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128. 世界を跨いだのに、変わらない価値観
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十二月から三月にかけては、様々なイベントが連続でやってくるように見える。
あらゆる店はクリスマスに正月、バレンタインにホワイトデーと目まぐるしくラインナップを変え、否が応でも我々消費者に月日の経つのを意識させてくる。
とはいえ、四六時中イベント開催中かといえばそうでもなく。特に一月の後半というのはイベントとイベントの隙間にあたる。
「やっぱイベントがない時期ってのは落ち着くな」
「そうだね。なんか、浮ついた雰囲気がないって感じ」
慣れつつあるとはいえ常識が変わって人付き合いに支障をきたした俺と、小学校や中学校での出来事ゆえに周囲と一定の距離を保っている美香は、ある意味似た者同士なのかもしれない。
下駄箱に向かいつつ美香と雑談をしていると、そんな考えが浮かんできた。
「そういえば、数学の課題そっちでも出た?」
「出た。あれダルいよな…」
そこまで言って、自分がノートを鞄に入れた記憶がないことに気づいた。
急いで鞄の中を確かめてみるが、その記憶が正しいことを証明するのみだった。
「…やべ、ノート忘れた。取ってくるわ」
「わかった。待ってるね」
「サンキュ」
先に帰ってもいいのに、わざわざ待ってくれる美香は本当にいい子だ。
そんな想いを抱きつつ、階段を上がって教室へ走る。
「やれやれ…」
放置して帰ってしまいたい気持ちもあったが、そんなことで課題をすっぽかしては優等生の名が泣いてしまう。
優等生にこだわる必要はないが、それで放課後に会議室を貸してもらえなくなったりしたら大変だ。
教室に入ってからの最短ルートを妄想しながら歩を進めていると、なにやら喘ぎ声が聞こえてきた。
(…よりによって俺の教室からかよ…)
気にする必要はないのかもしれないが、そうは言われても無理な話である。
事に及んでいるのが誰なのかを確認するため、俺は入り口で身を隠し、そっと中を覗き込んだ。
一瞬姿を目に写したら、サッと引っ込んでそれが誰だったかを思い出せばいい。言わばタッチアンドゴーである。
さて、アレは…
(…誰!?)
とりあえず、俺のクラスの人ではない。
いくら交友関係が狭いからと言っても、それはわかる。
(…というか、アレって…)
俺はもう一度、『タッチアンドゴー』を繰り返した。
やはり、見えたものは変わらない。
女子二人であった。机を使って、男女のセックスと同じような姿勢をしていた。
なぜ他クラスの女子二人がこのクラスで行為を営んでいるのかはわからない。
が、何にせよ入りづらい。
いっそこれが浜場と島地の二人だったりしたならまだ良かったのに。
どうしたものか、これでは美香を待たせてしまう――
「あれ、遅いと思ったらどうしたの総司くん」
「えっ」
――迎えに来た美香の声に反応したのは、教室内の女子の方であった。
◆ ◆ ◆
「…えーっと、それで…なんでここでやってたんですか…?」
俺は恐る恐る、目の前の女子二人――花音先輩と由美先輩に訊ねた。
近くの机にはさっきまで使われていたらしき双頭ディルドが置いてあり、本体がピンク色でありながらも夕焼けのオレンジ色をよく反射するほどには濡れていた。
美香には、文化祭のときに知り合ったと軽く説明した。
夕焼けを背にした二人は、どこか憂うような表情をしている。
「…家が、遠いんです」
先に口を開いたのは、花音先輩だった。
それを補完するように、由美先輩が言葉を継ぎ足していく。
「わたしと花音はね、互いに家が遠くて、普段学校で会うしかないんだ。でも、わたしたちって女子同士だから…」
「そんな、だからってダメってことは…!」
美香の言葉に、由美先輩はゆっくり首を振った。
「そりゃ、今どき直接何か言ってくるような人はいないよ。でも、だからって変な視線がないわけじゃないし…噂だってされる」
「それで、一番誰も来なさそうな教室で、こうやって二人で会っていたんです。…教室に入りづらくしてしまって、ごめんなさい」
「わたしも、ごめんね。またどこか部屋探すよ」
すっぱり割り切ったようなことを言うが、二人とも辛いのは間違いないだろう。
