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83. 部屋に招かれたのは、実は初めてだ
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「…お母さん、なんかこれ豪華じゃない?」
いい匂いに釣られてか台所を覗き込んだ白宮さんがそう言っているのが、洗面所から聞こえた。
「そりゃあ、アンタの恩人をもてなす機会だからねぇ。力も入るよ」
お母さんの声は上機嫌だ。…本当に、俺が勝ってたらどうするつもりだったんだろう。
二人の会話は、蛇口から飛び出す水の音にかき消された。
(とりあえず、今は考えても無駄だな)
機会があったらまた訊こう、と自分の中でまとめて、俺は冷たい水に手を翳した。
◆ ◆ ◆
さて、リビングに来てみたはいいものの、今日は特にやることがない。
手持ち無沙汰になってしまったが、どうしたものか…と唸る。
テレビは当たり障りのない音楽番組を流しているが、これはお母さんのBGM用だろう。
なんとなくあたりを見回してみると、廊下の奥で白宮さんが手招きしていた。
行ってみると、そこは白宮さんの部屋だった。
「ここなら暇じゃないかなって思って…ほら、ゲームとかもあるし」
確かに、白宮さんの指した先には結構新しめのゲーム機が置いてある。
勝手に白宮さんはこういうのとは無縁だと思いこんでいたからか、かなり意外に感じた。
「それと…」
「それと?」
「…ちょっと、私がいいって言うまで後ろ向いててくれる?ゲームやってていいからさ」
白宮さんにさっき見せられたゲーム機を手渡されて、俺は曖昧に頷いて胡座をかいた。
急にどうしたのだろう。
「ユーザーどうすればいい?」
「私の使っていいよ。データとか消さないでね」
「やらないやらない」
俺の知っているゲームを適当に探していると、後ろからごそごそと布の擦れる音が聞こえてきた。
着ていたコートを脱いでいるのだろう。
その次は、がさがさと紙袋のような音がする。
一体何をしているのだろう…と思いながら画面を眺めていると、気になってはいたが結局買っていなかったゲームが現れた。
起動すると、真っ黒なローディング画面。液晶に自分の顔が映った。
なんとなく自分と目を合わせたくなくて、顔を上げる。
(うぉっ…)
危うく声に出すところだった。ゲーム機も取り落としそうになった。
目の前の棚にあったのは、バイブにディルドにローター…いわゆる性具の類である。
よく考えれば――否、よく考えずとも、あくまで白宮さんはこの世界の人間だ。
こういう道具を使うことはわかりきっていたし、ローターに関しては普段から見ていたはずだが、それでも改めて道具と向き合うと、謎の緊張感のようなものを覚える。
普段から、これが白宮さんの中に出入りしているのか、とか、このディルドやバイブと自分のそれはどちらが大きいだろうか、とか余計な思考がゲームそっちのけで走る。
「終わったよ。こっち向いていいよ」
唐突に呼ばれて、俺はビクリと肩を跳ねさせてしまった。
悟られなかっただろうか、と思いながら体を白宮さんの方に向けて座り直した。
「…どうかな?」
「えーっと、それは…」
「言ってたでしょ、私のコスプレが見たいって。衣装借りてきたから、着てみたんだ。似合う?」
全体をパステルカラーで統一したその衣装は、強いて言うならばメイド服といったところだった。
胸の上までしかない、へそ出しTシャツをさらに短くしたような部分にはピンク色の蝶ネクタイがついている。
白宮さんの私服と同じように完全に露出された胸の先端には、可愛らしい白のリボンがついている。金属製以外にもこういうアクセサリがあったんだ、と多少冷静な感想が脳裏をよぎった。
お腹は淡いピンク色のコルセットのようなもので覆われているが、前面には布がなく、靴と同じようにクロスした紐で止められていて、へそも見えるデザインだ。
腰から脚にかけては、真っ白なガーターベルトが白宮さんの色素の薄い肌に映えている。
これまた白いニーソックスの内側には、小さな細長いポケットがある。
ローター用のポケットだが、今は空だ。
そして、やはり毛の一本もない綺麗な割れ目のさらに奥の方から、白い尻尾が垂れている。
頭にも、白い猫耳が装着されている。彼女の白い髪の毛によく似合う。
「…えーっと、もしもーし?」
「あ、あぁ、ごめん…似合ってる。つい見ちゃって…」
「それなら良かった。借りてきたかいがあったね。ところで、まだローターをつけてないんだけど…」
「俺の後ろの棚にある、アレか?」
「そうそう。私が持ってるのそれ含めて二つだけだから、つけようと思ったら置きっぱなしだったことに気づいちゃって。今日使ってたやつはあとで洗うために片付けちゃったし…ということで」
ちょっと面白そうに口角を上げた表情に――
「そのローター、私につけてくれない?」
――朱が混じっているように見えたのは、気のせいだろうか?
