ヒロイン覚醒要員である黒幕お父様の暴走を阻止します 〜死なないために愛嬌を振りまいていたら、不器用な愛情過多がとまりません〜

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ルナキュラスの花畑1

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「さあ、できました。ふふ、最近はこうしてアリアお嬢様をめいいっぱいおめかし出来て嬉しいです」
「シェリーがうれしいと、アリアもうれしい」
「まあ、お嬢様っ」

 きゅん、という効果音が後ろに鳴っていそうな顔をして、シェリーは感極まった様子で震えている。

 私はというと、これからルザークたちと晩餐を共にするということで、ちょっと……いや超がつくほどドキドキしていた。
 場所は本館で、館の主であるクリストファーもいるからだ。

 三日前は騎士団見学、今夜は本館で初めてのディナー。
 ロザリン兄弟が来てからというもの、こうしたプチイベントが次々に起こっていた。

(本館でディナーなんて聞いたときはびっくりしたけど。クリストファーがいいって言ったってことだよね。……ロザリン兄弟がいるから最低限の体裁を考えたのかな)

 なんて疑い深く思ってみたりもしたけれど、あのクリストファーがそんなことをいちいち考えるだろうか。

(執務室で一緒にいるときは愛嬌と媚びを振りまいて、それが身を結んでるなら嬉しいけど)

 一体いつまで続ければいいのだろう。
 そういえばサルヴァドールとは、その先の話をまだ詳しくしていなかった。

(愛嬌を振りまいて振りまいて……心に隙を作って……それで?)
「アリアお嬢様、お迎えですよ」

 ふと思ったことをサルヴァドールに聞こうにも、私以外の誰かがいる状況ではそれも難しい。
 お迎えのジェイドも来たようなので、ひとまず疑問を頭の隅に置き、目先の関門であるディナーに挑むことにした。



 ドキドキの晩餐会は、意外にも緩やかに進んでいた。
 テーブルマナーには欠片の自信もなかったけれど、手先は案外動くもので今のところ粗相の回数もゼロ。

 きっとロザリン兄弟のおかげだ。
 リューカスさんもルザークも丁度いい塩梅で会話を繋げてくれるので、気まずくならないで済んでいる。
 あれ、だけど二人はお客様なのに、むしろこっちが接待されているような扱いはどうなんだろう?

「……そういえば、この辺りにルナキュラスの花畑があるって聞いたんだ。アリアちゃんは見たことある?」
「ルナキュ、ラス……? ううん、ないよ」

 私は口に入れていたデザートのレモンムースをごくりと飲み込んだ。
 ルナキュラスとは、冬の時期に一週間くらいしか咲かない花のことで、別名「願いの花」と呼ばれている。花びら全体が発光する特殊な植物だ。

(ゲームではリデルとギルバートヒーローがお互いに贈りあってたよね)

 だけど私は、実物を見たことがなかった。
 この近くに花畑があるということも知らなかったし。知っていても外出ができないので見に行くのは無理だったけど。

(スチルが綺麗だったから覚えてる……)

 画面越しでもその美しさに見惚れていた。
 月の光に反応して短い開花を迎えるルナキュラの花は、儚くも暖かな光をまとわせ、最後の瞬間まで輝き続ける。

「花畑、キレイなんだろうなぁ」

 前世のスチルを頭に思い浮かべながら、小さく呟く。
 
「…………」
「……? お父様、どうしたの?」

 感じた視線の先には無表情のクリストファーがいる。
 意思の読み取れない顔で私を見ているので、もしや口元にムースでも付けてしまっていたかと急いで確かめた。

(よかった。何も付いてない)

「そう黙って見てやるな。言いたいことがあるなら言ってやればいいだろ」
「……何の話だ?」
「まさか、無自覚だったのか、それ」

 クリストファーに声をかけていたリューカスさんが、おいおいと苦笑いを浮かべている。
 それを何気なしに見ていれば、近くに座るルザークがクスッと笑った。

「よかったね、アリアちゃん」
「え?」

 …………なにが?


 ***


 視界いっぱいに広がる幾多の光。
 そのどれもが眩しい輝きを灯していた。

「――わ」
「わ?」
「わあああああ……!」

 ルナキュラスの花畑に到着して早々、私は目の前の景色に夢中になっていた。
 肌を刺すような寒さも吹き飛ぶくらいに神秘的なルナキュラス。
 時々吹いてくる北風で目を細めてしまうことすら惜しいと感じてしまう。
 
「俺もこんなに広々としたルナキュラスの花畑は初めてだよ。とっても綺麗だね」
「うん、うん! すごく!」
「あはは。よかったねえ」

 スチルだけでも圧巻だったのに、実際の花畑は言葉を失うほど美しい。
 そんないつもの何倍もはしゃいでしまっている私を、ルザークはニコニコと微笑ましそうに見ていた。兄のような、保護者のような眼差しである。

(まさか来れると思わなかったから……本当に、本当に綺麗)

 晩餐会で何気なく出た話題だったのに、クリストファーはルナキュラスの花畑に行くことを許可してくれた。
 何よりもお客様であるリューカスさんやルザークが興味を示していたから、こんなにもあっさり来ることが叶ったのだろう。
 
(こういうの、お客"さまさま"って前世ではいうんだよね)

 花畑も本館からすぐの場所にあった。というか敷地内にあるので私たちのほかに人はおらず完全に独占状態だ。

(……お礼、言いたいな)
「お父様!」

 私は高ぶった気分を抑えきれないまま、敷地内の移動用馬車の前に佇むクリストファーに駆け寄った。

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