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6. 秘密の等価交換って言うけど、価値は人それぞれだよな
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この学園には、二次元世界で一般的な解放されている屋上なんてものはない。
しかし、その代わりと言ってはなんだが、廊下にやけにデカい窓があって、最上階ともなると住宅街を一望できる。
そしてどういうわけか、その前には机と椅子が並んでいる。
名目としては椅子と机の余剰在庫の保管なのだが、実質的には展望席である。
故に昼頃、最上階は激戦区となり、空席を見つけることは難しい。
食事を終えたらすぐに立ち去らないと周囲からは真っ白な目で見られて、翌日からもなんか冷たい扱いを受ける。
「…らしいぜ」
「あの席そういうことだったのかよ」
俺の言葉に、浜場はうんうんと頷いた。
俺は普段、教室の隅でこっそり一人弁当をしているから知らなかった。
「それでなんだが、人気なのは最上階の4階だけで、3階と2階はあんまり人気がないらしい」
「そりゃ展望でもないところに人は集まらんな」
「そこでだ。次の昼休み、2階の展望席に行かないか?お前、たしかカウンター席好きだろ」
「まぁね」
俺は浜場と近所のファーストフード店に行くと、必ずカウンター席を選ぶ。
理由は無論、壁に向かっていれば裸の女の子を目に入れなくて済むからである。
そうしたら、カウンター席好きということになってしまったらしい。
「よし、決まりだな」
浜場は楽しそうにしていた。
「…なぁ、なんでオレの真後ろを歩くんだ?」
「そういう気分のこともあるだろ」
「いや、無いだろ。…そういや、先生の後ろもよく歩いてるな。まさかお前…」
そこで露骨に溜めを作って、浜場は振り返った。
「後頭部が好きなのか!?」
「なんでそうなるんだ…いや、そういうことにしといてくれると楽かもしれん」
なにせ真の理由は『自分が別世界から来て常識がまるで違うから過ごすのが辛い』という後頭部レベルじゃない狂ったものである。
それと比べれば、俺が後頭部好きになってしまうことなど、些細なことだ。
「…まぁ、人の好みはそれぞれだからな。オレは分かってるぞ、うん。それより、もう着くぞ」
言われて視線を後頭部から外すと、そこには窓に向かって椅子と机が鎮座していた。
座って弁当を広げている奴や、購買で得たパンを片手に談笑している奴がいる。
なんとなく、右端から二番目の席を陣取った。
浜場は俺の左に座った。
「お前が右端行ってくれりゃいいのに。俺左利きだからぶつかるんだよ」
「あ、マジ?それは悪かった、今度からそうする」
言いつつ、包みを解いていくと、右隣の席が音を立てた。
「お隣失礼します」
そこには、白く長い、美しい髪を持った美少女がいた。
「お久しぶりです」
「…久しぶりってほどでもないだろ。2、3週間ってくらいだ」
「それくらい空いたら普通は久しぶりですよ」
白宮さんは呆れたように言う。
なんでもないやり取りだが、彼女はこの間俺の目の前でオナニーをしてみせた女である。
内心、気が気じゃなかった。
「お前…やっぱり白宮さんと親しかったんだな!?」
「…まあ、学年トップのよしみでな」
「勉強すりゃ白宮さんにお近づきになれるのか…」
「なんと不純な…」
白宮さんは再び呆れたように言った。
この短時間で男子2人に対してそれぞれ呆れなければいけない彼女も大変だ。
「んで、なんの用だ?」
「別に用はありませんが、たまにはこういう席に来てみようと思ったら知っている人がいたので、なんとなく」
こともなげに白宮さんが言う。
学園一の美少女とお知り合いになれたということは、きっと男子としてはこの上ない名誉なのだろう。
「…あぁ、でも用事が全く無いわけではないですね。今思い出しました。奥原くん、今の環境には慣れましたか?」
「んー、まぁ、少しずつ…かなぁ。まだまだだけど」
「それなら良かったです。適応できずに不登校になったりしてしまっては、もったいないですから」
「おいおい、何の話だよ」
浜場が割り込んできた。
あんまりここで話せるような話ではないのだが…
どう説明しようか考えていると、白宮さんが口を開いた。
