上 下
13 / 37
さみしがりやの本

友だちになろう

しおりを挟む
 放課後、花菜はふたたび図書室へ向かった。

「こんにちはー」

 司書の先生に挨拶してから奥の棚へ向かうと、あれほど見つからなかった黒い本があっさりと見つかった。

 花菜は表の札がきちんと貼られていることを確認してからそっとページをめくる。カビのむわっとしたにおいが鼻についた。

 端っこが黄ばんだ古めかしい紙には昔こどもたちの間で流行った遊びが描かれていた。
 缶蹴り、コマ回し、メンコや縄跳び、まだゲームもパソコンもなかったころに花菜と同じくらいの子どもたちが夢中になった遊び。

 次から次へとページをめくっていると突然声がした。

「そんなもの見てどうするんだ」

「また本がしゃべった!」

 びっくりして後ずさりすると、

「ちがう。こっちだ」

 本棚の向こうからアキトが顔を出していた。

「なぁんだ。また鬼が出たのかと思った」

「んなわけないだろ。邪気をはらったからそれはもうただの本だ。いまさらなんの用がある?」

「うん、わたしこの本と『友だちになる』ことにしたの。今回のことでよくわかった。本だってひとりぼっちは寂しいんだよ。だから」

「……そうかよ。ほんっとうにお人好しだな」

 アキトは呆れたように息を吐く。するとアキトの肩から赤ニャンが顔を出して『これでも褒め言葉なんだぜ』と笑った。

「だ・ま・れ」

『にゃーん……っ』

 乱暴に払いのけられた赤ニャンが滑り台のように背中へ落ちていく。

 そのとに図書室の扉がガラッと開く音がした。

「花菜ちゃーん、帰ろー」

 友美だ。
 顔を出すとぶんぶんと手を振っている。

「うん、ちょっと待ってて」とうなずいて本を抱きしめた。

「アキトくんありがとう。またね。──先生、この本借りたいです!」

 貸し出しコーナーへ走って行く。
 さみしい本の最初の友だちになるために。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...