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35. 立場の逆転も、たまにはある
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放課後の誰もいない廊下に、俺と白宮さんの足音だけが響いている。
例の展望席も、今日に限ってお菓子を食べながら駄弁っている奴らがいない。
まあ、始業式後なので皆昼食を食べに帰ったのだろう…。
そして、俺たちの間に会話はなかった。
気まずい。気まずいが、それを言う勇気など俺にあろうはずもなかった。
そうこうしているうちに、俺たちは廊下の先にある会議室に到着した。
白宮さんが制服のポケットから鍵を取り出し、差し込んで回す。
がちゃりと無機質な音が響いて、ドアが開いた。
そしてまた無言で、俺たちは部屋へと入った。
「えっと…とりあえず、座ろうか」
俺はかろうじて言葉を発し、二人とも机を挟んで向かい合って座った。
…あれ、いつも何してたっけ…?
たしか、世間話をして、たまに勉強して…
で、少しずつ女の子の裸に慣れていったんだよな…
結果、今でもわりと日常生活に支障はなくなった。
あれ?こうやって二人で会議室に来る必要なくなったんじゃ?
「今日は…やることないし、帰ろうか…ほら、昼飯とかもあるしさ?お腹も空いてるでしょ、ほら、先生の話が長くてさ」
しどろもどろになりつつ、理由を口からなんとか放り出す。
「だから、その…」
「え、えぇっと!」
だが、その俺の言葉は、意外にも白宮さんによって遮られた。
「…言ってなくて、ごめんなさい…でも、私が奥原くんに来てほしかったから呼んだ…んです」
「なぜに敬語?」
白宮さんは数秒の間視線を彷徨わせて、そして意を決したように俺と目を合わせた。
「お願いがあるの。…私に、オナニーを見せてください!!」
「…は?」
俺がその言葉を解釈して意味を理解するまでに十秒を要した。
◆ ◆ ◆
「…とりあえず、理由を聞いてもいいかな」
「うん…」
一つ深呼吸をして、白宮さんは俺を見据えた。
「まず…私が、触られるのが苦手というのは、お話しましたよね?」
「何度か聞いたな」
実際のところ、何度か事故で触ってしまってはいるが、一応避けるようにはしている。
「その…抱きしめられたりも、しましたけど…」
「お、おう…そうだな…」
「…も、もちろん悪い気はしてないし、あの…プールのトイレのときも、私を守ろうとしてくれたのはわかってるんだけど…その…」
「…やっぱり、怖かった?」
「本当に嫌なわけじゃなかったんだよ!?そもそもアイツの行動が怖かったのもあるだろうし守ってくれたことに関しては本当に感謝して…」
「そうか」
俺が一言納得を示すと、白宮さんは申し訳無さそうにシュンとした。
「やっぱ、この世界だと肩身が狭くなるのか?」
「世界ってほど大げさじゃないけど…うん。やっぱり、性的マイノリティでもないのにセックスをしない人って珍しいから。しかも、その理由がただ単に『触られるのが苦手だから』っていうのも…やっぱり、珍しいから」
「それを克服したい、と」
「うん。…さっき、片理さんとしてたでしょ?セックス」
「あ、あぁ…それは…」
「マイノリティどころか、常識がそもそも違う世界から来た奥原くんでさえ、こうやって適応できている…なら、私も克服できるならすべきだと思う」
「なるほど」
一般に、マイノリティでいることは悪ではない。
俺みたいな存在ならともかく、白宮さんのそれは生きていく上で大きな問題にはならないはずだ。
だが――マイノリティでいることは、自分が社会に適合せず生きていると自覚するのは、辛い。
それは、俺がよく分かっていることだった。
「だけど、いきなりセックスとかは怖いし…だから、まずはオナニーを見せて欲しいの。最初は、男の子への苦手意識を解消するところから始めるべきだと思ったから」
「了解。わかった、やるよ」
「あっ、でもどうしても嫌だったり苦手だったりしたら…って、いいの?」
「これまで散々助けてもらったしな。そもそも適応できたのは白宮さんのおかげだ。俺に返せる恩なら何でも返したい」
「な、何でもって…」
「いや物理的・経済的に不可能なやつだったら断ってたけどな?…恥ずかしいことには変わらないけど、俺がシコるくらいで白宮さんのためになるんだったらお安いご用だよ」
カッコつけるには妙なセリフ。
だが、俺の本心だ。
「ありがとう」
嬉しそうに、白宮さんは呟いた。
例の展望席も、今日に限ってお菓子を食べながら駄弁っている奴らがいない。
まあ、始業式後なので皆昼食を食べに帰ったのだろう…。
そして、俺たちの間に会話はなかった。
気まずい。気まずいが、それを言う勇気など俺にあろうはずもなかった。
そうこうしているうちに、俺たちは廊下の先にある会議室に到着した。
白宮さんが制服のポケットから鍵を取り出し、差し込んで回す。
がちゃりと無機質な音が響いて、ドアが開いた。
そしてまた無言で、俺たちは部屋へと入った。
「えっと…とりあえず、座ろうか」
俺はかろうじて言葉を発し、二人とも机を挟んで向かい合って座った。
…あれ、いつも何してたっけ…?
