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さみしがりやの本

転校生・黒住アキトくん

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 あの男の子に会いたい。その願いはすぐに叶えられることになった。

黒住くろずみアキトくんです。皆さん仲良くしてあげてくださいね」

 一組の担任、阿部先生が紹介した転校生――それこそがあの子だったのだ。

「あぁっ! 今朝の桜の精!」

 思わず立ち上がるとみんなが一斉に注目した。
 阿部先生はおまんじゅうみたいな体を揺らしながら身を乗り出してくる。

「森崎さん、桜の精がどうかしましたか?」

「あ、いえ、なんでもないです……」

 国語の朗読でさえこんなに大声を出したことのないのに。恥ずかしさのあまり泣きたくなった。

「花菜ちゃん、だいじょうぶ?」

 前の席の友美が気を遣ってくれる。

「……ダメかも」

 頭のてっぺんから爪の先まで火傷したみたいに熱い。穴があったら入りたい。

「へいきへいき、みんな気にしてないよ。それより黒住くんカッコイイよね」

 ふだん男の子の顔なんて気にしていない友美が興味をもつのは珍しいことだった。

 たしかに、黒板の前に立っているだけなのにスポットライトを浴びているように目を引く。大きな目がくりっと丸くて、手や足が長い。ステッチの入った黒いシャツに黒いジーパンをあわせているのも大人っぽい。

「じゃあ黒住くんの席は森崎さんのとなり。さっき元気に挨拶してくれた子ですよ」

「はい」

 アキトが近づいてくる。

 恥ずかしさでいっぱいの花菜は自分の上履きを見ていたが、アキトが立ち止まった気配がして顔をあげた。じぃっと自分を見ている。


(なに? どうしてそんなに見るの? 変な子だと思ってる?)


 せっかくまた会えたのにさっきのことがあって目を合わせられない。

 アキトは無言のまま、となりに腰を下ろした。
 横顔もカッコイイ。ぼーっと見つめていると頭上で笑い声がした。


『けっけっけ、モテる男はつらいねぇ』


 え、と思って天井を見ると長いしっぽが垂れ下がっていた。

 なんと赤茶色の猫が重力を無視して逆さまにへばりついているではないか。

「ねっ……猫が逆さづりになってるーっ!」

 花菜が大声で叫んだせいでみんな一斉に天井を見た。

「なに、猫?」
「逆さづり?」

 みんなには見えないらしく、不審そうな目が花菜に集中した。


(どうしよう、また変なこと言っちゃった……)


 さっきに続いての大失態。
 もうこれではただの「おかしな子」ではないか。

「先生、ちょっといいですか」

 さっと手を挙げたのはアキトだった。
 もしかしたら席を変わってくださいと言うのでは、とドキドキしていると天井を指し示した。

「ぼくも天井に猫……みたいなシミが見えるんですけど、もしかしてそういった怪談話がありませんか?」

 阿部先生はもはや骨かお肉か分からない部分を器用に曲げる。

「怪談ですか? いえ、聞いたことはありませんが。どうして?」

「怖い話を聞くのが好きなんです。もし知っていたら教えてください。みんなも──もちろん森崎さんも」

 そう言って笑いかけてくれた。


(もしかして、かばってくれたの?)


 自分がおかしな子だと思われないようにウソまでついて。


(やさしいんだ、黒住くんって)


 天井を見ると猫は消えていた。見間違いだったのかもしれない。

 ほっとして筆箱をとろうとするとシャープペンが転がり落ちてしまった。足元に落ちたところをアキトが拾ってくれる。

「ほら」

「ありが──はぅっ」

 ハッと息を呑んだ。アキトの肩にさっきの猫が乗ってニヤニヤしている。

 驚きのあまり口をぱくぱくさせていると手のひらにシャープペンを押しつけられた。小声でそっと話しかけてくる。

「あんまり手間かけさせるな、ばーか」


(いまなんて!? ばか!?)


 呆然としている間にアキトは前に向き直り、何事もなかったようにツンとすましている。

『けけけ、こいつびっくりして言葉もでないみたいだぞ』

 猫はケタケタと笑っている。

 前言撤回。黒住アキトは性格が悪い。それも、すっごく。
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