「先日、ちょっとしたトラブルがありまして。そのときに奥原くんに助けていただいたので、そのお礼として人見知りを直すお手伝いをしていました」
「あぁ、なんかそんなこと言ってたな」
俺、くしゃみしただけだけどな。
「しかし、役得だな」
「その言い方は白宮さんに失礼だろ」
「私は構いませんよ。そこの貴方の好感度はきっちりマイナスさせていただきますが」
「待て待て、悪かった!オレは浜場だ」
謝罪ついでに自己紹介をする浜場に、白宮さんは口角を上げた。
その表情が、まさに美少女という感じで少し心拍数が上がった気がした。
「…しかし、人見知りってのは大変だよなぁ。確か、知り合いがいない環境から来たんだっけ?」
「まあ、それもあるんだけどな」
「それだけじゃないってことか?」
「奥原くん、親しい人がいるなら頼っても問題ないと思いますよ」
白宮さんのその言葉で、俺は浜場に自分のおかれている状況を話すと決めた。
「…というわけで、俺は異世界転移したか、もしくは突然頭が狂ったらしい」
「…はぁ…」
放課後の教室で、俺は一切を浜場にぶちまけた。
ちなみに白宮さんが説明の補助として入ってくれたので、だいぶスムーズに説明できたと思う。
…が、浜場は怪訝な顔をして頭を斜めに傾けていた。
「流石に、そう簡単には信じられない話だな…異世界にしろ頭が狂ったにしろ」
「わかる。俺もそう思うし、正直信じたくはない。だけど、現状元の世界に戻ったり正気に戻る方法がわからない以上、俺はこの常識に慣れなきゃいけないんだ」
「嘘はついてなさそうだな、ってのは分かるよ。嘘だとしたらオレたちにぶちまけたところでヤバい奴扱いされるだけだし、すっげぇ必死な感じもするし」
「ひとまず信じてもらえると助かる」
「わかった。それで、オレは何をすりゃいいんだ?」
すんなり頷いてくれた浜場には感謝だ。
「とりあえず、なにかしてくれとは言わない。俺がこういう状況に置かれてることを理解してくれるだけで十分助かる」
「まぁ、慣れるようにする訓練は女子である白宮さんとやったほうがいいだろうしな。わかった。ただ、対価は払ってくれよ」
「対価…おいくらでしょうか…」
「バカ、比喩だよ。勉強教えてくれ」
「まぁ、俺で良ければいいけど」
「交渉成立だな」
こうして、俺の秘密を知る人が増えたのだった。
しかし、その代わりと言ってはなんだが、廊下にやけにデカい窓があって、最上階ともなると住宅街を一望できる。
そしてどういうわけか、その前には机と椅子が並んでいる。
名目としては椅子と机の余剰在庫の保管なのだが、実質的には展望席である。
故に昼頃、最上階は激戦区となり、空席を見つけることは難しい。
食事を終えたらすぐに立ち去らないと周囲からは真っ白な目で見られて、翌日からもなんか冷たい扱いを受ける。
「…らしいぜ」
「あの席そういうことだったのかよ」
俺の言葉に、浜場はうんうんと頷いた。
俺は普段、教室の隅でこっそり一人弁当をしているから知らなかった。
「それでなんだが、人気なのは最上階の4階だけで、3階と2階はあんまり人気がないらしい」
「そりゃ展望でもないところに人は集まらんな」
「そこでだ。次の昼休み、2階の展望席に行かないか?お前、たしかカウンター席好きだろ」
「まぁね」
俺は浜場と近所のファーストフード店に行くと、必ずカウンター席を選ぶ。
理由は無論、壁に向かっていれば裸の女の子を目に入れなくて済むからである。
そうしたら、カウンター席好きということになってしまったらしい。
「よし、決まりだな」
浜場は楽しそうにしていた。
「…なぁ、なんでオレの真後ろを歩くんだ?」
「そういう気分のこともあるだろ」
「いや、無いだろ。…そういや、先生の後ろもよく歩いてるな。まさかお前…」
そこで露骨に溜めを作って、浜場は振り返った。
「後頭部が好きなのか!?」
「なんでそうなるんだ…いや、そういうことにしといてくれると楽かもしれん」
なにせ真の理由は『自分が別世界から来て常識がまるで違うから過ごすのが辛い』という後頭部レベルじゃない狂ったものである。
それと比べれば、俺が後頭部好きになってしまうことなど、些細なことだ。
「…まぁ、人の好みはそれぞれだからな。オレは分かってるぞ、うん。それより、もう着くぞ」
