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さみしがりやの本
犯人さがし
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「もーなんで目覚まし時計止まっちゃったのー」
寝坊してしまった花菜はお母さんが用意してくれたおにぎりを牛乳で流し込み、ぼさぼさの髪をなでながら家を飛び出した。
走りながら髪をシュシュで結ぶ。
(早起きして下駄箱でアキトくんを待とうと思ったのに。これも悪霊のせいなの?)
なんとかチャイムが鳴る前に到着した。ギリギリセーフだ。けれど、こうなるとアキトに話しかけるには休憩時間まで待たなくてはいけない。
こんなはずじゃなかったのに、とがっかりしながら五年一組の教室に入った。
「おはよー……あれ、どうしたの?」
変な雰囲気だった。いつもと違う。窓の方にクラスのみんなが集まって床のあたりを見ている。何があったのかと不思議に思い、近くにいた女の子に声をかけた。
「どうしたの?」
女の子は青ざめた顔で首を振る。
(あっメダカが……)
床の上には粉々に砕けたガラスが飛び散っていた。水たまりのような跡もある。
十匹ほどいたメダカはぜんぶ床の上に散らばって動かない。三年生のころに卵をもらい、クラスのみんなで大切に育ててきたメダカたちだが無惨に死んでいる。中には尻尾がちぎれたり、頭がなかったりするメダカもいる。
「なんで……こんなこと」
「分かんない。今朝きたらメダカの水槽がこうなってたの。いま先生呼びにいってる。ひどいよね」
水槽ごと床に落とすなんて、だれがこんなひどいことをしたのだろう。
教室の中は大騒ぎ。
「きのう最後に帰ったのだれ」
「知らない」
「猫が入り込んだんだよ」
「猫が水槽動かせる?」
悲しいのはみんなも同じで、生徒たちは自然と犯人探しをはじめた。
「あたし最後に帰った子知ってるー」
手を挙げた女の子がいる。友美だ。
みんな口を閉じて友美に注目した。花菜も同じだ。
注目されるのが嬉しいのか友美はぐるっと教室の中を見まわす。
「どーしよっ、言っちゃっていいかな」
もったいぶるのでみんなちょっとムッとした。
「いいからはやく」
「もしかして友美ちゃんが犯人?」
などと責められた友美は両手をあげてお手上げのポーズ。
「ちがうちがう。みんな落ち着いて」
友美は人差し指を立ててひとりひとりの顔を示していく。最後に止まったのは。
「犯人は……花菜ちゃん」
「…………え?」
心臓が飛び出しそうになった。
友美とはケンカ中だけれどまさか犯人にされるなんて。
「──ちがうよ! わたし知らない。水槽ひっくり返してなんか」
必死に首を振る。
しかし友美はにこにこ笑いながら花菜のランドセルを指さした。
「あたしきのう忘れものして取りに戻ったんだ。そのときまだランドセルがあったよ。最後まで残ってた人があやしいに決まってる」
思わず「それは……」と口ごもった。
「ほら決まりじゃん!」
友美が手を叩く。すると別の子が間に入ってきた。
「待って、それだけじゃ犯人とは言えないよ。ねぇ花菜ちゃんが帰るとき水槽はどうなってた?」
「分かんない……。調べたいことがあって急いでいたから見てなかった。でもわたしじゃない」
周りのみんなが怖い顔で見ている。
「ちがう。わたし、なにもしてない。なんで信じてくれないの」
手足がぶるぶると震えた。みんな自分がメダカを死なせたと思っている。
友美がさらなる追い打ちをかけてきた。
「証拠は? 花菜ちゃんがやっていないっていう証拠はあるの?」
「証拠なんて──」
──あるはずがない。
絶望的な気持ちになって下を向いたとき、
「オレが証人だ」
「え?」
パッと顔を上げた。
みんなが一斉に振り返る。
花菜は名前を叫びそうになり、慌てて口を押さえた。
(アキトくん……)
寝坊してしまった花菜はお母さんが用意してくれたおにぎりを牛乳で流し込み、ぼさぼさの髪をなでながら家を飛び出した。
走りながら髪をシュシュで結ぶ。
(早起きして下駄箱でアキトくんを待とうと思ったのに。これも悪霊のせいなの?)
