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127. お世話になったら、挨拶しないといけない
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年が明けて五日経った。
世間一般の学校より早く、俺たちの通う私立有屋学園の三学期は始まる。
様々なイベントで失った授業時間をここでまとめて取り戻すつもりなのかもしれない。
「どうだ、奥原。不満か?」
「学校のほうが美香といられる時間が長いから、むしろ助かるな」
「ふっ、合格だ。バカップルの世界へようこそ」
休みの日は能動的に動かなければ会えないが、学校という同じ狭い空間にいればいくらでも会える。
学生の身分で恋愛をするのだから、その利点はしっかり活かしていくつもりだ。
「それにしても、やっとくっついたんだね」
斜め前の席から、島地が呆れたように息をつく。
「ホント、いつになったらくっつくんだろうと常々思ってたけど…ま、良かったよ。やるじゃん、クリスマスに告白なんて」
「お前らのおかげだよ。本当に助かった、ありがとう」
「良いんだよ。こっちも助けられたからね」
「そうそう。なんだかんだ、わたしたちのくっつくきっかけって奥原くんだからね」
反応したのは近藤と色葉だ。
近くまで寄ってきて俺たちの会話に参加している。
この二人は、文化祭の時に付き合ったらしく、時々セックスをしている様子を見かける。
…どちらかといえば、近藤が色葉を乳首責めしている頻度のほうが高い気がするけども。
「それでそれで、二人はさ、どこまで進んだの?」
「あ、わたしも気になる!どう?ちゅーした?ちゅーしちゃったの?」
ここでの「ちゅー」は多分元の世界的には「ぱんぱん」くらいの隠語である。
下ネタを憚らない女子二人に苦笑いをしながら、どう説明したものか俺は考えた。
「そうだな…キス『は』した」
「「「おぉー…」」」
四人が全く同じ声を上げる。
「やるねぇおっくん。隅に置けないなぁ」
「…ん?待て、『は』って言ったよな?もしかしてセックスはしてないのか?」
「実はそうなんだ。これに関してはちょっと許可なしでは言えない事情があるんだが…今、できるようにお互い努力してるところだ」
「まぁ、お前の事情は特殊だからな。仕方ない」
ここの四人には、俺の常識についての話を通してある。
「応援してるよ。僕たちもできるだけ長い間恋人同士でいられるよう頑張るからね」
「別れる前提!?」
「あ、いや、そんなつもりでは…」
言ったそばから近藤と色葉が破局しかけていて、俺たちは笑いながら二人を宥めた。
◆ ◆ ◆
「…で、その後片理さんにも話して、これで報告はし終わったと思う」
「お疲れ様。こっちも、仲いい友達にはこっそり話しておいたよ」
「こっそりか。大変だな」
俺と美香は、例によって会議室を借りていた。
もはや、勉強という大義名分すら存在していなかったが、先生からはすんなり借りられた。
なんだか、積み上げた信用を消費している気分になる。
その分いろいろと貢献しているつもりだから許してほしい。
「それで…いいんだな?付き合ってることは隠す、ってことで」
「隠すというか、親しい人以外には伝えない。普段どおりに付き合って、時々こうやって会って、まぁ…聞かれたら答えるくらい」
「これだけ二人で会ってたら、まあいずれは問いただされそうな気もするけど」
とりあえず、下手に詮索されない限りは何も話さない方針を決めた。
「じゃ、今日は帰ろうか。もう遅いしな」
「うん。また明日ね」
俺は荷物をまとめ、立ち上がる。
「あっ、総司くん…」
美香に呼び止められ、出口で振り返る。
「どうした?」
「い、いや、大したことじゃないんだけど…三学期も、よろしくね?」
「――ああ、よろしく」
三学期だけじゃなく、これからもずっと――と言おうと考えたものの、流石に恥ずかしい気がして口を閉じた。
世間一般の学校より早く、俺たちの通う私立有屋学園の三学期は始まる。
様々なイベントで失った授業時間をここでまとめて取り戻すつもりなのかもしれない。
「どうだ、奥原。不満か?」
「学校のほうが美香といられる時間が長いから、むしろ助かるな」
「ふっ、合格だ。バカップルの世界へようこそ」
休みの日は能動的に動かなければ会えないが、学校という同じ狭い空間にいればいくらでも会える。
学生の身分で恋愛をするのだから、その利点はしっかり活かしていくつもりだ。
「それにしても、やっとくっついたんだね」
斜め前の席から、島地が呆れたように息をつく。
「ホント、いつになったらくっつくんだろうと常々思ってたけど…ま、良かったよ。やるじゃん、クリスマスに告白なんて」
「お前らのおかげだよ。本当に助かった、ありがとう」
「良いんだよ。こっちも助けられたからね」
「そうそう。なんだかんだ、わたしたちのくっつくきっかけって奥原くんだからね」
反応したのは近藤と色葉だ。
近くまで寄ってきて俺たちの会話に参加している。
この二人は、文化祭の時に付き合ったらしく、時々セックスをしている様子を見かける。
…どちらかといえば、近藤が色葉を乳首責めしている頻度のほうが高い気がするけども。
「それでそれで、二人はさ、どこまで進んだの?」
「あ、わたしも気になる!どう?ちゅーした?ちゅーしちゃったの?」
ここでの「ちゅー」は多分元の世界的には「ぱんぱん」くらいの隠語である。
下ネタを憚らない女子二人に苦笑いをしながら、どう説明したものか俺は考えた。
「そうだな…キス『は』した」
「「「おぉー…」」」
四人が全く同じ声を上げる。
「やるねぇおっくん。隅に置けないなぁ」
「…ん?待て、『は』って言ったよな?もしかしてセックスはしてないのか?」
「実はそうなんだ。これに関してはちょっと許可なしでは言えない事情があるんだが…今、できるようにお互い努力してるところだ」
「まぁ、お前の事情は特殊だからな。仕方ない」
ここの四人には、俺の常識についての話を通してある。
「応援してるよ。僕たちもできるだけ長い間恋人同士でいられるよう頑張るからね」
「別れる前提!?」
「あ、いや、そんなつもりでは…」
言ったそばから近藤と色葉が破局しかけていて、俺たちは笑いながら二人を宥めた。
◆ ◆ ◆
「…で、その後片理さんにも話して、これで報告はし終わったと思う」
「お疲れ様。こっちも、仲いい友達にはこっそり話しておいたよ」
「こっそりか。大変だな」
俺と美香は、例によって会議室を借りていた。
もはや、勉強という大義名分すら存在していなかったが、先生からはすんなり借りられた。
なんだか、積み上げた信用を消費している気分になる。
その分いろいろと貢献しているつもりだから許してほしい。
「それで…いいんだな?付き合ってることは隠す、ってことで」
「隠すというか、親しい人以外には伝えない。普段どおりに付き合って、時々こうやって会って、まぁ…聞かれたら答えるくらい」
「これだけ二人で会ってたら、まあいずれは問いただされそうな気もするけど」
とりあえず、下手に詮索されない限りは何も話さない方針を決めた。
「じゃ、今日は帰ろうか。もう遅いしな」
「うん。また明日ね」
俺は荷物をまとめ、立ち上がる。
「あっ、総司くん…」
美香に呼び止められ、出口で振り返る。
「どうした?」
「い、いや、大したことじゃないんだけど…三学期も、よろしくね?」
「――ああ、よろしく」
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