上 下
20 / 37
ふわふわ飛んじゃう!

空へ

しおりを挟む
 ひと気のない公園の木の下に粉々になった卵の殻を見つけた花菜は泣きそうになった。やはりあの夢は過去にあった出来事なのだ。

「成長して空を飛ぶことをずっと楽しみにしていたのに蛇に食べられて死んじゃったみたいなの。どうにかできないかな」

 アキトはしばらく考えこんでいたが「うん」とうなずいて割れた卵に両手をかざした。

「成功するか分からないけど祝詞のりとをあげてみる」

「のりと?」

「うん。鬼になってしまった鳥たちの魂を浄化してやれば、次に生まれ変わったときは思いきり空を飛び回れるかもしれない」

「うん、おねがい。わたしも手伝える?」

「いや。神聖な祓詞(はらえことば)一字一句正確に言わなくちゃいけないから見ているだけでいい。いくぞ――高天原(たかあまのはら)に神留坐(かむづまりま)す 神漏岐神漏美(かむぎかむろみ)の 命以(みことも)ちて……」

 目を閉じているアキトの手のひらから優しい光があふれた。卵たちを包んでシャボン玉みたいにはじける。


『――あぁ、あったかい。おひさまみたいだ』


 花菜の頭の中で声がした。
 アキトは目を開き、山の端に現れた太陽を指さす。

「みえるだろ。あれが太陽だ。あそこに向かって飛んでいけばいい」

 すると足元にまばゆい光が広がった。光の渦の中から一羽また一羽と鳥たちが飛び立っていく。

 最後の一羽は「さよなら」とあいさつでもするように花菜の頭の上で一周してから空にのぼっていく。小さな翼を必死に動かして宙をかいて。

「さようなら。元気でね」

 一所懸命手をふった。最後の一羽が太陽ににじんで見えなくなるまで。



「――いっちゃった」

 青い空のどこにも鳥たちの群れはない。かわりにひらひらと降ってきたのは白い札だ。アキトはジャンプしてそれをキャッチする。花菜はふしぎに思って問いかけた。

「それなに? この前も同じようなもの拾っていたよね」

「あぁこれは鬼退治をしたときの強力なドロップアイテムなんだ。そのうち役に立つ」

 アキトは丁寧にたたんでポケットに入れると花菜を促した。

「よし帰るぞ。オレたちがいないと帰ってきたばあちゃんが大騒ぎするかもしれない」

「あ、そうだね。着替えて学校に行かないと」

「急ぐぞ。ほらよ」

 アキトが手を伸ばしてきた。花菜はちいさく息をのんで固まる。

「はやくしろよ、はずかしいだろ」

 アキトが急かすので、ゆっくりと手を重ねる。まるでお姫さまにでもなった気分だ。

「よし、いくぞ。ころぶなよ」

 ぎゅうっと手を握って走り出したアキト。
 花菜は置いて行かれないよう前へ前へと足を出す。太陽に向かって走っていくアキトの背中はなんだかとても広くて、花菜の手も胸もぽかぽかと暖かい。


(へんなの。アキトくんがいると怖いものも怖くない。胸の奥がずっとドキドキしている。――わたし、もしかして、好き……なのかな。アキトくんのこと)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

【童話】宿替えヤドカリ

ハチママ
児童書・童話
ヤドカリはね 宿(やど)を借りてるんじゃないんだよ 宿を替えてるんだ ヤドカエが正しいのかもね

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

おちゅうしゃ

月尊優
児童書・童話
おちゅうしゃは痛(いた)い? おさない人はおちゅうしゃがこわかったと思(おも)います。 大人のひとは痛くないのかな? ふしぎでした。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

魔法が使えない女の子

咲間 咲良
児童書・童話
カナリア島に住む九歳の女の子エマは、自分だけ魔法が使えないことを悩んでいた。 友だちのエドガーにからかわれてつい「明日魔法を見せる」と約束してしまったエマは、大魔法使いの祖母マリアのお使いで魔法が書かれた本を返しに行く。 貸本屋ティンカーベル書房の書庫で出会ったのは、エマそっくりの顔と同じエメラルドの瞳をもつ男の子、アレン。冷たい態度に反発するが、上から降ってきた本に飲み込まれてしまう。

紙芝居屋

紫 李鳥
児童書・童話
紙芝居屋は夕日と共にやって来ます。

母から娘へ

はなこ
児童書・童話
最愛なる娘に 贈るつもり。 出産を夫にわかってもらうより。 この素晴らしさ 我が子に伝えたい。 出産が痛い訳ない そう言わなければ いたわってもらえない。 それは、母子の危機だから。 痛いだけだったら? 出産は、何かの罪? おんなと子 その子というのは、 後に、男にもなる訳で。 それは、みんなの秘密。 こんなに衝撃的に 逝くことは 出産以外ないもの。 医学がこれだけ発達した現代でも おんなは、普通に 命がけで挑む。 絶対に引き返せない。 子と自分。 どちらかたとえ無くなったとしても 産む。

処理中です...