜんぶ石になっているのだ。
(石鬼に踏まれたら大変だから、なるべく人がいないところを通らないと)
ふだんなら絶対に怒られるけれどきょうは緊急事態だ。生垣の上を歩いたり、人の家の庭を抜けたりする。閉まっている踏切をくぐりぬけて線路の中に入った。
『まーてー』
「え、もう来たの!?」
足の速い石鬼がもうそこまで来ている。目の前には踏切が開くのを待っている人たちがいる。
(ええい、こうなったら)
花菜は心の中で「ごめんなさい」とあやまってから線路の上を走り出した。絶対にしちゃいけないけれど、こうするしかなかったのだ。鬼は花菜のあとを追って線路の上を走ってくる。
「あっ、トンネル!」
行く手にまっくらなトンネルが口を開いて待ち構えていた。えいっと中に飛び込む。足元は暗いが壁際に埋め込まれた明かりでかろうじて見えた。
『まーてー』
おおきな鬼は狭いトンネルの中で四つん這いになって追いかけてくる。これなら時間稼ぎができる、そう思った花菜だったが正面の明かりに気づいて急ブレーキをかけた。
「電車だ……」
すぐそこがトンネルの外なのに、石になった電車一両が出口をふさぐような形で停まっている。
「どうしよう。このままじゃ石鬼がきて電車をつぶしちゃう。そうしたら中の人たちが」
ここで電車を見捨てたらアキトは悲しむだろう。花菜も悲しい。この町が大好きで、だれも犠牲になってほしくない。
(決めた!)
花菜は二枚目のお札を取り出した。本の形が描かれている。
「二の鬼、電車を押して。かしこみかしこみもうす」
札が光った。どこからともなく羽音がして白い鳥のようなものが飛んでくる。
「ちがう、鳥じゃない。紙だ。本のページだ」
何千、何万という本のページが電車の後ろに群がる。花菜も石化を弱められる白い球を握りしめて電車の後部に手をついた。
「せーのぉ」
ありったけの力をこめるがまったく動かない。鉄の塊なのだから当然。
「もう一回いくよ。せーのぉっ」
今度はもっと力を込める。びくともしない。手がじんじんしてきた。
『みーつーけーたー』
「まずい、きた」
石鬼がすぐそこまで来ている。地面に手をつく度にレールが激しく割れた。もしあの怪力で電車を踏みつぶしたらと思うと……。
(もう無理なの? わたし、助けられない?)
絶望的な気持ちになる。
どんなに努力しても無理なものは無理なのだ。
ちっぽけな力では、だれも助けられない。
(もうだめ……)
ぎゅっと目をつぶったとき、
『あきらめるな、花菜!』
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