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モモクリマチからきた鬼
大きな穴
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朝。花菜はまた寝坊してしまった。
「もーなんで起こしてくれなかったのお母さんっ」
悲鳴をあげながら服をきがえてリビングへと走っていく。するとお兄ちゃんがいつになく真剣な目でテレビを見ていた。けれど、ちぎったパンをどんどん口にいれる花菜を見ていつものように笑う。
「母さんは地区の集まり。声かけたのに起きなかった花菜が悪いんだぞ」
「うぐ、おにいひゃんのぱか」
口の中がパンでいっぱいなのでうまく喋れない。
時間がないので牛乳をぐぃっと飲み干して朝ごはんはおしまい。洗面台でぼさぼさの髪の毛を丁寧にとかしていると後ろからお兄ちゃんが顔をだした。
「なんだなんだオシャレして。好きな男でもいるのか?」
「ち、ちがうもん。寝ぐせがついていただけだもん」
「ウソが下手だな。鼻の穴ふくらんでるぞ」
「えっ」
ぱっと鼻に手をやるとお兄ちゃんが腹を抱えてゲラゲラと笑った。
「いまどきバカ正直に引っかかるやついるんだな」
「ん、もう、うるさい。どっかいって!」
犬を追い払うようにシッシッと手を振ると「はいはい」と背中を向けた。
「道路のあちこちに落とし穴が空いているってニュースでいってたぞ。気をつけろよー」
落とし穴なんかに引っかかるほど子どもじゃないもん。そう言い返そうと後ろを見たときにはお兄ちゃんはいなくなっていた。なんだかくやしい。
大急ぎで支度をして家を飛び出すと、あちらこちらに「立入禁止」の黄色い看板が立っていた。通りすがりの大人たちが集まって困り顔で話をしている。
「道路の陥没ですって」
「このあいだ直したばかりじゃない」
「数メートルおきに空いてて、ヘリからだと巨大な足跡みたいに見えるらしいわ」
巨大な足跡。そう聞こえて花菜もすこし興味がわいた。近くにあった看板の前にいってつま先立ちで中をのぞき込む。
平らなはずの道路が一部分だけ沈んでいた。やわらかい土を指でぎゅっと押した跡みたいだ。気づかずに走っていた車の前が落ちてしまったらしく、後ろのトランクがぼこっと凹んでいた。
「信じてくれ! 俺は見たんだ! 運転しているときこの目ではっきりと見た!」
そう叫んでいるのはぺしゃんこになった車の持ち主だ。
「こーんなでっかいバケモノが俺の車を踏みつぶしたんだ。本当だぞ! あれは鬼だ。毛むくじゃらの大きな体にするどい牙、そして二本の角。あいつはまるで……そう、探し物でもするようにキョロキョロと周りを見ながら歩いていたんだ。あいつにとってはおれの車なんてアリを踏んだ程度でしかなかったんだ。絶対そうだ。しんじてくれっ!」
まわりの大人たちはクスクスと笑う。けれど花菜にはその人がウソを言っているようには見えなかった。花菜も鬼に会ったことがあるからだ。
(アキトくんに知らせないと)
ぎゅっと唇をかんで走り出した。
小学校の校門が見えたところで急ブレーキをかける。
「アキトくん」
正面玄関の前に植えられた花壇を見ている。そこにも大きな凹みがあって、せっかくのチューリップが台無しになっていた。アキトは思いつめた顔で足元を見ている。すぐ近くにいる赤ニャンが近づいてきた花菜に向けてしっぽを振った。
『おまえもみたか、でっけぇ足跡』
「おはよう。うん見たよ。やっぱり鬼の仕業なのかなぁ」
「――あいつだ」
ぽつりとつぶやいたアキトの顔は真っ青だ。
「アキトくん大丈夫? 具合が悪いの?」
心配になって熱をはかると鉄板みたいに熱かった。
「あいつが来たんだ……。オレを追って来たんだ!」
今まで見たことがないくらい怖がっているアキト。その体がふらりと揺れて花菜に寄りかかってきた。
「アキトくんどうしたの、しっかりして!」