「…美香。鍵持ってる?」
「うん」
俺たちは顔を見合わせて互いに頷いた。
「着いてきてくれませんか」
あらゆる店はクリスマスに正月、バレンタインにホワイトデーと目まぐるしくラインナップを変え、否が応でも我々消費者に月日の経つのを意識させてくる。
とはいえ、四六時中イベント開催中かといえばそうでもなく。特に一月の後半というのはイベントとイベントの隙間にあたる。
「やっぱイベントがない時期ってのは落ち着くな」
「そうだね。なんか、浮ついた雰囲気がないって感じ」
慣れつつあるとはいえ常識が変わって人付き合いに支障をきたした俺と、小学校や中学校での出来事ゆえに周囲と一定の距離を保っている美香は、ある意味似た者同士なのかもしれない。
下駄箱に向かいつつ美香と雑談をしていると、そんな考えが浮かんできた。
「そういえば、数学の課題そっちでも出た?」
「出た。あれダルいよな…」
そこまで言って、自分がノートを鞄に入れた記憶がないことに気づいた。
急いで鞄の中を確かめてみるが、その記憶が正しいことを証明するのみだった。
「…やべ、ノート忘れた。取ってくるわ」
「わかった。待ってるね」
「サンキュ」
先に帰ってもいいのに、わざわざ待ってくれる美香は本当にいい子だ。
そんな想いを抱きつつ、階段を上がって教室へ走る。
「やれやれ…」
放置して帰ってしまいたい気持ちもあったが、そんなことで課題をすっぽかしては優等生の名が泣いてしまう。
優等生にこだわる必要はないが、それで放課後に会議室を貸してもらえなくなったりしたら大変だ。
教室に入ってからの最短ルートを妄想しながら歩を進めていると、なにやら喘ぎ声が聞こえてきた。
(…よりによって俺の教室からかよ…)
気にする必要はないのかもしれないが、そうは言われても無理な話である。
事に及んでいるのが誰なのかを確認するため、俺は入り口で身を隠し、そっと中を覗き込んだ。
一瞬姿を目に写したら、サッと引っ込んでそれが誰だったかを思い出せばいい。言わばタッチアンドゴーである。
さて、アレは…
(…誰!?)
とりあえず、俺のクラスの人ではない。
いくら交友関係が狭いからと言っても、それはわかる。
(…というか、アレって…)
俺はもう一度、『タッチアンドゴー』を繰り返した。
やはり、見えたものは変わらない。
女子二人であった。机を使って、男女のセックスと同じような姿勢をしていた。
なぜ他クラスの女子二人がこのクラスで行為を営んでいるのかはわからない。
が、何にせよ入りづらい。
いっそこれが浜場と島地の二人だったりしたならまだ良かったのに。
どうしたものか、これでは美香を待たせてしまう――
「あれ、遅いと思ったらどうしたの総司くん」
「えっ」
――迎えに来た美香の声に反応したのは、教室内の女子の方であった。
◆ ◆ ◆
「…えーっと、それで…なんでここでやってたんですか…?」
俺は恐る恐る、目の前の女子二人――花音先輩と由美先輩に訊ねた。
近くの机にはさっきまで使われていたらしき双頭ディルドが置いてあり、本体がピンク色でありながらも夕焼けのオレンジ色をよく反射するほどには濡れていた。
美香には、文化祭のときに知り合ったと軽く説明した。
夕焼けを背にした二人は、どこか憂うような表情をしている。
「…家が、遠いんです」
先に口を開いたのは、花音先輩だった。
それを補完するように、由美先輩が言葉を継ぎ足していく。
「わたしと花音はね、互いに家が遠くて、普段学校で会うしかないんだ。でも、わたしたちって女子同士だから…」
「そんな、だからってダメってことは…!」
美香の言葉に、由美先輩はゆっくり首を振った。
「そりゃ、今どき直接何か言ってくるような人はいないよ。でも、だからって変な視線がないわけじゃないし…噂だってされる」
「それで、一番誰も来なさそうな教室で、こうやって二人で会っていたんです。…教室に入りづらくしてしまって、ごめんなさい」
「わたしも、ごめんね。またどこか部屋探すよ」
すっぱり割り切ったようなことを言うが、二人とも辛いのは間違いないだろう。
「…美香。鍵持ってる?」
「うん」
俺たちは顔を見合わせて互いに頷いた。
「着いてきてくれませんか」
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