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モモクリマチからきた鬼
絶体絶命の大ピンチ
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男の子に追いかけられていたツルが下の階から戻ってきて花菜の肩にちょこんと乗る。
「さっきはありがとう」
頭を撫でるとツルは恥ずかしそうに揺れ、また先ほどのように花菜たちの前を飛びはじめた。
──そのあとも、花菜は何人もの子分と遭遇した。図書室の前では前と後ろから挟まれたときは本当にダメだと思ったし、食堂で後ろから子分の足音が近づいてきたときはゾッとした。職員室では先生の姿をした子分が机の上に立って周りを見ていたし、中庭では鬼の仮面をつけたニワトリが近づいてきてうっかり笑いそうになってしまったけど死んだふりをして誤魔化した。
(アキトくんどこにいるんだろう)
学校の上から下まで、結構な距離を移動している。ツルも時々迷うのか廊下が右と左に分かれているときは悩む様子をみせる。
疲れてきたので、ひと気のない体育館裏の倉庫の前で一息つくことにした。
『どうやらアキトは相当動いているみたいだな。まったく追いつけねぇ』
「でも動いているってことはアキトくん無事なんだよね。良かった」
『……』
赤ニャンは黙っている。不安で心配なのは自分だけではないのだ。花菜はそっと手を伸ばして赤ニャンの体を抱き寄せた。
「でもあんなに大きな鬼どうやったら退治できるんだろう。いままでみたいに呪文をとなえれば消えてくれるのかな」
『あの鬼はめちゃくちゃ強い。だからアキトはこの町に逃げてくるしかなかった。いまのアキトとハナが束になってもダメだろう。石にされて終わりだ』
これまでなんとかピンチを切り抜けてきたけれど、今回はあまりに手強いらしい。
(アキトくんはどうするつもりなんだろう。――あいたいな。早くあいたい)
赤ニャンをぎゅっと抱きしめた。
「いたっ」
突然ツルが鼻にぶつかってきた。
「ちょっともうなに……」
花菜はあわてて口を押さえた。
足下に大きな影がかかっている。
『においするー。どーこーだぁー』
低い声がして、吐息のせいで体がすこし浮く。ツルが飛ばされてしまった。
(どうしよう。まうえに、いる)
どきん。どきん。どきん。
心臓の音がうるさい。いまだけ止まってほしい。
『にーおーいすーるー』
どしーん。
真横に落ちたのは巨大な手のひらだ。大きな指が花菜に向かってくる。
(もうだめ。アキトくんっ……!)
『このやろー!』
腕の中から赤ニャンが飛び出した。鬼の指にがぶりと噛みつく。
「赤ニャン!」
『にゃにゃにゃー!!』
赤ニャンは鬼の人差し指に必死に噛みついている。けれどハエでも追い払うように手を揺らして落とされてしまった。地面に叩きつけられた赤ニャンがうめく。
『じゃーまー』
鬼の額にあった目がきらりと光る。すぐにでも起き上がろうとしていた赤ニャンが動かなくなった。石にされてしまったのだ。
「あ、ああっ……」
石鬼が花菜を見つける。がくがくと足が震えて石みたいに動かない。
──トンッと背中を押される。
アキトが来てくれたのかと思ったが目の前を通り過ぎたのはツルだった。
(ツルさん)
花菜のまわりを旋回したツルは石鬼に向かって飛んでいく。しかし大きな手に払いのけられてしまう。
(そうだ。わたし、アキトくんに会わないと。赤ニャンはそのために助けてくれたんだ)
ここで石にされてしまったら赤ニャンに怒られてしまう。
花菜は震える足で走り出した。ズシン、ズシン、と響く足音から耳をふさぎ、体育館を抜けて廊下を走り抜け、通い慣れた図書室を目指す。ようやくたどり着いて思いきり扉を開けた瞬間、目の前に鬼の仮面をつけた子分が現れた。