いい匂いに釣られてか台所を覗き込んだ白宮さんがそう言っているのが、洗面所から聞こえた。
「そりゃあ、アンタの恩人をもてなす機会だからねぇ。力も入るよ」
お母さんの声は上機嫌だ。…本当に、俺が勝ってたらどうするつもりだったんだろう。
二人の会話は、蛇口から飛び出す水の音にかき消された。
(とりあえず、今は考えても無駄だな)
機会があったらまた訊こう、と自分の中でまとめて、俺は冷たい水に手を翳した。
◆ ◆ ◆
さて、リビングに来てみたはいいものの、今日は特にやることがない。
手持ち無沙汰になってしまったが、どうしたものか…と唸る。
テレビは当たり障りのない音楽番組を流しているが、これはお母さんのBGM用だろう。
なんとなくあたりを見回してみると、廊下の奥で白宮さんが手招きしていた。
行ってみると、そこは白宮さんの部屋だった。
「ここなら暇じゃないかなって思って…ほら、ゲームとかもあるし」
確かに、白宮さんの指した先には結構新しめのゲーム機が置いてある。
勝手に白宮さんはこういうのとは無縁だと思いこんでいたからか、かなり意外に感じた。
「それと…」
「それと?」
「…ちょっと、私がいいって言うまで後ろ向いててくれる?ゲームやってていいからさ」
白宮さんにさっき見せられたゲーム機を手渡されて、俺は曖昧に頷いて胡座をかいた。
急にどうしたのだろう。
「ユーザーどうすればいい?」
「私の使っていいよ。データとか消さないでね」
「やらないやらない」
俺の知っているゲームを適当に探していると、後ろからごそごそと布の擦れる音が聞こえてきた。
着ていたコートを脱いでいるのだろう。
その次は、がさがさと紙袋のような音がする。
一体何をしているのだろう…と思いながら画面を眺めていると、気になってはいたが結局買っていなかったゲームが現れた。
起動すると、真っ黒なローディング画面。液晶に自分の顔が映った。
なんとなく自分と目を合わせたくなくて、顔を上げる。
(うぉっ…)
危うく声に出すところだった。ゲーム機も取り落としそうになった。
目の前の棚にあったのは、バイブにディルドにローター…いわゆる性具の類である。
よく考えれば――否、よく考えずとも、あくまで白宮さんはこの世界の人間だ。
こういう道具を使うことはわかりきっていたし、ローターに関しては普段から見ていたはずだが、それでも改めて道具と向き合うと、謎の緊張感のようなものを覚える。
普段から、これが白宮さんの中に出入りしているのか、とか、このディルドやバイブと自分のそれはどちらが大きいだろうか、とか余計な思考がゲームそっちのけで走る。
「終わったよ。こっち向いていいよ」
唐突に呼ばれて、俺はビクリと肩を跳ねさせてしまった。
悟られなかっただろうか、と思いながら体を白宮さんの方に向けて座り直した。
「…どうかな?」
「えーっと、それは…」
「言ってたでしょ、私のコスプレが見たいって。衣装借りてきたから、着てみたんだ。似合う?」
全体をパステルカラーで統一したその衣装は、強いて言うならばメイド服といったところだった。
胸の上までしかない、へそ出しTシャツをさらに短くしたような部分にはピンク色の蝶ネクタイがついている。
白宮さんの私服と同じように完全に露出された胸の先端には、可愛らしい白のリボンがついている。金属製以外にもこういうアクセサリがあったんだ、と多少冷静な感想が脳裏をよぎった。
お腹は淡いピンク色のコルセットのようなもので覆われているが、前面には布がなく、靴と同じようにクロスした紐で止められていて、へそも見えるデザインだ。
腰から脚にかけては、真っ白なガーターベルトが白宮さんの色素の薄い肌に映えている。
これまた白いニーソックスの内側には、小さな細長いポケットがある。
ローター用のポケットだが、今は空だ。
そして、やはり毛の一本もない綺麗な割れ目のさらに奥の方から、白い尻尾が垂れている。
頭にも、白い猫耳が装着されている。彼女の白い髪の毛によく似合う。
「…えーっと、もしもーし?」
「あ、あぁ、ごめん…似合ってる。つい見ちゃって…」
「それなら良かった。借りてきたかいがあったね。ところで、まだローターをつけてないんだけど…」
「俺の後ろの棚にある、アレか?」
「そうそう。私が持ってるのそれ含めて二つだけだから、つけようと思ったら置きっぱなしだったことに気づいちゃって。今日使ってたやつはあとで洗うために片付けちゃったし…ということで」
ちょっと面白そうに口角を上げた表情に――
「そのローター、私につけてくれない?」
――朱が混じっているように見えたのは、気のせいだろうか?
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