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ふわふわ飛んじゃう!
モモクリマチの話
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「花菜ちゃん早くー」
「待ってよぉー」
さみしがり屋の本と友だちになってから二週間。花菜は友美とかけっこしながら学校に向かっていた。
道路から公園に飛び込んで近道する。
「わぁ、みてみて」
何百本という桜の木が立ち並ぶメインストリートを走っていた友美があるものを見つけて足を止めた。
「桜の花びらてんこもり。ぜーんぶ散っちゃったねぇー」
お気に入りのスニーカーでピンク色の山を蹴ると一斉に花びらが舞い上がった。
「ほんとうだ、昨日の雨で落ちちゃったのかな」
花菜はひざをついて花びらを何枚か拾い上げた。
淡いピンクは最近結婚した近所のお姉さんのウエディングドレスを思い出す。胸元から裾にかけての桜色のグラデーションが白い肌に似合っててキレイだった。
(いつかわたしも、あんなふうにきれいなドレスを着てみたいな。花びらが舞う中で大好きな人と腕を組んで)
ポッと頭の中に浮かんだのはアキトだった。
(──な、そんなわけない。だってアキトくん口も目つきも悪いし、全然好きなタイプじゃないもん。そりゃあ、わたしと友美ちゃんを助けてくれたけど)
なんだか胸がじくじくと痛い。
もやもやした気持ちになっていると友美に腕を引っ張られた。
「みてみて、あそこにいるの黒住くんだよ」
「えぇっ!」
なんでこんなタイミングで。
前方を見ると赤ニャンをつれたアキトが歩いていた。足元でくるくると踊る花びらをよけながらゆっくり進んでいる。花菜たちに気づく様子はない。
「そういえばうちのジーチャンが言ってたけど黒住くんって町外れのお屋敷におばあさんとふたりで住んでるんだって。すっごく古くて『お化け屋敷』って言われてるところ」
「そうなの? お父さんやお母さんは?」
「知らない。ジーチャン『モモクリマチはいま大変だからなぁ』ってお茶すすりながら言ってたよ。重い病気が流行っててフーサ?……町に出たり入ったりできないんだって」
それが本当なら、アキトは家族とはなれて咲倉町にやってきたらしい。だとしたら本当はとってもさみしいのではないか。花菜なら毎晩泣いてしまう。
「ねぇ声かけてみよっか。一緒に学校いこって」
「えっ、でも迷惑じゃ」
ためらう花菜の手を握って友美が走り出した。
「おーい黒住くーん」
そのときゴォッと強い風がふたりを襲った。
あまりの強さに体が浮かび上がりそうになる。
『とびたい』
(なに? だれの声?)
花菜は目を瞬かせる。
『いきたい。あのそら。でも、こわい』
ぐるぐると声が渦巻く。聞いたことのない声だ。
「花菜ちゃんつかまって!」
手首を掴んで引っ張られた。あっと思ったときには風はやんでいて、髪の毛がぼさぼさになっていた。
「だいじょーぶ? なんかポカーンとしていたけど」
「うん、へいき。ねぇ友美ちゃんも聞こえた?」
「なにが?」
「声。とびたいって言ってた」
友美は「ぜんぜん?」と首をひねる。
「それより黒住くん先にいっちゃったみたいだね」
アキトの姿はすでになく、舞い上がった花びらが日の光を反射させながら降りそそいでいるだけだった。
「待ってよぉー」
さみしがり屋の本と友だちになってから二週間。花菜は友美とかけっこしながら学校に向かっていた。
道路から公園に飛び込んで近道する。
「わぁ、みてみて」
何百本という桜の木が立ち並ぶメインストリートを走っていた友美があるものを見つけて足を止めた。
「桜の花びらてんこもり。ぜーんぶ散っちゃったねぇー」
お気に入りのスニーカーでピンク色の山を蹴ると一斉に花びらが舞い上がった。
「ほんとうだ、昨日の雨で落ちちゃったのかな」
花菜はひざをついて花びらを何枚か拾い上げた。
淡いピンクは最近結婚した近所のお姉さんのウエディングドレスを思い出す。胸元から裾にかけての桜色のグラデーションが白い肌に似合っててキレイだった。
(いつかわたしも、あんなふうにきれいなドレスを着てみたいな。花びらが舞う中で大好きな人と腕を組んで)
ポッと頭の中に浮かんだのはアキトだった。
(──な、そんなわけない。だってアキトくん口も目つきも悪いし、全然好きなタイプじゃないもん。そりゃあ、わたしと友美ちゃんを助けてくれたけど)
なんだか胸がじくじくと痛い。
もやもやした気持ちになっていると友美に腕を引っ張られた。
「みてみて、あそこにいるの黒住くんだよ」
「えぇっ!」
なんでこんなタイミングで。
前方を見ると赤ニャンをつれたアキトが歩いていた。足元でくるくると踊る花びらをよけながらゆっくり進んでいる。花菜たちに気づく様子はない。
「そういえばうちのジーチャンが言ってたけど黒住くんって町外れのお屋敷におばあさんとふたりで住んでるんだって。すっごく古くて『お化け屋敷』って言われてるところ」
「そうなの? お父さんやお母さんは?」
「知らない。ジーチャン『モモクリマチはいま大変だからなぁ』ってお茶すすりながら言ってたよ。重い病気が流行っててフーサ?……町に出たり入ったりできないんだって」
それが本当なら、アキトは家族とはなれて咲倉町にやってきたらしい。だとしたら本当はとってもさみしいのではないか。花菜なら毎晩泣いてしまう。
「ねぇ声かけてみよっか。一緒に学校いこって」
「えっ、でも迷惑じゃ」
ためらう花菜の手を握って友美が走り出した。
「おーい黒住くーん」
そのときゴォッと強い風がふたりを襲った。
あまりの強さに体が浮かび上がりそうになる。
『とびたい』
(なに? だれの声?)
花菜は目を瞬かせる。
『いきたい。あのそら。でも、こわい』
ぐるぐると声が渦巻く。聞いたことのない声だ。
「花菜ちゃんつかまって!」
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「だいじょーぶ? なんかポカーンとしていたけど」
「うん、へいき。ねぇ友美ちゃんも聞こえた?」
「なにが?」
「声。とびたいって言ってた」
友美は「ぜんぜん?」と首をひねる。
「それより黒住くん先にいっちゃったみたいだね」
アキトの姿はすでになく、舞い上がった花びらが日の光を反射させながら降りそそいでいるだけだった。
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