周りに生徒たちが集まってくる。阿部先生が転がるように駆けてきてアキトを保健室に運ぶというので花菜も迷うことなくついていった。
「もーなんで起こしてくれなかったのお母さんっ」
悲鳴をあげながら服をきがえてリビングへと走っていく。するとお兄ちゃんがいつになく真剣な目でテレビを見ていた。けれど、ちぎったパンをどんどん口にいれる花菜を見ていつものように笑う。
「母さんは地区の集まり。声かけたのに起きなかった花菜が悪いんだぞ」
「うぐ、おにいひゃんのぱか」
口の中がパンでいっぱいなのでうまく喋れない。
時間がないので牛乳をぐぃっと飲み干して朝ごはんはおしまい。洗面台でぼさぼさの髪の毛を丁寧にとかしていると後ろからお兄ちゃんが顔をだした。
「なんだなんだオシャレして。好きな男でもいるのか?」
「ち、ちがうもん。寝ぐせがついていただけだもん」
「ウソが下手だな。鼻の穴ふくらんでるぞ」
「えっ」
ぱっと鼻に手をやるとお兄ちゃんが腹を抱えてゲラゲラと笑った。
「いまどきバカ正直に引っかかるやついるんだな」
「ん、もう、うるさい。どっかいって!」
犬を追い払うようにシッシッと手を振ると「はいはい」と背中を向けた。
「道路のあちこちに落とし穴が空いているってニュースでいってたぞ。気をつけろよー」
落とし穴なんかに引っかかるほど子どもじゃないもん。そう言い返そうと後ろを見たときにはお兄ちゃんはいなくなっていた。なんだかくやしい。
大急ぎで支度をして家を飛び出すと、あちらこちらに「立入禁止」の黄色い看板が立っていた。通りすがりの大人たちが集まって困り顔で話をしている。
「道路の陥没ですって」
「このあいだ直したばかりじゃない」
「数メートルおきに空いてて、ヘリからだと巨大な足跡みたいに見えるらしいわ」
巨大な足跡。そう聞こえて花菜もすこし興味がわいた。近くにあった看板の前にいってつま先立ちで中をのぞき込む。
平らなはずの道路が一部分だけ沈んでいた。やわらかい土を指でぎゅっと押した跡みたいだ。気づかずに走っていた車の前が落ちてしまったらしく、後ろのトランクがぼこっと凹んでいた。
「信じてくれ! 俺は見たんだ! 運転しているときこの目ではっきりと見た!」
そう叫んでいるのはぺしゃんこになった車の持ち主だ。
「こーんなでっかいバケモノが俺の車を踏みつぶしたんだ。本当だぞ! あれは鬼だ。毛むくじゃらの大きな体にするどい牙、そして二本の角。あいつはまるで……そう、探し物でもするようにキョロキョロと周りを見ながら歩いていたんだ。あいつにとってはおれの車なんてアリを踏んだ程度でしかなかったんだ。絶対そうだ。しんじてくれっ!」
まわりの大人たちはクスクスと笑う。けれど花菜にはその人がウソを言っているようには見えなかった。花菜も鬼に会ったことがあるからだ。
(アキトくんに知らせないと)
ぎゅっと唇をかんで走り出した。
小学校の校門が見えたところで急ブレーキをかける。
「アキトくん」
正面玄関の前に植えられた花壇を見ている。そこにも大きな凹みがあって、せっかくのチューリップが台無しになっていた。アキトは思いつめた顔で足元を見ている。すぐ近くにいる赤ニャンが近づいてきた花菜に向けてしっぽを振った。
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「おはよう。うん見たよ。やっぱり鬼の仕業なのかなぁ」
「――あいつだ」
ぽつりとつぶやいたアキトの顔は真っ青だ。
「アキトくん大丈夫? 具合が悪いの?」
心配になって熱をはかると鉄板みたいに熱かった。
「あいつが来たんだ……。オレを追って来たんだ!」
今まで見たことがないくらい怖がっているアキト。その体がふらりと揺れて花菜に寄りかかってきた。
「アキトくんどうしたの、しっかりして!」
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