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ふわふわ飛んじゃう!
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ひと気のない公園の木の下に粉々になった卵の殻を見つけた花菜は泣きそうになった。やはりあの夢は過去にあった出来事なのだ。
「成長して空を飛ぶことをずっと楽しみにしていたのに蛇に食べられて死んじゃったみたいなの。どうにかできないかな」
アキトはしばらく考えこんでいたが「うん」とうなずいて割れた卵に両手をかざした。
「成功するか分からないけど祝詞をあげてみる」
「のりと?」
「うん。鬼になってしまった鳥たちの魂を浄化してやれば、次に生まれ変わったときは思いきり空を飛び回れるかもしれない」
「うん、おねがい。わたしも手伝える?」
「いや。神聖な祓詞(はらえことば)一字一句正確に言わなくちゃいけないから見ているだけでいい。いくぞ――高天原(たかあまのはら)に神留坐(かむづまりま)す 神漏岐神漏美(かむぎかむろみ)の 命以(みことも)ちて……」
目を閉じているアキトの手のひらから優しい光があふれた。卵たちを包んでシャボン玉みたいにはじける。
『――あぁ、あったかい。おひさまみたいだ』
花菜の頭の中で声がした。
アキトは目を開き、山の端に現れた太陽を指さす。
「みえるだろ。あれが太陽だ。あそこに向かって飛んでいけばいい」
すると足元にまばゆい光が広がった。光の渦の中から一羽また一羽と鳥たちが飛び立っていく。
最後の一羽は「さよなら」とあいさつでもするように花菜の頭の上で一周してから空にのぼっていく。小さな翼を必死に動かして宙をかいて。
「さようなら。元気でね」
一所懸命手をふった。最後の一羽が太陽ににじんで見えなくなるまで。
「――いっちゃった」
青い空のどこにも鳥たちの群れはない。かわりにひらひらと降ってきたのは白い札だ。アキトはジャンプしてそれをキャッチする。花菜はふしぎに思って問いかけた。
「それなに? この前も同じようなもの拾っていたよね」
「あぁこれは鬼退治をしたときの強力なドロップアイテムなんだ。そのうち役に立つ」
アキトは丁寧にたたんでポケットに入れると花菜を促した。
「よし帰るぞ。オレたちがいないと帰ってきたばあちゃんが大騒ぎするかもしれない」
「あ、そうだね。着替えて学校に行かないと」
「急ぐぞ。ほらよ」
アキトが手を伸ばしてきた。花菜はちいさく息をのんで固まる。
「はやくしろよ、はずかしいだろ」
アキトが急かすので、ゆっくりと手を重ねる。まるでお姫さまにでもなった気分だ。
「よし、いくぞ。ころぶなよ」
ぎゅうっと手を握って走り出したアキト。
花菜は置いて行かれないよう前へ前へと足を出す。太陽に向かって走っていくアキトの背中はなんだかとても広くて、花菜の手も胸もぽかぽかと暖かい。
(へんなの。アキトくんがいると怖いものも怖くない。胸の奥がずっとドキドキしている。――わたし、もしかして、好き……なのかな。アキトくんのこと)
「成長して空を飛ぶことをずっと楽しみにしていたのに蛇に食べられて死んじゃったみたいなの。どうにかできないかな」
アキトはしばらく考えこんでいたが「うん」とうなずいて割れた卵に両手をかざした。
「成功するか分からないけど祝詞をあげてみる」
「のりと?」
「うん。鬼になってしまった鳥たちの魂を浄化してやれば、次に生まれ変わったときは思いきり空を飛び回れるかもしれない」
「うん、おねがい。わたしも手伝える?」
「いや。神聖な祓詞(はらえことば)一字一句正確に言わなくちゃいけないから見ているだけでいい。いくぞ――高天原(たかあまのはら)に神留坐(かむづまりま)す 神漏岐神漏美(かむぎかむろみ)の 命以(みことも)ちて……」
目を閉じているアキトの手のひらから優しい光があふれた。卵たちを包んでシャボン玉みたいにはじける。
『――あぁ、あったかい。おひさまみたいだ』
花菜の頭の中で声がした。
アキトは目を開き、山の端に現れた太陽を指さす。
「みえるだろ。あれが太陽だ。あそこに向かって飛んでいけばいい」
すると足元にまばゆい光が広がった。光の渦の中から一羽また一羽と鳥たちが飛び立っていく。
最後の一羽は「さよなら」とあいさつでもするように花菜の頭の上で一周してから空にのぼっていく。小さな翼を必死に動かして宙をかいて。
「さようなら。元気でね」
一所懸命手をふった。最後の一羽が太陽ににじんで見えなくなるまで。
「――いっちゃった」
青い空のどこにも鳥たちの群れはない。かわりにひらひらと降ってきたのは白い札だ。アキトはジャンプしてそれをキャッチする。花菜はふしぎに思って問いかけた。
「それなに? この前も同じようなもの拾っていたよね」
「あぁこれは鬼退治をしたときの強力なドロップアイテムなんだ。そのうち役に立つ」
アキトは丁寧にたたんでポケットに入れると花菜を促した。
「よし帰るぞ。オレたちがいないと帰ってきたばあちゃんが大騒ぎするかもしれない」
「あ、そうだね。着替えて学校に行かないと」
「急ぐぞ。ほらよ」
アキトが手を伸ばしてきた。花菜はちいさく息をのんで固まる。
「はやくしろよ、はずかしいだろ」
アキトが急かすので、ゆっくりと手を重ねる。まるでお姫さまにでもなった気分だ。
「よし、いくぞ。ころぶなよ」
ぎゅうっと手を握って走り出したアキト。
花菜は置いて行かれないよう前へ前へと足を出す。太陽に向かって走っていくアキトの背中はなんだかとても広くて、花菜の手も胸もぽかぽかと暖かい。
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