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157. 彼女もまた、心を決めたんだ
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夕食は旅館らしい飯だったが、育ち盛りの俺たちの世代には満足できなかった人も多く、何もかも食い尽くす勢いで皆おかわりを連発していた。
明日の朝はビュッフェ形式らしいが、果たして旅館の食料庫は大丈夫だろうか。
…そんな心配をする俺はといえば、おかわりもせず普通に食べた。
物足りないといえば物足りなかったのだが、緊張もあってそれ以上は喉を通らなかった。
そして、いよいよその時が来た。
「…顔色悪いな、奥原…風呂入る前に気絶とかやめてくれよ?」
「それはない…はずだ」
言ったそばから、わずかな段差に躓いて転びかける。
浜場に支えられ、倒れることはなかった。
「…悪い」
「おいおい、本当に勘弁してくれよ」
這々の体でなんとか大浴場の入り口にたどり着く。
風雅なデザインの暖簾が高い壁に見える。
「諦めろ。もう戻れないんだから。覚悟決めたんだろ?」
「…そうだ」
俺たちは暖簾を押しのけて、更衣室へと入っていった。
来るのが比較的遅かったのか、すでに賑わっている。
もちろん広さには制限があるので入れる人数も決まっているが、手はず通りなら美香はもう来ているはずだ。
更衣室の中を見渡してみるが、特徴的な白髪は見当たらない。
「ほら、さっさと浴衣脱いで行くぞ」
浜場に促され、俺は脱いだ浴衣を雑にカゴへと突っ込んで、やや早足で浴場に来た。
◆ ◆ ◆
「おぉ…こりゃすげえな」
「…確かに」
浜場と俺の『すげえ』が同じかどうかはわからない。
少なくとも俺に関しては、ここがもう大乱交パーティーの会場になっていることに言及している。
ハロウィンのときは早々に帰ってしまったが、室内にも露天風呂にも響き渡る喘ぎ声の大合唱は、エロいというレベルを超えて少しげんなりしてくるほどだ。
とりあえず、備え付けのシャワーで身体を洗う。
いつもはつけないリンスまでつけたりして、無駄に時間をかけてしまう。
洗い終わって室内を見渡すが、やはり白髪は見当たらない。
俺は露天風呂へと足を運んだ。
身体は濡れていたが、風があまり吹いていないこともあって、特に寒さは感じない。
まあ、寒かったら露天風呂まで乱交の場になるわけはないのだが。
俺はそこで、改めて白髪を探す。
果たして――美香はそこにいた。
それなりのサイズの浴槽の中央あたりで、髪をまとめ上げてのんびりとした様子でお湯に浸かっている。
時々男子に声をかけられているが、断っているようだ。
(…自分もああやって断られてしまうのではないか?)
一瞬よぎった不安を心のなかで捻り潰して、俺は美香の元へと歩いていく。
すると、美香が体の方向を変えて――こちらを向いた。
「あっ、」
名前を呼ぼうとしたのか、しかし言い淀む。
俺も呼ぼうとして、名字で呼ぶか名前で呼ぶかをしばし考え込んでしまう。
きっと、お互いに同じ理由だろう。
目を合わせたまま固まった俺たちに、周囲の視線が集まってくるのを感じる。
――ここには、二人だけのための会議室などない。
俺はお湯に入って、美香のそばに座った。
「…えーっと…その…こ、こんばんは?」
その一言で、美香も相当にテンパっているらしいことが推察できた。
それを見て、少しは落ち着けたかもしれない。
「とりあえず、まずは暖まろう」
「…うん」
お湯の温度がちょうどよく、いつまでものぼせることなく浸かっていられそうな気がする。
二人で大きくため息をついて、それがあまりにも同じタイミングだったものだったから、顔を見合わせて二人で笑ってしまった。
「長かったね、ここまで」
「そうだな」
「ごめんね、ずっと長引かせちゃって」
「いや…俺がクリスマスなんか待たないでさっさと告白すりゃよかったんだ」
そうすれば、ここまで伸びることはなかったかもしれない。
「けど、だからって別に思い出がないわけでもないしな」
「そうだね。いろいろあったなぁ」
奇妙な偶然の連続だった。
必然などなかったかもしれない。
世界の壁を超えて出会った二人が恋に落ちる確率なんてどれほどだろうか、とベタなJ-POPの歌詞みたいなことを考えてしまう。