なんとかチャイムが鳴る前に到着した。ギリギリセーフだ。けれど、こうなるとアキトに話しかけるには休憩時間まで待たなくてはいけない。
こんなはずじゃなかったのに、とがっかりしながら五年一組の教室に入った。
「おはよー……あれ、どうしたの?」
変な雰囲気だった。いつもと違う。窓の方にクラスのみんなが集まって床のあたりを見ている。何があったのかと不思議に思い、近くにいた女の子に声をかけた。
「どうしたの?」
女の子は青ざめた顔で首を振る。
(あっメダカが……)
床の上には粉々に砕けたガラスが飛び散っていた。水たまりのような跡もある。
十匹ほどいたメダカはぜんぶ床の上に散らばって動かない。三年生のころに卵をもらい、クラスのみんなで大切に育ててきたメダカたちだが無惨に死んでいる。中には尻尾がちぎれたり、頭がなかったりするメダカもいる。
「なんで……こんなこと」
「分かんない。今朝きたらメダカの水槽がこうなってたの。いま先生呼びにいってる。ひどいよね」
水槽ごと床に落とすなんて、だれがこんなひどいことをしたのだろう。
教室の中は大騒ぎ。
「きのう最後に帰ったのだれ」
「知らない」
「猫が入り込んだんだよ」
「猫が水槽動かせる?」
悲しいのはみんなも同じで、生徒たちは自然と犯人探しをはじめた。
「あたし最後に帰った子知ってるー」
手を挙げた女の子がいる。友美だ。
みんな口を閉じて友美に注目した。花菜も同じだ。
注目されるのが嬉しいのか友美はぐるっと教室の中を見まわす。
「どーしよっ、言っちゃっていいかな」
もったいぶるのでみんなちょっとムッとした。
「いいからはやく」
「もしかして友美ちゃんが犯人?」
などと責められた友美は両手をあげてお手上げのポーズ。
「ちがうちがう。みんな落ち着いて」
友美は人差し指を立ててひとりひとりの顔を示していく。最後に止まったのは。
「犯人は……花菜ちゃん」
「…………え?」
心臓が飛び出しそうになった。
友美とはケンカ中だけれどまさか犯人にされるなんて。
「──ちがうよ! わたし知らない。水槽ひっくり返してなんか」
必死に首を振る。
しかし友美はにこにこ笑いながら花菜のランドセルを指さした。
「あたしきのう忘れものして取りに戻ったんだ。そのときまだランドセルがあったよ。最後まで残ってた人があやしいに決まってる」
思わず「それは……」と口ごもった。
「ほら決まりじゃん!」
友美が手を叩く。すると別の子が間に入ってきた。
「待って、それだけじゃ犯人とは言えないよ。ねぇ花菜ちゃんが帰るとき水槽はどうなってた?」
「分かんない……。調べたいことがあって急いでいたから見てなかった。でもわたしじゃない」
周りのみんなが怖い顔で見ている。
「ちがう。わたし、なにもしてない。なんで信じてくれないの」
手足がぶるぶると震えた。みんな自分がメダカを死なせたと思っている。
友美がさらなる追い打ちをかけてきた。
「証拠は? 花菜ちゃんがやっていないっていう証拠はあるの?」
「証拠なんて──」
──あるはずがない。
絶望的な気持ちになって下を向いたとき、
「オレが証人だ」
「え?」
パッと顔を上げた。
みんなが一斉に振り返る。
花菜は名前を叫びそうになり、慌てて口を押さえた。
(アキトくん……)
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