たしか、世間話をして、たまに勉強して…
で、少しずつ女の子の裸に慣れていったんだよな…
結果、今でもわりと日常生活に支障はなくなった。
あれ?こうやって二人で会議室に来る必要なくなったんじゃ?
「今日は…やることないし、帰ろうか…ほら、昼飯とかもあるしさ?お腹も空いてるでしょ、ほら、先生の話が長くてさ」
しどろもどろになりつつ、理由を口からなんとか放り出す。
「だから、その…」
「え、えぇっと!」
だが、その俺の言葉は、意外にも白宮さんによって遮られた。
「…言ってなくて、ごめんなさい…でも、私が奥原くんに来てほしかったから呼んだ…んです」
「なぜに敬語?」
白宮さんは数秒の間視線を彷徨わせて、そして意を決したように俺と目を合わせた。
「お願いがあるの。…私に、オナニーを見せてください!!」
「…は?」
俺がその言葉を解釈して意味を理解するまでに十秒を要した。
◆ ◆ ◆
「…とりあえず、理由を聞いてもいいかな」
「うん…」
一つ深呼吸をして、白宮さんは俺を見据えた。
「まず…私が、触られるのが苦手というのは、お話しましたよね?」
「何度か聞いたな」
実際のところ、何度か事故で触ってしまってはいるが、一応避けるようにはしている。
「その…抱きしめられたりも、しましたけど…」
「お、おう…そうだな…」
「…も、もちろん悪い気はしてないし、あの…プールのトイレのときも、私を守ろうとしてくれたのはわかってるんだけど…その…」
「…やっぱり、怖かった?」
「本当に嫌なわけじゃなかったんだよ!?そもそもアイツの行動が怖かったのもあるだろうし守ってくれたことに関しては本当に感謝して…」
「そうか」
俺が一言納得を示すと、白宮さんは申し訳無さそうにシュンとした。
「やっぱ、この世界だと肩身が狭くなるのか?」
「世界ってほど大げさじゃないけど…うん。やっぱり、性的マイノリティでもないのにセックスをしない人って珍しいから。しかも、その理由がただ単に『触られるのが苦手だから』っていうのも…やっぱり、珍しいから」
「それを克服したい、と」
「うん。…さっき、片理さんとしてたでしょ?セックス」
「あ、あぁ…それは…」
「マイノリティどころか、常識がそもそも違う世界から来た奥原くんでさえ、こうやって適応できている…なら、私も克服できるならすべきだと思う」
「なるほど」
一般に、マイノリティでいることは悪ではない。
俺みたいな存在ならともかく、白宮さんのそれは生きていく上で大きな問題にはならないはずだ。
だが――マイノリティでいることは、自分が社会に適合せず生きていると自覚するのは、辛い。
それは、俺がよく分かっていることだった。
「だけど、いきなりセックスとかは怖いし…だから、まずはオナニーを見せて欲しいの。最初は、男の子への苦手意識を解消するところから始めるべきだと思ったから」
「了解。わかった、やるよ」
「あっ、でもどうしても嫌だったり苦手だったりしたら…って、いいの?」
「これまで散々助けてもらったしな。そもそも適応できたのは白宮さんのおかげだ。俺に返せる恩なら何でも返したい」
「な、何でもって…」
「いや物理的・経済的に不可能なやつだったら断ってたけどな?…恥ずかしいことには変わらないけど、俺がシコるくらいで白宮さんのためになるんだったらお安いご用だよ」
カッコつけるには妙なセリフ。
だが、俺の本心だ。
「ありがとう」
嬉しそうに、白宮さんは呟いた。
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