「…美香はさ」
周りに聞こえるかもしれないと少し悩んだが、俺は素直に名前を口に出した。
「決めたんだよな、覚悟」
「覚悟って大げさ…いや、覚悟か」
「大げさじゃないよ。俺より美香のほうが心を決める必要があったはずだから」
どれくらい勇気を出して決断したのかは、あとで二人きりのときにゆっくり笑い話にでもできればいい。
「そろそろ、しよっか。時間なくなっちゃうから」
「そうだな」
緊張はほぐれた。
今は、美香のことだけを考えていればいい。
俺が立ち上がると、美香も立ち上がった。
俺は美香の手をそっと取って、浴槽の縁へと引っ張った。
「…そういえば、どういう体位でするか決めてなかったな」
「対面座位にしようよ。せっかく、恋人だからね。それに…皆やってるから」
その言葉にほんの少しだけ意識を他に向けてみれば、確かに妙に男女の距離が近い。
普段校内で見かけるものよりも、もっと恋人らしく見える。
「わかった。そうしよう」
俺は腰掛けた。
美香が、俺の膝の上にそっとお尻を下ろす。
柔らかな感触が、存在感を主張する心地よい重さが感じられる。
美香は、脚を俺の背中の方に回した。そして、肩に手を置いてきた。
それをゆっくりと首の後にやって、顔同士の距離が縮む。
互いの呼吸音が、うるさいくらいに聞こえる。
「準備は大丈夫か?」
「大丈夫。もう…濡れてるから」
美香は片手を股間へやって、指をそっと自分の割れ目へと挿入する。
「ん…」
ほんの少しだけ声を漏らして、それから美香は指を抜いた。
温泉のお湯ではない液体が、糸を引いている。
「わかった。信用するぞ」
俺がそう言うと、美香は腰をずらした。
ゆっくりと、互いの秘部が近づいていき、そして、触れた。
背筋に僅かな快感が走った。
「自分の好きなタイミングで挿れていいからな」
やめてもいい、とは言わなかった。
それは気遣いのようでいて、望まない免罪符を与えてしまうから。
美香は無言で頷いて、ゴクリと唾を飲み込んで、また腰をずらし始めた。
明日の朝はビュッフェ形式らしいが、果たして旅館の食料庫は大丈夫だろうか。
…そんな心配をする俺はといえば、おかわりもせず普通に食べた。
物足りないといえば物足りなかったのだが、緊張もあってそれ以上は喉を通らなかった。
そして、いよいよその時が来た。
「…顔色悪いな、奥原…風呂入る前に気絶とかやめてくれよ?」
「それはない…はずだ」
言ったそばから、わずかな段差に躓いて転びかける。
浜場に支えられ、倒れることはなかった。
「…悪い」
「おいおい、本当に勘弁してくれよ」
這々の体でなんとか大浴場の入り口にたどり着く。
風雅なデザインの暖簾が高い壁に見える。
「諦めろ。もう戻れないんだから。覚悟決めたんだろ?」
「…そうだ」
俺たちは暖簾を押しのけて、更衣室へと入っていった。
来るのが比較的遅かったのか、すでに賑わっている。
もちろん広さには制限があるので入れる人数も決まっているが、手はず通りなら美香はもう来ているはずだ。
更衣室の中を見渡してみるが、特徴的な白髪は見当たらない。
「ほら、さっさと浴衣脱いで行くぞ」
浜場に促され、俺は脱いだ浴衣を雑にカゴへと突っ込んで、やや早足で浴場に来た。
◆ ◆ ◆
「おぉ…こりゃすげえな」
「…確かに」
浜場と俺の『すげえ』が同じかどうかはわからない。
少なくとも俺に関しては、ここがもう大乱交パーティーの会場になっていることに言及している。
ハロウィンのときは早々に帰ってしまったが、室内にも露天風呂にも響き渡る喘ぎ声の大合唱は、エロいというレベルを超えて少しげんなりしてくるほどだ。
とりあえず、備え付けのシャワーで身体を洗う。
いつもはつけないリンスまでつけたりして、無駄に時間をかけてしまう。
洗い終わって室内を見渡すが、やはり白髪は見当たらない。
俺は露天風呂へと足を運んだ。
身体は濡れていたが、風があまり吹いていないこともあって、特に寒さは感じない。
まあ、寒かったら露天風呂まで乱交の場になるわけはないのだが。
俺はそこで、改めて白髪を探す。
果たして――美香はそこにいた。
それなりのサイズの浴槽の中央あたりで、髪をまとめ上げてのんびりとした様子でお湯に浸かっている。
時々男子に声をかけられているが、断っているようだ。
(…自分もああやって断られてしまうのではないか?)
