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116. 年末に、やることといえば
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「本当にありがとうございました…!後日またお礼をさせていただきますので!」
「いえいえ、お構いなく」
玄関先で腰を100度くらいに曲げてお礼をしているのは、揃って帰ってきた美香の両親である。
わざわざ美香を迎えに来たらしい。
「総司くんも、またいつでも来ていいからね」
「それじゃあ、またお邪魔させてもらいます」
俺も社交辞令を言って、美香を送り出した。
「じゃあね。良いお年を」
「そちらこそ、良いお年を」
玄関の扉がバタンと閉じると、なにか一区切りついたような気持ちになった。
部屋に戻ってみれば、まだベッドの布団に美香が座っていた跡がついている。
さっきまで並んでゲームをやっていたのが嘘のように静かだ。
触ってみると、まだ温かい。
「そんな寂しそうな顔しなくても、明後日には会えるでしょ」
「母さん…別にそういうことじゃなくてだな」
苦笑いしながら言う母さんに、俺は微妙な表情を返した。
「どうだった、ちょっとした同棲生活は」
「同棲ってなぁ…ま、良かったよ」
「またそんな態度取っちゃって~」
「うるせ」
思春期の息子のことくらい理解してほしい。
まあ分かってやっているのだろうけども。
「また機会があったらいつでも美香ちゃん泊めていいからね。ね、お父さん」
廊下の奥のリビングから「そうだな」と肯定する声が聞こえた。
ここまで気に入られては、うっかり別れることもできないな。
何なら、ここから家族ぐるみの付き合いに発展していく気がする…。
まあそれで美香といられる時間が増えるならいいかと、俺は思考を切り替えた。
◆ ◆ ◆
日付は変わって、翌日。
「さて、大掃除するわよ」
「唐突だな」
「唐突もなにもないでしょ。今日は大晦日でしょ」
「でも、いつも大掃除してなくね?」
そう、我が家には大掃除という概念は特になかった。
毎年、普通にやっているだけだ。
「でも、また美香ちゃんが来るかもしれないじゃない。そのときに汚い家じゃ幻滅されちゃうよ」
「幻滅って…怖いこと言うなよ」
家の中が特に汚れているとも思わなかったが、それはそれとして幻滅されるのは怖いので、俺は大人しく大掃除に付き合うことに決めた。
「さあ、まずは…」
母さんが気合を入れて仕切ろうとした瞬間、俺のスマホから着信音が鳴り響いた。
「悪い、美香からだ」
「…しょうがないわね」
俺は電話に出た。
「もしもし?どうかしたか?」
『もしもしー、いやどうかしたってほどではないんだけど…うち、今から大掃除やるんだ。その間暇だから話せないかなーって』
「お、奇遇だな。うちもちょうど今始めようとしてたところだ」
『美香ー、掃除始めるわよー?あれ、通話中?もしかして総司くん?』
『ちょ、お母さんっ』
美香の慌てる声がして、思わず頬が緩む。
こちらを見ていた父さんに怪訝な顔をされた。そんな顔しなくても…。
「じゃ、通話繋ぎながら掃除やるか」
『おっけー!』
電話越しにも伝わってくるその上機嫌さに、俺も心が弾んできた。
「いえいえ、お構いなく」
玄関先で腰を100度くらいに曲げてお礼をしているのは、揃って帰ってきた美香の両親である。
わざわざ美香を迎えに来たらしい。
「総司くんも、またいつでも来ていいからね」
「それじゃあ、またお邪魔させてもらいます」
俺も社交辞令を言って、美香を送り出した。
「じゃあね。良いお年を」
「そちらこそ、良いお年を」
玄関の扉がバタンと閉じると、なにか一区切りついたような気持ちになった。
部屋に戻ってみれば、まだベッドの布団に美香が座っていた跡がついている。
さっきまで並んでゲームをやっていたのが嘘のように静かだ。
触ってみると、まだ温かい。
「そんな寂しそうな顔しなくても、明後日には会えるでしょ」
「母さん…別にそういうことじゃなくてだな」
苦笑いしながら言う母さんに、俺は微妙な表情を返した。
「どうだった、ちょっとした同棲生活は」
「同棲ってなぁ…ま、良かったよ」
「またそんな態度取っちゃって~」
「うるせ」
思春期の息子のことくらい理解してほしい。
まあ分かってやっているのだろうけども。
「また機会があったらいつでも美香ちゃん泊めていいからね。ね、お父さん」
廊下の奥のリビングから「そうだな」と肯定する声が聞こえた。
ここまで気に入られては、うっかり別れることもできないな。
何なら、ここから家族ぐるみの付き合いに発展していく気がする…。
まあそれで美香といられる時間が増えるならいいかと、俺は思考を切り替えた。
◆ ◆ ◆
日付は変わって、翌日。
「さて、大掃除するわよ」
「唐突だな」
「唐突もなにもないでしょ。今日は大晦日でしょ」
「でも、いつも大掃除してなくね?」
そう、我が家には大掃除という概念は特になかった。
毎年、普通にやっているだけだ。
「でも、また美香ちゃんが来るかもしれないじゃない。そのときに汚い家じゃ幻滅されちゃうよ」
「幻滅って…怖いこと言うなよ」
家の中が特に汚れているとも思わなかったが、それはそれとして幻滅されるのは怖いので、俺は大人しく大掃除に付き合うことに決めた。
「さあ、まずは…」
母さんが気合を入れて仕切ろうとした瞬間、俺のスマホから着信音が鳴り響いた。
「悪い、美香からだ」
「…しょうがないわね」
俺は電話に出た。
「もしもし?どうかしたか?」
『もしもしー、いやどうかしたってほどではないんだけど…うち、今から大掃除やるんだ。その間暇だから話せないかなーって』
「お、奇遇だな。うちもちょうど今始めようとしてたところだ」
『美香ー、掃除始めるわよー?あれ、通話中?もしかして総司くん?』
『ちょ、お母さんっ』
美香の慌てる声がして、思わず頬が緩む。
こちらを見ていた父さんに怪訝な顔をされた。そんな顔しなくても…。
「じゃ、通話繋ぎながら掃除やるか」
『おっけー!』
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