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155. わかっている人も、いるみたいで
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「まあ、あんまり詮索してやるものでもないんじゃないか」
横から助け舟を出してくれたのは浜場だった。
「それはそうかもしれないけど…気にならないかい?」
「なんだよ、もしかして好きなのか?」
「うーん…まあ、そんなとこかな?」
その言葉に、俺は思わず反応してしまう。
付き合っていることを公表しなかったせいで、叶わない願いを抱き続けている人がいるかもしれないということは、薄々思ってはいたが…こうも隣に居られると罪悪感が凄まじい勢いで膨れ上がっていく。
「正確には、そんなとこ『だった』のほうがいいか。気になってたこともあった、くらいの話。男子ならみんな一度はそんな夢を抱くだろう?」
「まあ、否定はしないな。オレはそんなこと言ったら由紀に殺されるから言わないけど」
模範的な彼氏のセリフを言って、浜場は小さく笑った。
少しだけ俺たちの間に沈黙が訪れて、店に流れるBGMと女子たちの声だけが耳に入ってきた。
「それなりに努力はしたよ。追いつくために勉強に力を入れてみたりね。でも結局、キミのような常に彼女と競り合っている人と仲良くしてるのを見て、諦めたんだ」
「…白宮さんは、別に頭のいい人とだけつるんでるわけじゃないぞ」
坂田の言い方が少し引っかかって、軽く言い返してしまう。
「そうそう。オレなんかともそれなりに仲良くしてくれてるしね」
「へえ、そうなんだ?」
「同じ家で勉強会するくらいには」
「なるほどね。…ねえ、奥原くん」
坂田は俺に話を振ってきた。
「彼女は…白宮さんは完璧な人だと思うかい?」
「別に思わないな」
「そうか」
ため息を一つついた坂田は、どこか吹っ切れたような表情をしている。
「すっきりしたよ」
「何がだ?」
「いや、ちょっとだけ残ってた未練がね」
「…?」
「どうぞお幸せに。おーい、そろそろ時間だよ!」
「あ、ちょっ…」
呼び止める間もなく、坂田は店内へと女子を呼びに行く。
腕時計を見てみると、たしかに時間はギリギリだった。
「こっちも呼びにいくか」
浜場もまた店内に入っていったので、気になったことを一旦頭の端に追いやって、俺たちはまた移動を始めた。
◆ ◆ ◆
「ありゃ、バレてるな」
モノレールの座席で、浜場がボソッと呟く。
なんのことかはすぐに思い至った。
「だよな…そうじゃなきゃ『お幸せに』なんてセリフは出てこない」
「ま、傍から見ても特別仲良いなって感じはするし、前から予想はしててあのやり取りで確定したんだろうな」
「あのやり取り?」
「白宮さんは完璧ですかって言われて即いいえって答えられるほど、周りは白宮さんの内面を見てないってことだよ」
「そんなにか?例えば、定期試験だって別にいつも一位取るわけじゃないし…」
「誰に対しても平等に優しく接して常に試験の上位にいるって、十分完璧じゃないか?」
ハッとした。
たしかに、一位は別に完璧であることの必須条件とは見做されない。
当人や当人に近しい人がどう考えていようと、周りから見たら美香は完璧な人間なのだ。
「坂田だって別に馬鹿じゃない。白宮さんは必ずしも完璧人間じゃないだろうと踏んであの質問を投げかけているんだと思うぞ」
「つまり、俺はまんまとしてやられたと…」
「そんな頭脳系バトルみたいな意識があったかどうかは置いとけば、まあそういうことになるな」
何も言えない俺に、浜場はさらに続けて言う。
「ぶっちゃけ完全にバレるのも時間の問題だな。今回うまいこと公表するんだっけ?」
「そのつもりだが…」
「下手にバレるよりはマシか。若干遅い気もするが」
「遅い、か…」
