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160. いずれ、これもいつも通りになったらいいね
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◇ ◇ ◇
ぱちり、と目が覚めた。
カーテンの隙間からは朝の日差しが差し込んでいて、部屋の中に光の筋を作り出している。
目の前にあったスマホを見てみると、今は朝の七時前。
起床時間は七時半だから、まだもう少し時間があった。
私は完全にはだけてしまった――彼に言わせればそう変わらないだろうけど――浴衣を直して、背中を向けている彼の方を向いた。
「おう、おはよう」
「ひゃあ!?」
私は悲鳴を上げてしまった。
まさか彼が起きているとは思わなかった。
「おっ、お、起きてたの!?」
「ついさっきな。ちょっとゴソゴソしてるのが聞こえて」
「びっくりしたー…あ、おはよう」
まだ挨拶をしていないことに気づいて、私は付け足したように言った。
彼は優しく微笑んで、それから布団の中で私の両手を握った。
意図が見えなくて、私は少し困惑してしまう。
「…ええと」
「無闇に頭を撫でるのは良くないって聞いたことがあったから、手を繋いでみたらいいかなって思ったんだけど…」
「そういうことね」
私としては、好きな人になら何をされてもいいような気すらしているけれど、せっかくなのでその好意に甘えることにした。
人間は手を温められるだけでも安心する生き物だ、という研究があったような気がする。
でも、どうせなら…手だけじゃなくても、いいよね?
私はゴソゴソと身体を動かして、彼に密着した。
浴衣越しでも、体温が伝わってくる。
初夏の気温には少し暑いくらいだけど、不快感は全くない。
もう一度寝落ちてしまいそうな気持ちよさがある。
そんな微睡みに任せて、私は口を開いた。
「ねぇ、総司くん」
「ん?」
「将来もさ…こうやって、一緒にいられたらいいよね。一緒にこうやって目が覚めて、一緒に朝ごはん食べて…」
「…そうだな。まだ未来だけど…そうできたらいいな、と思ってるよ」
思わず綻んでしまった顔をなんとなく見られたくなくて、私は彼の胸に顔をうずめた。
結婚のことを考えるのは早すぎるだろうか?いや、私だってもう結婚できる年齢なのだ。
周りの友達は、付き合っては別れてを繰り返すと言っていた。それは、これくらいの歳なら普通、当たり前な恋愛の形らしい。
でも…結局のところ、私たちは普通ではない。
常識の違う世界から来た彼。セックスができなかった私。結局セックスよりキスが先になった私たち。
これまでが普通から外れていたことばかりだったのだから、これからも普通から外れたことばかりの恋愛でも、別に大丈夫だろう。きっと。
突然、部屋に備え付けられたスピーカーがノイズを発して、聞き慣れた学校のチャイムを鳴らした。
『おはようございます。七時半になりました』
起床時間の放送だ。
旅館に一斉放送のスピーカーが備え付けられているなんて、知らなかった。
非常放送用かもしれない。
「…びっくりした…寝かけてたわ…」
「私もちょっと寝てたかも」
そんな話をしながら、私たちは布団を出た。
「さ、準備しないとね」
「そうだな。遅れたら何を勘ぐられるかわからないしな」
「それに…ちゃんと説明しないと、だからね」
彼の表情が、ちょっとだけ憂鬱そうになった。
でも、まぁ…大丈夫だろう。きっと。
◇ ◇ ◇
ぱちり、と目が覚めた。
カーテンの隙間からは朝の日差しが差し込んでいて、部屋の中に光の筋を作り出している。
目の前にあったスマホを見てみると、今は朝の七時前。
起床時間は七時半だから、まだもう少し時間があった。
私は完全にはだけてしまった――彼に言わせればそう変わらないだろうけど――浴衣を直して、背中を向けている彼の方を向いた。
「おう、おはよう」
「ひゃあ!?」
私は悲鳴を上げてしまった。
まさか彼が起きているとは思わなかった。
「おっ、お、起きてたの!?」
「ついさっきな。ちょっとゴソゴソしてるのが聞こえて」
「びっくりしたー…あ、おはよう」
まだ挨拶をしていないことに気づいて、私は付け足したように言った。
彼は優しく微笑んで、それから布団の中で私の両手を握った。
意図が見えなくて、私は少し困惑してしまう。
「…ええと」
「無闇に頭を撫でるのは良くないって聞いたことがあったから、手を繋いでみたらいいかなって思ったんだけど…」
「そういうことね」
私としては、好きな人になら何をされてもいいような気すらしているけれど、せっかくなのでその好意に甘えることにした。
人間は手を温められるだけでも安心する生き物だ、という研究があったような気がする。
でも、どうせなら…手だけじゃなくても、いいよね?
私はゴソゴソと身体を動かして、彼に密着した。
浴衣越しでも、体温が伝わってくる。
初夏の気温には少し暑いくらいだけど、不快感は全くない。
もう一度寝落ちてしまいそうな気持ちよさがある。
そんな微睡みに任せて、私は口を開いた。
「ねぇ、総司くん」
「ん?」
「将来もさ…こうやって、一緒にいられたらいいよね。一緒にこうやって目が覚めて、一緒に朝ごはん食べて…」
「…そうだな。まだ未来だけど…そうできたらいいな、と思ってるよ」
思わず綻んでしまった顔をなんとなく見られたくなくて、私は彼の胸に顔をうずめた。
結婚のことを考えるのは早すぎるだろうか?いや、私だってもう結婚できる年齢なのだ。
周りの友達は、付き合っては別れてを繰り返すと言っていた。それは、これくらいの歳なら普通、当たり前な恋愛の形らしい。
でも…結局のところ、私たちは普通ではない。
常識の違う世界から来た彼。セックスができなかった私。結局セックスよりキスが先になった私たち。
これまでが普通から外れていたことばかりだったのだから、これからも普通から外れたことばかりの恋愛でも、別に大丈夫だろう。きっと。
突然、部屋に備え付けられたスピーカーがノイズを発して、聞き慣れた学校のチャイムを鳴らした。
『おはようございます。七時半になりました』
起床時間の放送だ。
旅館に一斉放送のスピーカーが備え付けられているなんて、知らなかった。
非常放送用かもしれない。
「…びっくりした…寝かけてたわ…」
「私もちょっと寝てたかも」
そんな話をしながら、私たちは布団を出た。
「さ、準備しないとね」
「そうだな。遅れたら何を勘ぐられるかわからないしな」
「それに…ちゃんと説明しないと、だからね」
彼の表情が、ちょっとだけ憂鬱そうになった。
でも、まぁ…大丈夫だろう。きっと。
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