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さみしがりやの本

友だちがほしい本

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 それでも声は聞こえてくる。
 耳からではなく頭の中でキンキンと響いている。


『ともだちがいないのは、さみしいねぇ。ワタシもずっとひとりぼっち。あぁだれかワタシとともだちになってくれないかなぁ』


 ひとりぼっち。

 「かわいそう」だと思った。そして「自分と同じ」だとも。

「あなたもさみしいの?」

 目線を上げ、おそるおそる周囲を見回す。夕日が差し込む図書室にはだれもいないのに声は一層強く聞こえてくる。


『ああ、さみしいよ。むかしここにとじこめられてからずっとひとり。もうそろそろさくらがきれいにさくころだろう。もういちどだけでもみたいなぁ。ともだちがいっしょにいればもっとうれしい』


(わたしも、そう思うよ)


 花菜はすたすたと歩き出していた。まるで引き寄せられるように奥まで進み、分厚い図鑑がたくさん並んだ棚の前で立ち止まる。

「あなた、どこにいるの」

『てをのばしてごらん。した、もっとみぎだ、いきすぎ、ひだりにもどって。そうだよ。そのほんをとって』

 花菜が手にしたのは『咲倉町の歴史』と書かれた本だ。その奥に一冊の本が横倒しになっている。手前の本をどかさなければ決して気づかなかっただろう。

「こんなところに隠れていたなんて」

 花菜はいくつかの本を抜き出してから奥に倒れていた本を手に取った。

 とても薄い本だ。
 手に取るとかび臭いにおいが鼻につく。

「これがあなた?」

『そうさ、ようやくみつけてくれたんだね。でもまだあとすこし。しろいふだをはいでおくれ』

「この白い札のこと? なにか書いてあるよ。意味があるんじゃないの」

 黒ずんだ表紙には白い札のようなものが貼られているが漢字が難しくて読めない。

 するとそれまで穏やかだった口調が一変した。


『うるさい、はやくしろ。はやく、はやく、はやく、はやくはやくはやくはやく……!!!』


 声はどんどん早く強く激しくなる。

 花菜はだんだん怖くなってきた。
 もしかしたらとんでもないことをしようとしているのではないと。

『ちっ、もたもたするんじゃないよ。こうなったら』

「なに指が勝手に」

 右手がひとりでに動き出して本の表面に貼られた白い札に触れた。しっかりのり付けされていた札を端からカリカリ削っていく。はがれていく。

「まって、なにこれ、なんなの?」

 くくく、と低い笑い声がもれた。
 頭の中じゃない。剥がれはじめた本から直接聞こえる。すぐそこに


『あんしんしな。すぐにアンタをたべてやるからね』


 だまされた、と思ったときにはもう遅い。
 半分以上はがれた札はあとすこし力を込めれば完全にとれてしまう。


(食べちゃうなんて、やだ、こんなの、やだ……)
(たすけて友美ちゃん……!!)


 ぎゅっと目をつぶったそのとき。

「そこまでだ」

 だれかの声がして手の感触が戻ってきた。
 はっと目を開くといままさに札をはごうとしていた手を別の手が押さえつけている。


(黒住くん!)


 アキトだ。鋭い目つきで本をにらんでいる。

「ど、して黒住く……」

「話はあとだ。封印しなおすぞ」

 強い眼差し。
 どきっ、と心臓が鳴った。

「絶対に手をはなすな。いいな」

 口ぶりとは裏腹に重ねられた手はやさしい。
 さっきまでの恐怖がウソみたいに消えていく。

「深呼吸。手のひらに意識を集中しろ」

 アキトは花菜の手をおさえた状態で札をなでていく。元の形に戻そうとしているのだ。

 何度もくりかえす内に手のひらがじわじわと暖かくなってくる。
 汗ばんで熱いくらいだ。自分の手じゃないみたい。

 ほとんど剥がれていた札はまるで逆再生するように貼りついていく。
 声の主が苦しげにうめいた。


『ぐう、うう……きさまァ、おんみょうじのはしくれか、ゆるさん、タダじゃおかない――』


 はがれていた部分がぴたっと貼りついたところで一瞬白く光り、あんなにうるさかった声はまったく聞こえなくなった。
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