それは面倒くさいことを先延ばしにしてきた報いでもある。
一度は鳴りを潜めたはずの不安が、心のなかで盛り返してきたのを感じた。
横から助け舟を出してくれたのは浜場だった。
「それはそうかもしれないけど…気にならないかい?」
「なんだよ、もしかして好きなのか?」
「うーん…まあ、そんなとこかな?」
その言葉に、俺は思わず反応してしまう。
付き合っていることを公表しなかったせいで、叶わない願いを抱き続けている人がいるかもしれないということは、薄々思ってはいたが…こうも隣に居られると罪悪感が凄まじい勢いで膨れ上がっていく。
「正確には、そんなとこ『だった』のほうがいいか。気になってたこともあった、くらいの話。男子ならみんな一度はそんな夢を抱くだろう?」
「まあ、否定はしないな。オレはそんなこと言ったら由紀に殺されるから言わないけど」
模範的な彼氏のセリフを言って、浜場は小さく笑った。
少しだけ俺たちの間に沈黙が訪れて、店に流れるBGMと女子たちの声だけが耳に入ってきた。
「それなりに努力はしたよ。追いつくために勉強に力を入れてみたりね。でも結局、キミのような常に彼女と競り合っている人と仲良くしてるのを見て、諦めたんだ」
「…白宮さんは、別に頭のいい人とだけつるんでるわけじゃないぞ」
坂田の言い方が少し引っかかって、軽く言い返してしまう。
「そうそう。オレなんかともそれなりに仲良くしてくれてるしね」
「へえ、そうなんだ?」
「同じ家で勉強会するくらいには」
「なるほどね。…ねえ、奥原くん」
坂田は俺に話を振ってきた。
「彼女は…白宮さんは完璧な人だと思うかい?」
「別に思わないな」
「そうか」
ため息を一つついた坂田は、どこか吹っ切れたような表情をしている。
「すっきりしたよ」
「何がだ?」
「いや、ちょっとだけ残ってた未練がね」
「…?」
「どうぞお幸せに。おーい、そろそろ時間だよ!」
「あ、ちょっ…」
呼び止める間もなく、坂田は店内へと女子を呼びに行く。
腕時計を見てみると、たしかに時間はギリギリだった。
「こっちも呼びにいくか」
浜場もまた店内に入っていったので、気になったことを一旦頭の端に追いやって、俺たちはまた移動を始めた。
◆ ◆ ◆
「ありゃ、バレてるな」
モノレールの座席で、浜場がボソッと呟く。
なんのことかはすぐに思い至った。
「だよな…そうじゃなきゃ『お幸せに』なんてセリフは出てこない」
「ま、傍から見ても特別仲良いなって感じはするし、前から予想はしててあのやり取りで確定したんだろうな」
「あのやり取り?」
「白宮さんは完璧ですかって言われて即いいえって答えられるほど、周りは白宮さんの内面を見てないってことだよ」
「そんなにか?例えば、定期試験だって別にいつも一位取るわけじゃないし…」
「誰に対しても平等に優しく接して常に試験の上位にいるって、十分完璧じゃないか?」
ハッとした。
たしかに、一位は別に完璧であることの必須条件とは見做されない。
当人や当人に近しい人がどう考えていようと、周りから見たら美香は完璧な人間なのだ。
「坂田だって別に馬鹿じゃない。白宮さんは必ずしも完璧人間じゃないだろうと踏んであの質問を投げかけているんだと思うぞ」
「つまり、俺はまんまとしてやられたと…」
「そんな頭脳系バトルみたいな意識があったかどうかは置いとけば、まあそういうことになるな」
何も言えない俺に、浜場はさらに続けて言う。
「ぶっちゃけ完全にバレるのも時間の問題だな。今回うまいこと公表するんだっけ?」
「そのつもりだが…」
「下手にバレるよりはマシか。若干遅い気もするが」
「遅い、か…」
それは面倒くさいことを先延ばしにしてきた報いでもある。
一度は鳴りを潜めたはずの不安が、心のなかで盛り返してきたのを感じた。
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