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さみしがりやの本
かんじゅせい?
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「ただいまー」
家に飛び込んだ花菜はスニーカーを放り出してリビングに駆け込んだ。台所にいたお母さんが怖い顔で振り返る。
「こら、いつも物を大切にしなさいって言っているでしょう。きちんと靴をそろえなさい」
いまにも頭から角が生えてきそうだ。「鬼みたい」と思いながらランドセルをおろし、もう一度玄関に戻って靴をそろえた。
「おす。どこのカイジュウが帰ってきたかと思ったぜー」
ソファーでゲームをしていた達樹お兄ちゃんがバカにしてくる。
「カイジュウじゃないもん!」
「んじゃなんだよ。妖怪? おばけ? 床が抜けるかと思ったぜー」
(妖怪? そうだ。お兄ちゃんなら知っているかも!)
花菜は帰ってくるまでの間ずっと考えていた疑問をぶつけることにした。
「ねぇ『かんじゅせい』ってなに?」
「……え?」
お兄ちゃんがぽかんと口を開ける。
「かんじゅせいだよ。かんじゅせい。お兄ちゃん中学生だから知っているでしょう?」
「うっ……」
お兄ちゃんは耳たぶを二、三回さわったあと秘密兵器のスマートフォンを取り出した。『感受性』という漢字が出てくる。
「感受性──外側からの刺激を感じとって心に受けとめる能力……かぁ、ふーむ」
また耳を触っている。考えごとをして困っているときの癖だ。
「つまり……あれだよ」
「あれって?」
「だから、いいヤツってことだよ」
「いいやつ?」
「だれかが困っているのを助けてあげたり、悩んでいるときに相談に乗ってあげたりして相手のことを思いやる子の優しい気持ちを感受性っていうんだよ、きっと」
「んんー?」
頭がこんがらがってきた。だってアキトは「感受性が高いから影響をうける」と言っていたのだ。あの学校にいると優しい子になるのだろうか。まったく分からない。
「じゃあ『おんみょうじ』ってなぁに?」
「おっ、それなら知っているぜ! 平安時代に大活躍したすっげぇ能力者のことだ」
スマートフォンの画面に「陰陽師」と出てくる。とても難しい漢字だ。
「おんみょうじ」は大昔に実在した人たちで、亀の甲羅や星を見て人や国の未来を占っていた人たちらしい。
動画には神主さんが着るような白い狩衣と黒い烏帽子帽をかぶった男の人たちが札を手にして呪文をとなえ、おそろしい鬼や悪霊を退治している。
途中まで観た花菜はおおきく息を吐いた。
知らないことや難しいことをたくさん覚えたせいで頭が痛い。とても疲れた。
台所へいってオレンジジュースを飲むと急に体の奥が熱くなってき。
(アキトくんは『おんみょうじ』で、わたしが封印を解いてしまいそうになった悪いものを閉じこめてくれたの?)
なんだか急にドキドキしてきた。
アキトに触れられた手のひらが熱い。
(いままで男の子と手をつないでもなんとも思わなかったのに、なんでこんなにじんじんするんだろう。虫にでも刺されたのかな)
あしたの朝、話しかけてみようか。
なんて言えばいいだろう。「おはよう」はふつうすぎるし「きのうはありがとう」だとおおげさかな、「おんみょうじってすごいね」いきなりそんなこと言ったらおどろくかな。
「花菜どうしたの? 顔が赤いわよ」
お母さんが心配そうに顔をのぞき込んできた。おでこに手を当てる。
「すこし熱っぽわね。すぐに寝なさい」
「えっ、でもこれから友美ちゃんの家にいかないと」
「だーめ。うつしたら大変でしょう。熱がなければ明日会えるから」
「……はーい」
仕方なく自分の部屋に向かうことにした。
「どうせ知恵熱だろ。難しいこと聞くからだ」
お兄ちゃんがげらげら笑うので思いっきりにらみつけてやった。男の子って最低。
家に飛び込んだ花菜はスニーカーを放り出してリビングに駆け込んだ。台所にいたお母さんが怖い顔で振り返る。
「こら、いつも物を大切にしなさいって言っているでしょう。きちんと靴をそろえなさい」
いまにも頭から角が生えてきそうだ。「鬼みたい」と思いながらランドセルをおろし、もう一度玄関に戻って靴をそろえた。
「おす。どこのカイジュウが帰ってきたかと思ったぜー」
ソファーでゲームをしていた達樹お兄ちゃんがバカにしてくる。
「カイジュウじゃないもん!」
「んじゃなんだよ。妖怪? おばけ? 床が抜けるかと思ったぜー」
(妖怪? そうだ。お兄ちゃんなら知っているかも!)
花菜は帰ってくるまでの間ずっと考えていた疑問をぶつけることにした。
「ねぇ『かんじゅせい』ってなに?」
「……え?」
お兄ちゃんがぽかんと口を開ける。
「かんじゅせいだよ。かんじゅせい。お兄ちゃん中学生だから知っているでしょう?」
「うっ……」
お兄ちゃんは耳たぶを二、三回さわったあと秘密兵器のスマートフォンを取り出した。『感受性』という漢字が出てくる。
「感受性──外側からの刺激を感じとって心に受けとめる能力……かぁ、ふーむ」
また耳を触っている。考えごとをして困っているときの癖だ。
「つまり……あれだよ」
「あれって?」
「だから、いいヤツってことだよ」
「いいやつ?」
「だれかが困っているのを助けてあげたり、悩んでいるときに相談に乗ってあげたりして相手のことを思いやる子の優しい気持ちを感受性っていうんだよ、きっと」
「んんー?」
頭がこんがらがってきた。だってアキトは「感受性が高いから影響をうける」と言っていたのだ。あの学校にいると優しい子になるのだろうか。まったく分からない。
「じゃあ『おんみょうじ』ってなぁに?」
「おっ、それなら知っているぜ! 平安時代に大活躍したすっげぇ能力者のことだ」
スマートフォンの画面に「陰陽師」と出てくる。とても難しい漢字だ。
「おんみょうじ」は大昔に実在した人たちで、亀の甲羅や星を見て人や国の未来を占っていた人たちらしい。
動画には神主さんが着るような白い狩衣と黒い烏帽子帽をかぶった男の人たちが札を手にして呪文をとなえ、おそろしい鬼や悪霊を退治している。
途中まで観た花菜はおおきく息を吐いた。
知らないことや難しいことをたくさん覚えたせいで頭が痛い。とても疲れた。
台所へいってオレンジジュースを飲むと急に体の奥が熱くなってき。
(アキトくんは『おんみょうじ』で、わたしが封印を解いてしまいそうになった悪いものを閉じこめてくれたの?)
なんだか急にドキドキしてきた。
アキトに触れられた手のひらが熱い。
(いままで男の子と手をつないでもなんとも思わなかったのに、なんでこんなにじんじんするんだろう。虫にでも刺されたのかな)
あしたの朝、話しかけてみようか。
なんて言えばいいだろう。「おはよう」はふつうすぎるし「きのうはありがとう」だとおおげさかな、「おんみょうじってすごいね」いきなりそんなこと言ったらおどろくかな。
「花菜どうしたの? 顔が赤いわよ」
お母さんが心配そうに顔をのぞき込んできた。おでこに手を当てる。
「すこし熱っぽわね。すぐに寝なさい」
「えっ、でもこれから友美ちゃんの家にいかないと」
「だーめ。うつしたら大変でしょう。熱がなければ明日会えるから」
「……はーい」
仕方なく自分の部屋に向かうことにした。
「どうせ知恵熱だろ。難しいこと聞くからだ」
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