一瞬よぎった不安を心のなかで捻り潰して、俺は美香の元へと歩いていく。
すると、美香が体の方向を変えて――こちらを向いた。
「あっ、」
名前を呼ぼうとしたのか、しかし言い淀む。
俺も呼ぼうとして、名字で呼ぶか名前で呼ぶかをしばし考え込んでしまう。
きっと、お互いに同じ理由だろう。
目を合わせたまま固まった俺たちに、周囲の視線が集まってくるのを感じる。
――ここには、二人だけのための会議室などない。
俺はお湯に入って、美香のそばに座った。
「…えーっと…その…こ、こんばんは?」
その一言で、美香も相当にテンパっているらしいことが推察できた。
それを見て、少しは落ち着けたかもしれない。
「とりあえず、まずは暖まろう」
「…うん」
お湯の温度がちょうどよく、いつまでものぼせることなく浸かっていられそうな気がする。
二人で大きくため息をついて、それがあまりにも同じタイミングだったものだったから、顔を見合わせて二人で笑ってしまった。
「長かったね、ここまで」
「そうだな」
「ごめんね、ずっと長引かせちゃって」
「いや…俺がクリスマスなんか待たないでさっさと告白すりゃよかったんだ」
そうすれば、ここまで伸びることはなかったかもしれない。
「けど、だからって別に思い出がないわけでもないしな」
「そうだね。いろいろあったなぁ」
奇妙な偶然の連続だった。
必然などなかったかもしれない。
世界の壁を超えて出会った二人が恋に落ちる確率なんてどれほどだろうか、とベタなJ-POPの歌詞みたいなことを考えてしまう。
「…美香はさ」
周りに聞こえるかもしれないと少し悩んだが、俺は素直に名前を口に出した。
「決めたんだよな、覚悟」
「覚悟って大げさ…いや、覚悟か」
「大げさじゃないよ。俺より美香のほうが心を決める必要があったはずだから」
どれくらい勇気を出して決断したのかは、あとで二人きりのときにゆっくり笑い話にでもできればいい。
「そろそろ、しよっか。時間なくなっちゃうから」
「そうだな」
緊張はほぐれた。
今は、美香のことだけを考えていればいい。
俺が立ち上がると、美香も立ち上がった。
俺は美香の手をそっと取って、浴槽の縁へと引っ張った。
「…そういえば、どういう体位でするか決めてなかったな」
「対面座位にしようよ。せっかく、恋人だからね。それに…皆やってるから」
その言葉にほんの少しだけ意識を他に向けてみれば、確かに妙に男女の距離が近い。
普段校内で見かけるものよりも、もっと恋人らしく見える。
「わかった。そうしよう」
俺は腰掛けた。
美香が、俺の膝の上にそっとお尻を下ろす。
柔らかな感触が、存在感を主張する心地よい重さが感じられる。
美香は、脚を俺の背中の方に回した。そして、肩に手を置いてきた。
それをゆっくりと首の後にやって、顔同士の距離が縮む。
互いの呼吸音が、うるさいくらいに聞こえる。
「準備は大丈夫か?」
「大丈夫。もう…濡れてるから」
美香は片手を股間へやって、指をそっと自分の割れ目へと挿入する。
「ん…」
ほんの少しだけ声を漏らして、それから美香は指を抜いた。
温泉のお湯ではない液体が、糸を引いている。
「わかった。信用するぞ」
俺がそう言うと、美香は腰をずらした。
ゆっくりと、互いの秘部が近づいていき、そして、触れた。
背筋に僅かな快感が走った。
「自分の好きなタイミングで挿れていいからな」
やめてもいい、とは言わなかった。
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美香は無言で頷いて、ゴクリと唾を飲み込んで、また腰をずらし始めた。
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