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131. 別に男がやってみたって、いいだろう?
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二月十四日――バレンタインデー。
一般に、女性が男性へとチョコレートを贈る日という認識は、こちらの世界でも同じらしい。
そんな日に――
「おはよう。チョコいるか?」
「…え?」
ガサゴソと鞄を漁る片理さんが、素っ頓狂な声を上げた。
「…いや、普通逆だよね」
「まあなんでもいいだろ。ほら、どうぞ」
そう言って、俺は透明なビニールに包まれた一口サイズのチョコレートを渡した。
「…は?待って、これ手作り!?」
「そうだぞ」
片理さんはポカンと口を開けてびっくりしたあと、動きを再開した。
「…あたし、女子力で負けてるかもなぁ…」
ぼやきながら彼女が取り出したのはチョコレートの詰まった袋。
「はい、市販品だけどこっちからも義理チョコ。…負けてるけど…」
「ありがとう」
一言言って俺はチョコを受け取った。
「それにしたって、なんでチョコ作ったの?純粋に気になるんだけど」
「マジでなんとなく。そこら中にチョコレート売ってるの見たら自分でもなんか作りたくなっちゃって」
「そんな動機、ある…?」
「あるもんなんだよ」
それなりに料理をしている自覚はあるが、お菓子は普段あまり作らない。
それこそ自分で食べたくなったときくらいだ。
まあ、追加の理由があるとすれば、美香にもお菓子を作ってあげたい…という感じだろうか。
これは照れくさいし言ったところでバカップルだなんだと言われる気がするので言わないでおく。
「おはよー、おっくんチョコもらってるの?」
横からした声に視線を向けると、浜場と島地が連れ立って登校してきたところだった。
「もらってるというか…交換会?」
「そっちのほうが正しいねー。あたしももらってるもん」
「どういうこと…?」
事の経緯を島地に話すと、彼女は露骨に羨ましそうな顔をした。
「羨ましい…!」
というか実際に言った。
「あたしも手作りチョコはまちーにあげたかった…でもどうしてもクオリティが満足いかなくて…」
「いやいや、オレは嬉しいからね。ありがとな」
さり気なく落ち込んだ彼女の頭を撫でるイケメン彼氏ムーヴを流れるようにやってみせた浜場は、しかしなんとかしてやりたそうな雰囲気を出している。
「…週末、作り方教えようか?」
「マジ!?」
浜場と島地が思い切り食いついてきた。
「美香にも予定聞いて呼ぶかな」
「場所は?」
「俺の家でどうだ?親いないし」
ほぼ確定事項のように話を進めていると、割り込むかのように声がかかった。
「…その…あたしも、行っていい?」
控えめに挙手していたのは、片理さんだった。
◆ ◆ ◆
バレンタインデーから数日ほど過ぎた週末。
俺の家には、俺含め五人が集まっていた。
「キッチン狭いな…」
「さすがに五人同時に立つことは想定されてないからね…」
俺のぼやきに、美香が反応する。
主に使うべきはダイニングテーブルの方だろう。
「しかし、いきなり呼んで悪かったな。しかも材料持参で」
「全然いいよ、教わってみたかったし」
美香は笑顔でそう言ったが、遠い目に変わった。
「…本命チョコ渡したらそれを上回るクオリティのチョコ渡されたからね…」
「奥原…あんたねぇ…」
片理さんに白い目で見られてしまった。
仕方ないだろ、つい興に乗っちゃったんだから…
「ホワイトデーもあるからね。その時までに作れるようになっておきたいんだ」
どうやら美香のやる気に火をつけてしまったらしい。
精々抜かされないことを祈るしかないな、と心のなかで呟きながら、料理勉強会は始まった。
一般に、女性が男性へとチョコレートを贈る日という認識は、こちらの世界でも同じらしい。
そんな日に――
「おはよう。チョコいるか?」
「…え?」
ガサゴソと鞄を漁る片理さんが、素っ頓狂な声を上げた。
「…いや、普通逆だよね」
「まあなんでもいいだろ。ほら、どうぞ」
そう言って、俺は透明なビニールに包まれた一口サイズのチョコレートを渡した。
「…は?待って、これ手作り!?」
「そうだぞ」
片理さんはポカンと口を開けてびっくりしたあと、動きを再開した。
「…あたし、女子力で負けてるかもなぁ…」
ぼやきながら彼女が取り出したのはチョコレートの詰まった袋。
「はい、市販品だけどこっちからも義理チョコ。…負けてるけど…」
「ありがとう」
一言言って俺はチョコを受け取った。
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「マジでなんとなく。そこら中にチョコレート売ってるの見たら自分でもなんか作りたくなっちゃって」
「そんな動機、ある…?」
「あるもんなんだよ」
それなりに料理をしている自覚はあるが、お菓子は普段あまり作らない。
それこそ自分で食べたくなったときくらいだ。
まあ、追加の理由があるとすれば、美香にもお菓子を作ってあげたい…という感じだろうか。
これは照れくさいし言ったところでバカップルだなんだと言われる気がするので言わないでおく。
「おはよー、おっくんチョコもらってるの?」
横からした声に視線を向けると、浜場と島地が連れ立って登校してきたところだった。
「もらってるというか…交換会?」
「そっちのほうが正しいねー。あたしももらってるもん」
「どういうこと…?」
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「羨ましい…!」
というか実際に言った。
「あたしも手作りチョコはまちーにあげたかった…でもどうしてもクオリティが満足いかなくて…」
「いやいや、オレは嬉しいからね。ありがとな」
さり気なく落ち込んだ彼女の頭を撫でるイケメン彼氏ムーヴを流れるようにやってみせた浜場は、しかしなんとかしてやりたそうな雰囲気を出している。
「…週末、作り方教えようか?」
「マジ!?」
浜場と島地が思い切り食いついてきた。
「美香にも予定聞いて呼ぶかな」
「場所は?」
「俺の家でどうだ?親いないし」
ほぼ確定事項のように話を進めていると、割り込むかのように声がかかった。
「…その…あたしも、行っていい?」
控えめに挙手していたのは、片理さんだった。
◆ ◆ ◆
バレンタインデーから数日ほど過ぎた週末。
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「キッチン狭いな…」
「さすがに五人同時に立つことは想定されてないからね…」
俺のぼやきに、美香が反応する。
主に使うべきはダイニングテーブルの方だろう。
「しかし、いきなり呼んで悪かったな。しかも材料持参で」
「全然いいよ、教わってみたかったし」
美香は笑顔でそう言ったが、遠い目に変わった。
「…本命チョコ渡したらそれを上回るクオリティのチョコ渡されたからね…」
「奥原…あんたねぇ…」
片理さんに白い目で見られてしまった。
仕方ないだろ、つい興に乗っちゃったんだから…
「ホワイトデーもあるからね。その時までに作れるようになっておきたいんだ」
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