言われて視線を後頭部から外すと、そこには窓に向かって椅子と机が鎮座していた。
座って弁当を広げている奴や、購買で得たパンを片手に談笑している奴がいる。
なんとなく、右端から二番目の席を陣取った。
浜場は俺の左に座った。
「お前が右端行ってくれりゃいいのに。俺左利きだからぶつかるんだよ」
「あ、マジ?それは悪かった、今度からそうする」
言いつつ、包みを解いていくと、右隣の席が音を立てた。
「お隣失礼します」
そこには、白く長い、美しい髪を持った美少女がいた。
「お久しぶりです」
「…久しぶりってほどでもないだろ。2、3週間ってくらいだ」
「それくらい空いたら普通は久しぶりですよ」
白宮さんは呆れたように言う。
なんでもないやり取りだが、彼女はこの間俺の目の前でオナニーをしてみせた女である。
内心、気が気じゃなかった。
「お前…やっぱり白宮さんと親しかったんだな!?」
「…まあ、学年トップのよしみでな」
「勉強すりゃ白宮さんにお近づきになれるのか…」
「なんと不純な…」
白宮さんは再び呆れたように言った。
この短時間で男子2人に対してそれぞれ呆れなければいけない彼女も大変だ。
「んで、なんの用だ?」
「別に用はありませんが、たまにはこういう席に来てみようと思ったら知っている人がいたので、なんとなく」
こともなげに白宮さんが言う。
学園一の美少女とお知り合いになれたということは、きっと男子としてはこの上ない名誉なのだろう。
「…あぁ、でも用事が全く無いわけではないですね。今思い出しました。奥原くん、今の環境には慣れましたか?」
「んー、まぁ、少しずつ…かなぁ。まだまだだけど」
「それなら良かったです。適応できずに不登校になったりしてしまっては、もったいないですから」
「おいおい、何の話だよ」
浜場が割り込んできた。
あんまりここで話せるような話ではないのだが…
どう説明しようか考えていると、白宮さんが口を開いた。
「先日、ちょっとしたトラブルがありまして。そのときに奥原くんに助けていただいたので、そのお礼として人見知りを直すお手伝いをしていました」
「あぁ、なんかそんなこと言ってたな」
俺、くしゃみしただけだけどな。
「しかし、役得だな」
「その言い方は白宮さんに失礼だろ」
「私は構いませんよ。そこの貴方の好感度はきっちりマイナスさせていただきますが」
「待て待て、悪かった!オレは浜場だ」
謝罪ついでに自己紹介をする浜場に、白宮さんは口角を上げた。
その表情が、まさに美少女という感じで少し心拍数が上がった気がした。
「…しかし、人見知りってのは大変だよなぁ。確か、知り合いがいない環境から来たんだっけ?」
「まあ、それもあるんだけどな」
「それだけじゃないってことか?」
「奥原くん、親しい人がいるなら頼っても問題ないと思いますよ」
白宮さんのその言葉で、俺は浜場に自分のおかれている状況を話すと決めた。
「…というわけで、俺は異世界転移したか、もしくは突然頭が狂ったらしい」
「…はぁ…」
放課後の教室で、俺は一切を浜場にぶちまけた。
ちなみに白宮さんが説明の補助として入ってくれたので、だいぶスムーズに説明できたと思う。
…が、浜場は怪訝な顔をして頭を斜めに傾けていた。
「流石に、そう簡単には信じられない話だな…異世界にしろ頭が狂ったにしろ」
「わかる。俺もそう思うし、正直信じたくはない。だけど、現状元の世界に戻ったり正気に戻る方法がわからない以上、俺はこの常識に慣れなきゃいけないんだ」
「嘘はついてなさそうだな、ってのは分かるよ。嘘だとしたらオレたちにぶちまけたところでヤバい奴扱いされるだけだし、すっげぇ必死な感じもするし」
「ひとまず信じてもらえると助かる」
「わかった。それで、オレは何をすりゃいいんだ?」
すんなり頷いてくれた浜場には感謝だ。
「とりあえず、なにかしてくれとは言わない。俺がこういう状況に置かれてることを理解してくれるだけで十分助かる」
「まぁ、慣れるようにする訓練は女子である白宮さんとやったほうがいいだろうしな。わかった。ただ、対価は払ってくれよ」
「対価…おいくらでしょうか…」
「バカ、比喩だよ。勉強教えてくれ」
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