「――っ!」
悲鳴を上げる間もなく口をふさがれて中へと引きずり込まれた。
「さっきはありがとう」
頭を撫でるとツルは恥ずかしそうに揺れ、また先ほどのように花菜たちの前を飛びはじめた。
──そのあとも、花菜は何人もの子分と遭遇した。図書室の前では前と後ろから挟まれたときは本当にダメだと思ったし、食堂で後ろから子分の足音が近づいてきたときはゾッとした。職員室では先生の姿をした子分が机の上に立って周りを見ていたし、中庭では鬼の仮面をつけたニワトリが近づいてきてうっかり笑いそうになってしまったけど死んだふりをして誤魔化した。
(アキトくんどこにいるんだろう)
学校の上から下まで、結構な距離を移動している。ツルも時々迷うのか廊下が右と左に分かれているときは悩む様子をみせる。
疲れてきたので、ひと気のない体育館裏の倉庫の前で一息つくことにした。
『どうやらアキトは相当動いているみたいだな。まったく追いつけねぇ』
「でも動いているってことはアキトくん無事なんだよね。良かった」
『……』
赤ニャンは黙っている。不安で心配なのは自分だけではないのだ。花菜はそっと手を伸ばして赤ニャンの体を抱き寄せた。
「でもあんなに大きな鬼どうやったら退治できるんだろう。いままでみたいに呪文をとなえれば消えてくれるのかな」
『あの鬼はめちゃくちゃ強い。だからアキトはこの町に逃げてくるしかなかった。いまのアキトとハナが束になってもダメだろう。石にされて終わりだ』
これまでなんとかピンチを切り抜けてきたけれど、今回はあまりに手強いらしい。
(アキトくんはどうするつもりなんだろう。――あいたいな。早くあいたい)
赤ニャンをぎゅっと抱きしめた。
「いたっ」
突然ツルが鼻にぶつかってきた。
「ちょっともうなに……」
花菜はあわてて口を押さえた。
足下に大きな影がかかっている。
『においするー。どーこーだぁー』
低い声がして、吐息のせいで体がすこし浮く。ツルが飛ばされてしまった。
(どうしよう。まうえに、いる)
どきん。どきん。どきん。
心臓の音がうるさい。いまだけ止まってほしい。
『にーおーいすーるー』
どしーん。
真横に落ちたのは巨大な手のひらだ。大きな指が花菜に向かってくる。
(もうだめ。アキトくんっ……!)
『このやろー!』
腕の中から赤ニャンが飛び出した。鬼の指にがぶりと噛みつく。
「赤ニャン!」
『にゃにゃにゃー!!』
赤ニャンは鬼の人差し指に必死に噛みついている。けれどハエでも追い払うように手を揺らして落とされてしまった。地面に叩きつけられた赤ニャンがうめく。
『じゃーまー』
鬼の額にあった目がきらりと光る。すぐにでも起き上がろうとしていた赤ニャンが動かなくなった。石にされてしまったのだ。
「あ、ああっ……」
石鬼が花菜を見つける。がくがくと足が震えて石みたいに動かない。
──トンッと背中を押される。
アキトが来てくれたのかと思ったが目の前を通り過ぎたのはツルだった。
(ツルさん)
花菜のまわりを旋回したツルは石鬼に向かって飛んでいく。しかし大きな手に払いのけられてしまう。
(そうだ。わたし、アキトくんに会わないと。赤ニャンはそのために助けてくれたんだ)
ここで石にされてしまったら赤ニャンに怒られてしまう。
花菜は震える足で走り出した。ズシン、ズシン、と響く足音から耳をふさぎ、体育館を抜けて廊下を走り抜け、通い慣れた図書室を目指す。ようやくたどり着いて思いきり扉を開けた瞬間、目の前に鬼の仮面をつけた子分が現れた。
「――っ!」
悲鳴を上げる間もなく口をふさがれて中へと引きずり込まれた。
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