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根っこに食べられちゃう!
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(さわってみようかな。なにかがくっついて取れないのかもしれない)
思いきって腕を伸ばしてみた。猫はじぃっと花菜を見ている。おどかさないように、こわがらせないように、慎重に。
花菜の右手の中指が「ツノ」の先にちょびっとふれた。かたい。ツノがある。
『おまえ、見えてるな』
猫の口が動いて声がきこえてきた。
花菜はえっと息を呑む。
「猫がしゃべったぁー!」
びっくりして叫ぶと猫はさーっと走り去ってしまった。
「友美ちゃん聞こえた? あの猫しゃべるよ!」
「猫がニャーって鳴くのは当たり前じゃん」
「ちがうの。人間の言葉を話したの。ふつうの猫じゃないんだよ」
必死に説得するが友美はどんどん笑顔になっていく。
「化け猫? だったらなおさら捕まえないとね!」
いち、に、と膝を折り曲げて準備運動したかと思うと、よぅい、と前かがみになって風のように走っていく。
「え、ちょっ、うわ、土ほこり……う、ごほごほっ」
気がついたときには友美はあっという間に消えていて、花菜はぽつんと取り残されていた。
「まって、友美ちゃんまってよぉ。ひとりにしないで」
ひとりは怖い。
特にここは。
急いで追いかけようとすると、ぐっと下に引っ張られた。なに? と見れば足首に木の根っこが絡みついている。茶色く干からびた細い根だ。
(いつのまに引っかかったんだろう……)
足を振ると根っこはすぐに外れた。
これでよし、と歩き出す。すると今度はさっきより強く引っ張られた。よろめいたせいで膝をついてしまう。
「今度はなに……あっ、まただ」
また根っこが絡みついている。しかもさっきよりきつく。
「なんで、どうして」
土の中からぼこぼこと根っこが出てきた。スニーカーが見えないくらいまでぐるぐる巻きにして、ふくらはぎの方へスルスルとのぼってくる。
「うそ、やだ、やだ、やだ!!」
必死になって足をばたつかせた。でも根っこはどんどん伸びてくる。地面に手をついたらそこからも根っこが伸びてきた。
(たすけて、根っこに食べられちゃう、やだ)
あっという間に腰や肩まで巻き付いてくる。
体中が痛い。前が見えない。息ができない。
死んじゃう!
「たすけて、おねがい、だれかーっ!!!」
声を振り絞って叫んだ。
――そのときだ。
「~~~きゅうきゅうにょりつりょう!」
するどい声がした。
(あっ)
ひらり、と薄紅色のものが鼻先を横切った。桜の花びらだ。一枚、二枚とつづけて降ってくる。
(そうだお母さんが言ってた。公園の奥にはとてもきれいな桜並木があるって。ふつうの桜よりも遅く咲くから『のんびり桜』って呼ばれてるんだって)
あんなに暗かった林はいま花菜の目の前で満開の花びらをつけた桜並木になっている。太陽の光がさんさんと降り注いでとってもキレイだ。
「根っこ……、ない」
体中に巻きついた根っこはどこにもなく、花菜はかわいた土の上に座りこんでいるのだった。
「おい。へいきか」
ふり返ると黒いランドセルを背負った男の子が立っていた。前髪が長くて、目鼻立ちがすっきりしている。知らない子だ。
「え、あの」
「ケガないかって聞いたんだ」
「うん……だいじょぶ」
花菜はこくこくとうなずいた。知らない人を前にすると胸がいっぱいになって声が出てこない。人見知りなのだとお兄ちゃんに笑われたけれど。
立ち上がると彼の背丈は花菜と同じくらいか少し高いくらいだった。
「あ、あの」
どきん、と心臓が鳴った。心臓は血液を送り出す役目をしていると理科で習ったけれどそれとは違うものを流しているみたいだ。だってトクトクと音が聞こえる。
思いきって腕を伸ばしてみた。猫はじぃっと花菜を見ている。おどかさないように、こわがらせないように、慎重に。
花菜の右手の中指が「ツノ」の先にちょびっとふれた。かたい。ツノがある。
『おまえ、見えてるな』
猫の口が動いて声がきこえてきた。
花菜はえっと息を呑む。
「猫がしゃべったぁー!」
びっくりして叫ぶと猫はさーっと走り去ってしまった。
「友美ちゃん聞こえた? あの猫しゃべるよ!」
「猫がニャーって鳴くのは当たり前じゃん」
「ちがうの。人間の言葉を話したの。ふつうの猫じゃないんだよ」
必死に説得するが友美はどんどん笑顔になっていく。
「化け猫? だったらなおさら捕まえないとね!」
いち、に、と膝を折り曲げて準備運動したかと思うと、よぅい、と前かがみになって風のように走っていく。
「え、ちょっ、うわ、土ほこり……う、ごほごほっ」
気がついたときには友美はあっという間に消えていて、花菜はぽつんと取り残されていた。
「まって、友美ちゃんまってよぉ。ひとりにしないで」
ひとりは怖い。
特にここは。
急いで追いかけようとすると、ぐっと下に引っ張られた。なに? と見れば足首に木の根っこが絡みついている。茶色く干からびた細い根だ。
(いつのまに引っかかったんだろう……)
足を振ると根っこはすぐに外れた。
これでよし、と歩き出す。すると今度はさっきより強く引っ張られた。よろめいたせいで膝をついてしまう。
「今度はなに……あっ、まただ」
また根っこが絡みついている。しかもさっきよりきつく。
「なんで、どうして」
土の中からぼこぼこと根っこが出てきた。スニーカーが見えないくらいまでぐるぐる巻きにして、ふくらはぎの方へスルスルとのぼってくる。
「うそ、やだ、やだ、やだ!!」
必死になって足をばたつかせた。でも根っこはどんどん伸びてくる。地面に手をついたらそこからも根っこが伸びてきた。
(たすけて、根っこに食べられちゃう、やだ)
あっという間に腰や肩まで巻き付いてくる。
体中が痛い。前が見えない。息ができない。
死んじゃう!
「たすけて、おねがい、だれかーっ!!!」
声を振り絞って叫んだ。
――そのときだ。
「~~~きゅうきゅうにょりつりょう!」
するどい声がした。
(あっ)
ひらり、と薄紅色のものが鼻先を横切った。桜の花びらだ。一枚、二枚とつづけて降ってくる。
(そうだお母さんが言ってた。公園の奥にはとてもきれいな桜並木があるって。ふつうの桜よりも遅く咲くから『のんびり桜』って呼ばれてるんだって)
あんなに暗かった林はいま花菜の目の前で満開の花びらをつけた桜並木になっている。太陽の光がさんさんと降り注いでとってもキレイだ。
「根っこ……、ない」
体中に巻きついた根っこはどこにもなく、花菜はかわいた土の上に座りこんでいるのだった。
「おい。へいきか」
ふり返ると黒いランドセルを背負った男の子が立っていた。前髪が長くて、目鼻立ちがすっきりしている。知らない子だ。
「え、あの」
「ケガないかって聞いたんだ」
「うん……だいじょぶ」
花菜はこくこくとうなずいた。知らない人を前にすると胸がいっぱいになって声が出てこない。人見知りなのだとお兄ちゃんに笑われたけれど。
立ち上がると彼の背丈は花菜と同じくらいか少し高いくらいだった。
「あ、あの」
どきん、と心臓が鳴った。心臓は血液を送り出す役目をしていると理科で習ったけれどそれとは違うものを流しているみたいだ。だってトクトクと音が聞こえる。
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