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13. 逃避行なんて、人生で経験するとは思わなかったよ
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しばらく二人で逃げていくと、頭上に『Waving Pool』の看板があった。
波のプールにたどり着いたらしい。
「ここで一旦、あっちの人混みに紛れよう」
白宮さんの手を引いて、波のプールへ飛び込む。そして、人をかき分けて人混みの真ん中にたどり着く。
「よし、ここならとりあえず…」
その瞬間、歓声が上がった。
波が襲ってきたのだ。
「うわっ!」
「きゃっ!」
俺は咄嗟に、白宮さんを庇うようにして抱き寄せた。
激しい水の流れが引いていく。
「ご、ごめん…触られるの苦手なのに、こんな触っちゃって」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
俺はあたりを見回し、奴が来ていないことを確認する。
「…クソが」
本来なら、もっと楽しい日になるはずだったのに。
苛立ちが募り、悪態をついてしまった。
「…ごめん。私のせいで」
「違う。あのとき俺も関わってしまったから、俺のせいでもある」
次の波に備えようと、俺たちが体を屈めたその瞬間。
「ヤバい、来やがった!」
逃げようとして、俺たちは波に横から襲われた。
そのまま、倒れ込んでしまう。
浅かったので溺れるには至らなかったものの、胸に顔を埋める形になってしまった。
「ご、ごめん!」
さっきから二人共謝ってばかりだな、と思いながら、俺はラッキースケベを堪能する暇もなく手を引いて駆け出した。
行く先は、男子トイレだ。
適当にこの施設について調べていたときに知っている。ここには、目立たないせいでほとんど使われないトイレが存在する。
到着してみると、本当に人がいない。
見つけづらい位置。公共施設のトイレとしては失格だろうが、今の俺たちにはもってこいだった。
中にも人っ子一人いない。本当に見つかっていないようだった。
「個室に入ろう」
二人で一つの個室に入り、ドアに鍵をかける。
そこでようやく、俺たちは一息つくことができた。
「はぁ…とんだ災難だ」
俺は便器に腰掛けて、大きくため息をついた。
「…あ、座るか?」
「大丈夫。…ありがと」
どうしてこうなってしまったのだろう。
何が原因かと言えば、挙げられる事象は多岐に渡るのだが――いや、やめよう。
考えるだけ、本当に無駄な時間を過ごすことになってしまう。
「これから、どうしよっか」
「そうだな。袋小路だもんな」
見つかっていないという一縷の望みにかけて外へ出るのは流石にリスクが大きい。
かといって、このプールが閉まる時間までここで粘るのも無理がありすぎる。主に俺の理性に。
「…スマホ持ってくりゃよかったかな…」
何を言っても全て、後の祭りになってしまう。
なんだか、思考まで袋小路に追いやられたようだ。
いっそ、トイレの窓から逃げてしまうか――そんな非現実的な考えすら浮かんだ、その時。
足音が、聞こえた。
「……っ!」
俺は唇に人差し指を当て、『静かに』のジェスチャーをとった。
緊張した静寂に、ぱたんぱたんとスリッパの立てる音が響き渡る。
コン、コンと、ドアが鳴る。
ノックされた。他の全ての個室は空いているはずなのに、だ。
(ダメだ…何も言うな!動くな!)
(うん…!)
俺たちは物音を立てないように必死に口を塞ぎ、音を立てた主が去るのを待った。
だがその主は、無情にも口を開いた。
「そこにいるのは、わかっている。誰だか知らんが白宮につきまとっていた男、出てくれば許してやろう」
波のプールにたどり着いたらしい。
「ここで一旦、あっちの人混みに紛れよう」
白宮さんの手を引いて、波のプールへ飛び込む。そして、人をかき分けて人混みの真ん中にたどり着く。
「よし、ここならとりあえず…」
その瞬間、歓声が上がった。
波が襲ってきたのだ。
「うわっ!」
「きゃっ!」
俺は咄嗟に、白宮さんを庇うようにして抱き寄せた。
激しい水の流れが引いていく。
「ご、ごめん…触られるの苦手なのに、こんな触っちゃって」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
俺はあたりを見回し、奴が来ていないことを確認する。
「…クソが」
本来なら、もっと楽しい日になるはずだったのに。
苛立ちが募り、悪態をついてしまった。
「…ごめん。私のせいで」
「違う。あのとき俺も関わってしまったから、俺のせいでもある」
次の波に備えようと、俺たちが体を屈めたその瞬間。
「ヤバい、来やがった!」
逃げようとして、俺たちは波に横から襲われた。
そのまま、倒れ込んでしまう。
浅かったので溺れるには至らなかったものの、胸に顔を埋める形になってしまった。
「ご、ごめん!」
さっきから二人共謝ってばかりだな、と思いながら、俺はラッキースケベを堪能する暇もなく手を引いて駆け出した。
行く先は、男子トイレだ。
適当にこの施設について調べていたときに知っている。ここには、目立たないせいでほとんど使われないトイレが存在する。
到着してみると、本当に人がいない。
見つけづらい位置。公共施設のトイレとしては失格だろうが、今の俺たちにはもってこいだった。
中にも人っ子一人いない。本当に見つかっていないようだった。
「個室に入ろう」
二人で一つの個室に入り、ドアに鍵をかける。
そこでようやく、俺たちは一息つくことができた。
「はぁ…とんだ災難だ」
俺は便器に腰掛けて、大きくため息をついた。
「…あ、座るか?」
「大丈夫。…ありがと」
どうしてこうなってしまったのだろう。
何が原因かと言えば、挙げられる事象は多岐に渡るのだが――いや、やめよう。
考えるだけ、本当に無駄な時間を過ごすことになってしまう。
「これから、どうしよっか」
「そうだな。袋小路だもんな」
見つかっていないという一縷の望みにかけて外へ出るのは流石にリスクが大きい。
かといって、このプールが閉まる時間までここで粘るのも無理がありすぎる。主に俺の理性に。
「…スマホ持ってくりゃよかったかな…」
何を言っても全て、後の祭りになってしまう。
なんだか、思考まで袋小路に追いやられたようだ。
いっそ、トイレの窓から逃げてしまうか――そんな非現実的な考えすら浮かんだ、その時。
足音が、聞こえた。
「……っ!」
俺は唇に人差し指を当て、『静かに』のジェスチャーをとった。
緊張した静寂に、ぱたんぱたんとスリッパの立てる音が響き渡る。
コン、コンと、ドアが鳴る。
ノックされた。他の全ての個室は空いているはずなのに、だ。
(ダメだ…何も言うな!動くな!)
(うん…!)
俺たちは物音を立てないように必死に口を塞ぎ、音を立てた主が去るのを待った。
だがその主は、無情にも口を開いた。
「そこにいるのは、わかっている。誰だか知らんが白宮につきまとっていた男、出てくれば許してやろう」
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